後宮にて、あなたを想う

じじ

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75 蔡怜の溜め息

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「はあ…」

黄昭が皇帝と共に部屋を去って四半刻。未だ先程の光景が瞼の裏にちらついては離れず、もう何度目かも分からない溜め息を蔡怜はついた。

自分は仮初の皇后だ、後宮の憂いごとが払拭されれば用無しだ、と分かっているのに、優しい皇帝の態度に喜び、黄昭に手を取られた皇帝の姿に微かな嫉妬を覚える自分がもどかしい。

「蔡怜様、大丈夫ですか」

ぼんやりしたまま蔡怜がまた溜め息をつくと、さすがに見かねた奏輝が声をかけた。

「え?ええ。どうして」

照れ隠しのつもりで言った言葉だったが、侍女はそうは取らなかった。

「どうしてって…蔡怜様、お気付きでなければ申し上げますが、お二人が退室なさって四半刻。絶え間なくずーっと溜め息をついておられますよ。」
「まあ」
「溜め息の原因は、黄貴妃様が陛下のお手をお取りになられたことですか?それとも陛下がその手を振り払われなかったことですか」
「…」
「蔡怜様。このようなことを申し上げるのは心が痛みますが、敢えて言わせていただきます。」
「なにかしら」
「お忘れかもしれませんが、ここは後宮ですよ。お二人の行動はなんら不自然ではございません。」
「でも、黄昭様は私とお会いしていたのに、陛下を優先されたわ。陛下も私への用事だったはずなのに、黄昭様とお帰りになられた」

率直な思いを口に出した瞬間、しかし奏輝にぴしゃりと言い返された。

「だからここは後宮だと申し上げているのです。後宮で最も大切なことは陛下の寵愛を得ることです。今回のお妃様方の後宮入りは特殊な事情が絡んでいるとはいえ、憂いが取り除かれれば皆、陛下の寵愛を奪い合うことになるでしょう。貴妃様が陛下の気を引くために手を取られたとしても不思議ではございません。それに陛下も貴妃様が高位の側妃であられる以上、理由もなく手を振り払うことなどなさいませんよ。」
「…」
「黄貴妃様に対してか陛下に対してかは存じあげませんが、ご自分を優先していただきたかったなら、しっかりとその旨仰いませんと。お二人とも蔡怜様のことをとても大事に思ってくださっている方達のはずです。声に出せば思いを汲んでくださるのでは?」
「でも、あなたが言った通り黄昭様が陛下の寵愛を得たいのであれば邪魔してしまうことになるし…」

項垂れながら呟いた蔡怜を見て奏輝は、溜め息を吐きそうになった。

「ええ、それが後宮と言う場所ですから。ただし、黄貴妃様が本当に陛下の寵愛を得たいようには私には思えませんでしたが」



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