後宮にて、あなたを想う

じじ

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85 薬膳茶会

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明け方頃ようやく眠りについた蔡怜だったが、日が上りきる直前に奏輝に起こされる羽目になった。

「蔡怜様、今日はもう起きてください!」

眠たい目をこすりながら蔡怜が椅子に座ると、まずは髪を結われ始めた。複雑に結い上げた髪に桜をかたどったかんざしが数本刺されて行く。
髪が終わると化粧だ。普段はほとんどしないが、今日は流石に奏輝も気合いを入れていた。白粉を薄く塗り、眉を三日月型に整え、目尻を薄桃に彩り、紅をひくと西施もかくやという美女が出来上がった。
奏輝もうっとり眺めながら、出てくる言葉はお淑やかにするように、という小言だったので、蔡怜は笑うしかなかった。

薄桃の紗沙を着て、昨日奏輝達が支度を整えてくれた広間へと向かう。
蔡怜が部屋に入る時にはすでに側妃達は席に着いていた。

「皇后様、御成でございます」

女官の声に、それまで談笑していた側妃達がぴたりと黙り、すっと立って頭を垂れる。蔡怜はその中を上座まで進み、席に着くと一声かけた。

「皆様、本日はお集まりいただき誠にありがとうございます。今日は親睦を深めるための会。どうぞ、ゆるりと寛ぎながら春の味覚をお楽しみ下さい。
どうぞ、席にお着きになって」

短い挨拶を終えると蔡怜は、にこりと微笑み側妃達を見渡した。
側妃達は再び席に着くとにこやかに談笑し始めた。

机の上には美しい料理や菓子が所狭しと並べられている。
蛤と筍と菜花の炊き合わせ、川魚の塩焼き、皮を薄桃に染めた饅頭、あさりの酒蒸し、桜をかたどった砂糖菓子に、小鳥や金魚を模した飴細工。
皆思い思いに食べたいものをつまみながら近くの妃達と談笑している。

楊充儀以外は全員出席しているとあって、場は華やかだ。

「楊充儀様はおられないのですね」

誰に聞くというものでもなかったが、そう呟いた修儀姜燦輝きょうさんきの声が皆の耳に届いた瞬間、場の空気が一変した。

和やかな空気は瞬時に張り詰め、皆誰が何を言うか互いに牽制しあっているようですらある。
なにか言わねば、と蔡怜は焦ったが焦るほど頭が真っ白になってしまい、言葉が出てこない。不用意な一言を放ってしまった姜修儀は、居た堪れなさそうに下を向いている。

「姜修儀様のご実家は、楊家とはご縁が深うございますもの。ご欠席であれば当然気になりますよね。」

おっとりと助け舟を出したのは、黄貴妃だった。

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