86 / 159
85 薬膳茶会
しおりを挟む
明け方頃ようやく眠りについた蔡怜だったが、日が上りきる直前に奏輝に起こされる羽目になった。
「蔡怜様、今日はもう起きてください!」
眠たい目をこすりながら蔡怜が椅子に座ると、まずは髪を結われ始めた。複雑に結い上げた髪に桜をかたどったかんざしが数本刺されて行く。
髪が終わると化粧だ。普段はほとんどしないが、今日は流石に奏輝も気合いを入れていた。白粉を薄く塗り、眉を三日月型に整え、目尻を薄桃に彩り、紅をひくと西施もかくやという美女が出来上がった。
奏輝もうっとり眺めながら、出てくる言葉はお淑やかにするように、という小言だったので、蔡怜は笑うしかなかった。
薄桃の紗沙を着て、昨日奏輝達が支度を整えてくれた広間へと向かう。
蔡怜が部屋に入る時にはすでに側妃達は席に着いていた。
「皇后様、御成でございます」
女官の声に、それまで談笑していた側妃達がぴたりと黙り、すっと立って頭を垂れる。蔡怜はその中を上座まで進み、席に着くと一声かけた。
「皆様、本日はお集まりいただき誠にありがとうございます。今日は親睦を深めるための会。どうぞ、ゆるりと寛ぎながら春の味覚をお楽しみ下さい。
どうぞ、席にお着きになって」
短い挨拶を終えると蔡怜は、にこりと微笑み側妃達を見渡した。
側妃達は再び席に着くとにこやかに談笑し始めた。
机の上には美しい料理や菓子が所狭しと並べられている。
蛤と筍と菜花の炊き合わせ、川魚の塩焼き、皮を薄桃に染めた饅頭、あさりの酒蒸し、桜をかたどった砂糖菓子に、小鳥や金魚を模した飴細工。
皆思い思いに食べたいものをつまみながら近くの妃達と談笑している。
楊充儀以外は全員出席しているとあって、場は華やかだ。
「楊充儀様はおられないのですね」
誰に聞くというものでもなかったが、そう呟いた修儀姜燦輝の声が皆の耳に届いた瞬間、場の空気が一変した。
和やかな空気は瞬時に張り詰め、皆誰が何を言うか互いに牽制しあっているようですらある。
なにか言わねば、と蔡怜は焦ったが焦るほど頭が真っ白になってしまい、言葉が出てこない。不用意な一言を放ってしまった姜修儀は、居た堪れなさそうに下を向いている。
「姜修儀様のご実家は、楊家とはご縁が深うございますもの。ご欠席であれば当然気になりますよね。」
おっとりと助け舟を出したのは、黄貴妃だった。
「蔡怜様、今日はもう起きてください!」
眠たい目をこすりながら蔡怜が椅子に座ると、まずは髪を結われ始めた。複雑に結い上げた髪に桜をかたどったかんざしが数本刺されて行く。
髪が終わると化粧だ。普段はほとんどしないが、今日は流石に奏輝も気合いを入れていた。白粉を薄く塗り、眉を三日月型に整え、目尻を薄桃に彩り、紅をひくと西施もかくやという美女が出来上がった。
奏輝もうっとり眺めながら、出てくる言葉はお淑やかにするように、という小言だったので、蔡怜は笑うしかなかった。
薄桃の紗沙を着て、昨日奏輝達が支度を整えてくれた広間へと向かう。
蔡怜が部屋に入る時にはすでに側妃達は席に着いていた。
「皇后様、御成でございます」
女官の声に、それまで談笑していた側妃達がぴたりと黙り、すっと立って頭を垂れる。蔡怜はその中を上座まで進み、席に着くと一声かけた。
「皆様、本日はお集まりいただき誠にありがとうございます。今日は親睦を深めるための会。どうぞ、ゆるりと寛ぎながら春の味覚をお楽しみ下さい。
どうぞ、席にお着きになって」
短い挨拶を終えると蔡怜は、にこりと微笑み側妃達を見渡した。
側妃達は再び席に着くとにこやかに談笑し始めた。
机の上には美しい料理や菓子が所狭しと並べられている。
蛤と筍と菜花の炊き合わせ、川魚の塩焼き、皮を薄桃に染めた饅頭、あさりの酒蒸し、桜をかたどった砂糖菓子に、小鳥や金魚を模した飴細工。
皆思い思いに食べたいものをつまみながら近くの妃達と談笑している。
楊充儀以外は全員出席しているとあって、場は華やかだ。
「楊充儀様はおられないのですね」
誰に聞くというものでもなかったが、そう呟いた修儀姜燦輝の声が皆の耳に届いた瞬間、場の空気が一変した。
和やかな空気は瞬時に張り詰め、皆誰が何を言うか互いに牽制しあっているようですらある。
なにか言わねば、と蔡怜は焦ったが焦るほど頭が真っ白になってしまい、言葉が出てこない。不用意な一言を放ってしまった姜修儀は、居た堪れなさそうに下を向いている。
「姜修儀様のご実家は、楊家とはご縁が深うございますもの。ご欠席であれば当然気になりますよね。」
おっとりと助け舟を出したのは、黄貴妃だった。
1
お気に入りに追加
139
あなたにおすすめの小説
《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。
