後宮にて、あなたを想う

じじ

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86 薬膳茶会2

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「あら、そうなのですか」

蔡怜が尋ねると姜修儀きょうしゅうぎは答えた。

「はい。楊家が主君でおられたおりに、異民族の尚氏が攻め入ってきたことがございまして…その際、姜家に助力を求められたのがご縁でございます。」

そこまで聞いて蔡怜は思い出した。たしか、見返りに真国の領地や地位が与えられたはずだが、娘の後宮入りは断られていたはずだ、と。
聞くべきかどうか迷った蔡怜だが、今後の妃達の付き合いの上でも知っておいた方が良いと思い、重ねて尋ねる。

「そういえばお聞きしたことがございます。では、現在に至るまでお付き合いがあられるのでしょうか」
「いえ、それが…皇統が莉家に変わられましてより付き合いはありませんでした」

姜修儀は言いにくそうに答えた。そしてそのまま続ける。

「ただ、姜家が真国の民となれたのは楊一族のおかげでございます。もしお会いできたらと思ったのですが」

他意のない姜修儀の様子に、蔡怜は安堵した。
もしや、かつて自分の一族からの後宮入りを拒んだ血筋の娘が、奴隷貴族として後宮入りしてることにかこつけて何かするつもりでは、と一瞬危惧したのだ。

「そうだったのですね。では直接お会いになられたことはないのかしら」
「はい。初日の顔合わせ以外は。今日出会えると思って楽しみにしていたのです」

心底残念そうに姜修儀は答えた。はきはきと受け答えする姿は、おっとり話す女性達の仲で一際凛としている。今日は茶会に合わせて繊細な民族衣装を着ている姜修儀だが、本来胡服などの方が着なれているようだ。
蔡怜は一つの提案をすることにした。

「楊充儀様はあまり大勢の集まりを好まれないようなのです。」

ぱっと視線を逸らせた妃達が数名いるのを見て、蔡怜は苦い気持ちになった。おそらく貴族の集まりの際の楊一族の扱いを知っている者たちだろう。もちろん彼女達が楊充儀を嗤った訳ではないだろうが、自分の出自がどのように扱われているか知っている人間が多数いる場に出て来たくなかった彼女の気持ちは察するにあまりある。
そう思いながら蔡怜は続けた。

「だから、馬で遠駆けなどに誘われてはいかがですか。」
「遠駆けですか」

きょとんとした様子で、姜修儀は問い返した。

「ええ。姜修儀様は馬の扱いがお上手ですよね。一緒に乗せて差し上げては?」
「もちろん、お乗せするくらいわけありませんが…困らせてしまわないでしょうか」
「大丈夫だと思いますよ。私から口添えしてもよろしいですか」

そう言うと姜修儀の顔はぱっと華やいだ。

「ありがとうございます。」
「後宮から出るには陛下の許可が必要です。まずは陛下からお許しを頂いてくださいね」

笑いながら蔡怜が言うと、姜修儀は恥ずかしそうに下を向いた。
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