後宮にて、あなたを想う

じじ

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65 皇后と深夏燕

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正午ぴったりに夏燕かえんはやってきた。

「皇后様、楊充儀様付きの侍女で深夏燕と申します。お呼びと伺い参りました。」
「忙しい時にごめんなさいね。」
「いえ。お気遣いありがとうございます。」
「早速本題に入ってよいかしら」
「はい。」
「あなたの前の主人の湖月様のことなのだけれど」
「はい。どのようなことでしょうか」
「湖月様はあなたにとってどのような方に見えたかしら」
「ご性格をおっしゃってるのでしたら、恐れながらお噂通りの方、としか…」
「そう。それなら、あなたもさぞかし苦労したことでしょうね」
「いえ。私は怒鳴られることも少なかったですから」
「そう。あのね、本題に入る前に少しあなたのことでお願いがあるのだけれど、よろしいかしら」

聞きながら蔡怜は自分に驚いた。今までなら絶対に自ら望んで厄介ごとに首を突っ込むことなどしなかった。それなのに今では、後宮に住む人たちが少しでも暮らしやすくあって欲しいと願っている自分がいる。

「どのようなことでしょうか」

さっと身構えるように答えた夏燕を見て、蔡怜は彼女の心の傷の深さを思った。
湖月のそばに仕えていた時、さぞかし返答には気を遣ったのだろう。返答の内容が主人の気に沿うものでなければ、その後辛く当たられることがわかっているのだから。

「あのね、すぐには難しいかもしれないけれど、充儀様をもっと信頼してあげてほしいの」
「それは…」
「差し出がましいのは分かってるのだけれど…湖月様と楊充儀様は全くの別人よ。お人柄も全く違うはず。あなたが主人の機嫌を損ねないように警戒するのはとても分かるわ。でも、もう少し心を開いてあげて欲しいの」
「皇后様、私のような者まで気にかけていただきありがとうございます。心無いご対応を充儀様にしたつもりはなかったのですが、ご不快にさせていたようでございます。」

淡々と述べる夏燕に、蔡怜はもう一押しすることにした。このままでは充儀と侍女の距離感は変わらずにお互い辛いだろう。

「誤解しないでね。充儀様はあなたのことを心配して話されたのよ。あなたのことをとても大切に思っておられるわ。」
「はい」
「あなたを傷つける質問は許さない、と言った表情をされていましたから。いざとなれば自分より身分が上の者にでも立ち向かわれると思うわ。」
「…はい。」
「もちろん最終的にはあなたの気持ち次第だとは思うんだけれど。湖月様と切り離して考えてみてね」
「ええ。ありがとうございます。」

ようやくぎこちない笑みを見せた夏燕に、蔡怜もにこりと優しく微笑みかけた。

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