後宮にて、あなたを想う

じじ

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94 蔡怜の後悔

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項垂れた様子で部屋に入ってくる蔡怜を見て、部屋で待っていた奏輝は驚いた。

「蔡怜様、薬膳茶会で何かございましたか」

気遣いに溢れた奏輝の言葉すら今の蔡怜には痛く刺さる。

「いえ。薬膳茶会はみんなのおかげでつつがなく終わったわ」
「それはようございました。ではその表情は何故でしょうか」
「私、そんなひどい顔してるかしら」

奏輝は真面目な顔をして頷く。

「ええ。花のかんばせも、美しい着物も霞んでおります」
「ふふふ」

笑うつもりだったにも関わらず、蔡怜は泣いてしまった。
ぎょっとしたのは奏輝の方で慌てて蔡怜に問いただした。

「側妃のどなたかと何かあったのですか?」
「いいえ。みなさん素晴らしい方だったわ」
「それではこちらで何か不備がありましたか」
「いいえ、さっきも言った通りあなた達のお陰で問題なく終わったわ」
「それならなぜお泣きになるのです」
「あのね、奏輝。」
「はい」
「私って自分で思っているよりも遥かに弱くて情けなくて…愚かな人間だったの」

ぽろぽろと涙をこぼしながら言う蔡怜の様子に戸惑いながらも奏輝は静かに聞き役に徹する。

「黄昭様が私の陛下に対する気持ちを知ってらっしゃって…気持ちを隠すのは私自身が傷つきたくないからだ、と仰ったの」
「はい」
「それで私つい、恵まれている黄昭様には私の気持ちなんか絶対わからない、と吐き捨ててしまったの」
「嫉妬でしょうか」

鋭い切れ味の質問に蔡怜はどきっとする。

「ええ。それまで他人の出自を妬んだことなどなかったわ。でも陛下をお慕いしていると自分で気づいてはじめて、私は自分の出自や血筋がたまらなく嫌になったの。黄昭様のような血筋なら何の憂いもなく陛下を堂々とお慕いできるのにって。そしてそんなことを思う自分がたまらなく醜くて嫌だったの」
「それで黄貴妃様は怒ってその場を離れられたんですか」
「いいえ。陛下は私のことを思って下さってると。だから、一人の女性として陛下に向き合え、と仰ったわ」
「それが黄貴妃様の本音でございましょう。本当に大事に思われておいでですね」
「そんな優しい方を傷つけたのに、私は後を追って謝ることすらできなかったわ。本当に自分が嫌になりそうよ」
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