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73 黄昭の溜め息
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「本気で仰ってるのですか」
問われて蔡怜は悲しげに頷いた。それを見て、黄昭は微かな溜め息を吐く。気まずい空気が流れかけたその時、突如宦官の声が室内に響いた。
「陛下の御成でございます」
蔡怜は黄昭とギョッとして顔を見合わせた。
「蔡怜様、陛下が来られるご予定だったのですか」
小声で咎めるように言われ、蔡怜は勢いよく頭を振った。髪に刺した珊瑚のかんざしがシャラシャラと涼やかな音色をたてる。
「突然すまないな、昨日の件だが…」
言いかけながら入ってきたところで、皇帝は黄昭がいることに気づいたようで、いささか驚いたように足を止めた。
「貴妃がきていたのだな。用件はすぐに終わる。昨日の件だが、明日の正午に王宮の中庭園の東屋でどうだ」
「承知いたしました。」
「王宮までは桂騎に案内させる」
「ありがとうございます」
「ああ。忙しい時にすまなかったな。貴妃も。邪魔をした。」
席を外して離れたところに立っていた貴妃に皇帝が声をかける。
黄貴妃は頭を下げたまま答えた。
「私こそ、陛下がいらっしゃるとは思わず…知らなかったとは失礼いたしました」
「いや、私が思い立って突然尋ねたのだ。謝罪は不要だ。女人同士の楽しみを邪魔したようで私こそすまなかったな」
その言葉を聞いて黄貴妃は顔をあげ、にこりと皇帝に対して微笑みながら言った。
「陛下、申し訳なく思ってくださるのなら今から私とのお時間を少しいただけませんか」
黄貴妃のお願いに驚いた皇帝は一瞬言い淀む。
「しかし、皇后と話していたのだろう。」
「はい。ですが蔡怜様とのお話は概ね終わりました。先ほどは雑談をしていただけでございます。それほど長い時間はかかりませんので、いかがでしょうか。」
「皇后はよいのか」
困ったように問われて蔡怜は戸惑いつつも頷いた。
「え、ええ。黄昭様とのお話は終わりましたので…」
「そうか。」
「では、陛下よろしいですか」
いつもは落ち着いている黄昭の妙にはしゃいだ姿を見ながら蔡怜は複雑な気持ちになった。
「それでは蔡怜様、失礼いたします。薬膳茶会でお会いできるのを楽しみにしております」
「え、ええ。私も楽しみにしております」
呆気に取られたまま蔡怜は二人を見送った。
皇帝の腕に自分の腕を絡めながら去っていった黄昭の姿が目から焼きついて離れない。
「黄貴妃様、皇帝のお手をお取りになっておられましたね」
すぐにでも忘れたいはずの光景を、しかし奏輝は蒸し返した。まさか侍女に八つ当たりするわけにもいかず、蔡怜は苦笑しながら一言返した。
「黄貴妃様は私から見ても美しく魅力的な女人だもの。陛下もお喜びよ、きっと。」
しかし、その声に蔡怜本人ですら気づかない微かな悲しみが含まれていたことに奏輝は気づいた。
問われて蔡怜は悲しげに頷いた。それを見て、黄昭は微かな溜め息を吐く。気まずい空気が流れかけたその時、突如宦官の声が室内に響いた。
「陛下の御成でございます」
蔡怜は黄昭とギョッとして顔を見合わせた。
「蔡怜様、陛下が来られるご予定だったのですか」
小声で咎めるように言われ、蔡怜は勢いよく頭を振った。髪に刺した珊瑚のかんざしがシャラシャラと涼やかな音色をたてる。
「突然すまないな、昨日の件だが…」
言いかけながら入ってきたところで、皇帝は黄昭がいることに気づいたようで、いささか驚いたように足を止めた。
「貴妃がきていたのだな。用件はすぐに終わる。昨日の件だが、明日の正午に王宮の中庭園の東屋でどうだ」
「承知いたしました。」
「王宮までは桂騎に案内させる」
「ありがとうございます」
「ああ。忙しい時にすまなかったな。貴妃も。邪魔をした。」
席を外して離れたところに立っていた貴妃に皇帝が声をかける。
黄貴妃は頭を下げたまま答えた。
「私こそ、陛下がいらっしゃるとは思わず…知らなかったとは失礼いたしました」
「いや、私が思い立って突然尋ねたのだ。謝罪は不要だ。女人同士の楽しみを邪魔したようで私こそすまなかったな」
その言葉を聞いて黄貴妃は顔をあげ、にこりと皇帝に対して微笑みながら言った。
「陛下、申し訳なく思ってくださるのなら今から私とのお時間を少しいただけませんか」
黄貴妃のお願いに驚いた皇帝は一瞬言い淀む。
「しかし、皇后と話していたのだろう。」
「はい。ですが蔡怜様とのお話は概ね終わりました。先ほどは雑談をしていただけでございます。それほど長い時間はかかりませんので、いかがでしょうか。」
「皇后はよいのか」
困ったように問われて蔡怜は戸惑いつつも頷いた。
「え、ええ。黄昭様とのお話は終わりましたので…」
「そうか。」
「では、陛下よろしいですか」
いつもは落ち着いている黄昭の妙にはしゃいだ姿を見ながら蔡怜は複雑な気持ちになった。
「それでは蔡怜様、失礼いたします。薬膳茶会でお会いできるのを楽しみにしております」
「え、ええ。私も楽しみにしております」
呆気に取られたまま蔡怜は二人を見送った。
皇帝の腕に自分の腕を絡めながら去っていった黄昭の姿が目から焼きついて離れない。
「黄貴妃様、皇帝のお手をお取りになっておられましたね」
すぐにでも忘れたいはずの光景を、しかし奏輝は蒸し返した。まさか侍女に八つ当たりするわけにもいかず、蔡怜は苦笑しながら一言返した。
「黄貴妃様は私から見ても美しく魅力的な女人だもの。陛下もお喜びよ、きっと。」
しかし、その声に蔡怜本人ですら気づかない微かな悲しみが含まれていたことに奏輝は気づいた。
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