友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」
貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。
「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」
耳を疑いそう聞き返すも、
「君も、その方が良いのだろう?」
苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。
全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。
絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。
だったのですが。
側妃、で御座いますか?承知いたしました、ただし条件があります。
とうや
恋愛
「私はシャーロットを妻にしようと思う。君は側妃になってくれ」
成婚の儀を迎える半年前。王太子セオドアは、15年も婚約者だったエマにそう言った。微笑んだままのエマ・シーグローブ公爵令嬢と、驚きの余り硬直する近衛騎士ケイレブ・シェパード。幼馴染だった3人の関係は、シャーロットという少女によって崩れた。
「側妃、で御座いますか?承知いたしました、ただし条件があります」
********************************************
ATTENTION
********************************************
*世界軸は『側近候補を外されて覚醒したら〜』あたりの、なんちゃってヨーロッパ風。魔法はあるけれど魔王もいないし神様も遠い存在。そんなご都合主義で設定うすうすの世界です。
*いつものような残酷な表現はありませんが、倫理観に難ありで軽い胸糞です。タグを良くご覧ください。
*R-15は保険です。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
最愛の側妃だけを愛する旦那様、あなたの愛は要りません
abang
恋愛
私の旦那様は七人の側妃を持つ、巷でも噂の好色王。
後宮はいつでも女の戦いが絶えない。
安心して眠ることもできない後宮に、他の妃の所にばかり通う皇帝である夫。
「どうして、この人を愛していたのかしら?」
ずっと静観していた皇后の心は冷めてしまいう。
それなのに皇帝は急に皇后に興味を向けて……!?
「あの人に興味はありません。勝手になさい!」
『別れても好きな人』
設樂理沙
ライト文芸
大好きな夫から好きな女性ができたから別れて欲しいと言われ、離婚した。
夫の想い人はとても美しく、自分など到底敵わないと思ったから。
ほんとうは別れたくなどなかった。
この先もずっと夫と一緒にいたかった……だけど世の中には
どうしようもないことがあるのだ。
自分で選択できないことがある。
悲しいけれど……。
―――――――――――――――――――――――――――――――――
登場人物紹介
戸田貴理子 40才
戸田正義 44才
青木誠二 28才
嘉島優子 33才
小田聖也 35才
2024.4.11 ―― プロット作成日
💛イラストはAI生成自作画像
貴方に側室を決める権利はございません
章槻雅希
ファンタジー
婚約者がいきなり『側室を迎える』と言い出しました。まだ、結婚もしていないのに。そしてよくよく聞いてみると、婚約者は根本的な勘違いをしているようです。あなたに側室を決める権利はありませんし、迎える権利もございません。
思い付きによるショートショート。
国の背景やらの設定はふんわり。なんちゃって近世ヨーロッパ風な異世界。
『小説家になろう』様・『アルファポリス』様に重複投稿。
後宮の記録女官は真実を記す
悠井すみれ
キャラ文芸
【第7回キャラ文大賞参加作品です。お楽しみいただけましたら投票お願いいたします。】
中華後宮を舞台にしたライトな謎解きものです。全16話。
「──嫌、でございます」
男装の女官・碧燿《へきよう》は、皇帝・藍熾《らんし》の命令を即座に断った。
彼女は後宮の記録を司る彤史《とうし》。何ものにも屈さず真実を記すのが務めだというのに、藍熾はこともあろうに彼女に妃の夜伽の記録を偽れと命じたのだ。職務に忠実に真実を求め、かつ権力者を嫌う碧燿。どこまでも傲慢に強引に我が意を通そうとする藍熾。相性最悪のふたりは反発し合うが──
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる