後宮にて、あなたを想う

じじ

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83 貴妃と侍女

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その日の晩、蔡怜のもとを下がった奏輝はその足で、黄貴妃の元へと向かった。

「失礼いたします。蔡皇后の侍女の奏輝でございます。夜分に申し訳ございませんが、黄貴妃様にお取り継ぎ願えないでしょうか」
「侍女はみんな下がったわ。どうぞ入ってらして。」

黄貴妃本人が出迎えてくれたことに驚きながら奏輝は一通りの挨拶を述べようとすると、黄貴妃に止められた。

「大丈夫よ。それより早く入ってらして。何か相談ごとがあったのでしょう?」

話の早い貴妃に感謝しながら奏輝は早速本題に入った。

「あの、陛下と蔡怜様のことなのですが」
「ええ。」
「蔡怜様はご自分のお気持ちにはお気づきになられました」

告げると、貴妃は面白そうに目を輝かせた。

「あなた、すごいわね。蔡怜様はあのような容姿であたりも柔らかいけれど、実は頑固なところがおありのようだから、お認めになるまで、まだかかると思っていたのだけれど」
「代わりに追い込むように問い詰めてしまいました」

しょんぼりと奏輝が白状すると、鈴を転がすような笑い声を貴妃はたてた。

「なるほど。あなたの方が一枚上手だったのね」
「黄貴妃様と陛下の様子を見て心を痛めておられましたので」

恨み言にならないようにさらりと付け加えると、貴妃は嬉しそうに微笑んだ。

「良かったわ。私の下手な芝居も少しは役に立ったようね。あの後、陛下に恨み言を言われたの。あなたにまで咎められなくて良かったわ。」

さっぱりした貴妃の対応に、半ば確信を持ちながら奏輝は尋ねた。

「今日、陛下から蔡怜様は美しい砂糖菓子の贈り物を頂かれました。あちらも貴妃様の差金でしょうか」
「あら。やっと贈りものしたのね。まあ、差金というか、忠告かしら。気のある女人には贈りものの一つくらいしなさいな、とね」
「左様でございましたか」
「でも、砂糖菓子ね」

くくく、と笑いを噛み殺す貴妃を訝しげに奏輝が見つめると、その視線に気づいた貴妃が説明し出した。

「私がね、女人は甘いものを好きな方が多いから菓子を勧めたの。特に砂糖菓子は色目も細工も美しい物があるし。」
「そうでございますね」
「よほど蔡怜様の気をひきたいのね。贈りもので失敗したくないなんて。大丈夫よ、あの二人なら」

自信あり気に告げる貴妃に感謝の念を抱きつつ、奏輝はもう一つの懸念を貴妃に話した。

「ただ、今後のことを話したいと陛下が仰られた途端、落ち込まれまして」
「あら。」
「おそらく、後宮の謎が解けた後の身の振り方についての話が出るからだと思うのですが」
「そのまま、皇后で良いじゃない。」
「そのあたりがなんとも。ご本人は仮初だと思われておりますし。陛下から具体的に身分を保証されている訳でもございませんので」
「あら、陛下もだめね」

おっとり皇帝を断罪する姿を見て、奏輝はふっと気持ちが軽くなるのを感じた。
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