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69 真夜中の訪問者
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「陛下!」
驚いた蔡怜は思わず叫んでしまった。
「夜中にすまないな。少しだけいいか」
「ええ。ですが奏輝もすでに下がらせておりますし…」
「構わない。すぐに終わる」
「どうぞ。」
蔡怜は一瞬逡巡した後に、部屋に招き入れた。
「これほど遅い時間にお一人で来られるのは初めてですね。急にどうされましたか。」
「いや、特に用事はなかったのだが…いつ来ても良いと言ってもらったからな。あなたの顔を見に来た」
その言葉を聞いて、蔡怜は皇帝の顔をまじまじと思わず見た。
「それは…ありがとうございます」
返す言葉が見つからず思わずお礼を言った蔡怜をきょとんとした目で見た後、皇帝は苦笑した。
「いや、何も礼を言われることはないのだが」
そう言われて、蔡怜も同じように苦笑した。
「それもそうですね。ですが、会いに来て頂いて嬉しいです。陛下、ちょうどご相談したいことがございまして。よろしいですか」
問われた皇帝は鷹揚に頷いた。
「もし可能であれば、弦陽様に二人でお会いしたいのです」
当然すぐに肯定の言葉が返ってくると思っていた蔡怜は、皇帝が思い悩む姿を見てたじろいだ。
「あの、いけなかったでしょうか。桂騎様には会わせていただけましたし、弦陽様には陛下からご依頼の件の一端としてお会いしたいだけなのですが…」
「まあ、桂騎は弟だからな。それにあの時は私もいた。弦陽と会う時、私も居ていいなら構わないが。」
「それは…」
過去の人、過去の事とはいえ、鸚鵡が覚え込むほど水月が弦陽のことを慕っていた事を知られて良いものか分からず、蔡怜は言い淀んだ。
「いや、やはりだめだな。二人きりでは会わせられない。」
「ですが、弦陽様は陛下の忠実な部下であり、私も陛下に真心を込めてお仕えする所存です。要らぬ噂の種になる事をご心配されるのでしたら、庭園の東屋などどうでしょうか。あそこならば開けた場所ですし、どこからでも私達を見る事ができます。」
「それは聞かれたくない内容を話すということか?」
「ええ。ですが、それは私が聞かれたくない内容ではありません。」
「つまり、弦陽のためだと?」
「はい。」
皇帝は黙って考え込んだ。そして顔を上げると真剣な眼差しで蔡怜に告げた。
「奏輝を側に置いた状態でなら許す。彼女は君の忠実な侍女だろう」
蔡怜はその言葉を聞いて、にこりと微笑み答えた。
「ありがとうございます。」
「弦陽にはいつ会いたい」
「明後日にでも」
「分かった。追って時間と場所は伝える」
そう言うと皇帝はすっと立ち上がった。
「もうお帰りになるのですか」
不思議そうに蔡怜が尋ねると皇帝は困ったように笑いながら言った。
「いや、まあな。あなたの顔を見に来ただけのつもりだったが…まさか他の男に会うための橋渡しをさせられるとは思わなかったよ」
「陛下そのようなご冗談を」
蔡怜は笑って答えたが、皇帝は肩をすくめて部屋を去っていった。
驚いた蔡怜は思わず叫んでしまった。
「夜中にすまないな。少しだけいいか」
「ええ。ですが奏輝もすでに下がらせておりますし…」
「構わない。すぐに終わる」
「どうぞ。」
蔡怜は一瞬逡巡した後に、部屋に招き入れた。
「これほど遅い時間にお一人で来られるのは初めてですね。急にどうされましたか。」
「いや、特に用事はなかったのだが…いつ来ても良いと言ってもらったからな。あなたの顔を見に来た」
その言葉を聞いて、蔡怜は皇帝の顔をまじまじと思わず見た。
「それは…ありがとうございます」
返す言葉が見つからず思わずお礼を言った蔡怜をきょとんとした目で見た後、皇帝は苦笑した。
「いや、何も礼を言われることはないのだが」
そう言われて、蔡怜も同じように苦笑した。
「それもそうですね。ですが、会いに来て頂いて嬉しいです。陛下、ちょうどご相談したいことがございまして。よろしいですか」
問われた皇帝は鷹揚に頷いた。
「もし可能であれば、弦陽様に二人でお会いしたいのです」
当然すぐに肯定の言葉が返ってくると思っていた蔡怜は、皇帝が思い悩む姿を見てたじろいだ。
「あの、いけなかったでしょうか。桂騎様には会わせていただけましたし、弦陽様には陛下からご依頼の件の一端としてお会いしたいだけなのですが…」
「まあ、桂騎は弟だからな。それにあの時は私もいた。弦陽と会う時、私も居ていいなら構わないが。」
「それは…」
過去の人、過去の事とはいえ、鸚鵡が覚え込むほど水月が弦陽のことを慕っていた事を知られて良いものか分からず、蔡怜は言い淀んだ。
「いや、やはりだめだな。二人きりでは会わせられない。」
「ですが、弦陽様は陛下の忠実な部下であり、私も陛下に真心を込めてお仕えする所存です。要らぬ噂の種になる事をご心配されるのでしたら、庭園の東屋などどうでしょうか。あそこならば開けた場所ですし、どこからでも私達を見る事ができます。」
「それは聞かれたくない内容を話すということか?」
「ええ。ですが、それは私が聞かれたくない内容ではありません。」
「つまり、弦陽のためだと?」
「はい。」
皇帝は黙って考え込んだ。そして顔を上げると真剣な眼差しで蔡怜に告げた。
「奏輝を側に置いた状態でなら許す。彼女は君の忠実な侍女だろう」
蔡怜はその言葉を聞いて、にこりと微笑み答えた。
「ありがとうございます。」
「弦陽にはいつ会いたい」
「明後日にでも」
「分かった。追って時間と場所は伝える」
そう言うと皇帝はすっと立ち上がった。
「もうお帰りになるのですか」
不思議そうに蔡怜が尋ねると皇帝は困ったように笑いながら言った。
「いや、まあな。あなたの顔を見に来ただけのつもりだったが…まさか他の男に会うための橋渡しをさせられるとは思わなかったよ」
「陛下そのようなご冗談を」
蔡怜は笑って答えたが、皇帝は肩をすくめて部屋を去っていった。
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