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79 質問
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「ありがとうございます」
丁寧に礼を述べ、蔡怜は弦陽に質問を始めた。
「陳家では律佳様と親しくお話しされたことがおありだったのでしょうか」
「いえ、陳家にいた時の彼女とはほとんど話す機会などございませんでした」
「ではただ遠くから見ている関係だった、と?」
「お恥ずかしい話ですが…ただ、彼女のことが気になるようになったきっかけはあることをみてしまったからなのです」
持って回ったような言い方に蔡怜は首を傾げて尋ねた。
「あることとは?」
一瞬言い淀んだ後に弦陽は話し出した。
「亡くなられた方を悪く言うつもりはございませんが、その水月様と湖月様が彼女に嫌がらせをしている場面を見てしまいまして」
「まあ。」
「今思い出しても気分の悪くなるようなものでした。」
「それは…」
「彼女が入れたお茶がまずい、と言って二人で彼女にかけたのです。幸い火傷するような温度ではなかったようですが…おそらく姉妹も他人がいるとは思わず、そのようなことをしたのだとは思いますが。」
客人に見られてる、しかも自分の思い人が見ているのを承知でそのようなことをやっていればただの馬鹿だ、そう思いながら蔡怜も頷いた。
「ええ。それで弦陽様がお止めになられたのでしょうか」
そう聞いた瞬間、弦陽はなんとも言えない表情になった。懐かしむような照れるような表情に、蔡怜は違和感を覚えた。
「どうかなさいましたか」
訝しげに聞くと、弦陽は後頭部に手をやりながら苦笑いして答えた。
「いえ、それが…止めに入ろうとした瞬間、後ろから肩を叩かれまして。振り返ると陳家の侍女の方がおられました。」
「まあ」
「それで手出しをするな、と言われまして」
「なぜでしょう」
「彼女が言うには、女性同士の諍いの仲裁に男性が入ると碌なことにならないそうです。」
「なるほど、一理ありますね」
「それで、その彼女がそのまま三人の元へいき、その場をおさめていました。」
「その方はどなただったのでしょう」
「さあ。私も何度か陳家は訪れておりますが、ほとんどお見かけしたことがありませんでしたし…と言ってもお嬢様方付きであれば当然ではございますが。」
「そうですか」
「ただ、とても美しい方でした。」
「とても美しい?」
弦陽の口から出るとは思わなかった言葉に思わず聞き返す。
「ええ。あまり他人の容姿に頓着する方ではないのですが、その女人は美しい方でした。」
「お名前などご存知でしょうか」
「いえ、それは…ただ、漆黒の髪に透き通るような肌が印象深い方でした。」
丁寧に礼を述べ、蔡怜は弦陽に質問を始めた。
「陳家では律佳様と親しくお話しされたことがおありだったのでしょうか」
「いえ、陳家にいた時の彼女とはほとんど話す機会などございませんでした」
「ではただ遠くから見ている関係だった、と?」
「お恥ずかしい話ですが…ただ、彼女のことが気になるようになったきっかけはあることをみてしまったからなのです」
持って回ったような言い方に蔡怜は首を傾げて尋ねた。
「あることとは?」
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「まあ。」
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「それは…」
「彼女が入れたお茶がまずい、と言って二人で彼女にかけたのです。幸い火傷するような温度ではなかったようですが…おそらく姉妹も他人がいるとは思わず、そのようなことをしたのだとは思いますが。」
客人に見られてる、しかも自分の思い人が見ているのを承知でそのようなことをやっていればただの馬鹿だ、そう思いながら蔡怜も頷いた。
「ええ。それで弦陽様がお止めになられたのでしょうか」
そう聞いた瞬間、弦陽はなんとも言えない表情になった。懐かしむような照れるような表情に、蔡怜は違和感を覚えた。
「どうかなさいましたか」
訝しげに聞くと、弦陽は後頭部に手をやりながら苦笑いして答えた。
「いえ、それが…止めに入ろうとした瞬間、後ろから肩を叩かれまして。振り返ると陳家の侍女の方がおられました。」
「まあ」
「それで手出しをするな、と言われまして」
「なぜでしょう」
「彼女が言うには、女性同士の諍いの仲裁に男性が入ると碌なことにならないそうです。」
「なるほど、一理ありますね」
「それで、その彼女がそのまま三人の元へいき、その場をおさめていました。」
「その方はどなただったのでしょう」
「さあ。私も何度か陳家は訪れておりますが、ほとんどお見かけしたことがありませんでしたし…と言ってもお嬢様方付きであれば当然ではございますが。」
「そうですか」
「ただ、とても美しい方でした。」
「とても美しい?」
弦陽の口から出るとは思わなかった言葉に思わず聞き返す。
「ええ。あまり他人の容姿に頓着する方ではないのですが、その女人は美しい方でした。」
「お名前などご存知でしょうか」
「いえ、それは…ただ、漆黒の髪に透き通るような肌が印象深い方でした。」
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