後宮にて、あなたを想う

じじ

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64 翌朝

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「おはようございます、蔡怜様。あの後はよくお休みになられましたか?」

奏輝に明るく朝の挨拶をされて、蔡怜はもぞもぞしながら起き出した。

「おはよう、奏輝。ありがとう、ゆっくり眠れたわ」
「それはよかったです。あ、そういえばお部屋を下がらせていただいた後、寝付けなくて少し散歩しておりましたら、黄貴妃様に出会いました。」
「あら、そうなの?何かおっしゃっていた?」
「いえ、特別なことは何も。挨拶だけさせていただきました」

蔡怜はおやっと思った。この有能な侍女が、このような抽象的な報告をすることは珍しい。相手が黄貴妃のような、側妃の中でも位が高く、気を遣わなければならない相手ならば尚更だ。本来なら蔡怜に恥をかかさないよう、挨拶や会話の詳細を伝えてくるはずなのにそれがない。

「奏輝、何かあった?」
「いえ、特に何もございませんが…なぜでしょうか。」
「そう?なら良いのだけれど」

何か隠しているように感じたが、話す気配が感じられず、早々に蔡怜は問いただすのを諦めた。この侍女のことだ。本当に隠していて問題になるようなことではないだろう。そう結論づけた蔡怜は話題を変えることにした。

「ところで、今日は夏燕かえんさんに会うとして、その後の私の予定ってどんな感じだったかしら。」

入宮してから様々な人と出会い、目がまわる忙しさだった蔡怜は、今後の心づもりのために奏輝に尋ねた。
聞かれた奏輝は話題が変わったことをほっとした様子で、答える。

「そうですね。入っている予定でいえば五日後の薬膳茶会くらいでしょうか。概ね手配はできておりますので、あとは当日の用意だけでございます。」
「分かったわ、ありがとう。ということはそれまではゆっくりできるわね」

久しぶりにゆっくりできると思った蔡怜がはしゃいだ声で奏輝に言ったところ、奏輝から静かに見つめられた。

「あら、だめだったかしら」

他になにかやることでもあっただろうか、内心首を傾げた蔡怜に奏輝は無情にも告げた。

「蔡怜様。蔡怜様が入宮してからお忙しかった理由のほとんどは突発的に入ったご用事ばかりです。残念ですが、あまり期待なさらない方がよろしいかと。」
「また、あなたはそんなことを…」

奏輝の言葉に蔡怜が反論しようとした時、奏輝はぼそっと告げた。

「貴妃様と修媛様に明日、ご説明なさらなくて良いのですか?」

一瞬キョトンとした蔡怜だが次の瞬間に思い出した。

「そういえば、私、夏燕さんのお話聞く時にお二人もどうかって誘ってた…」
「ええ。ですが充儀様は、夏燕さんが多くのお妃様方に囲まれるのを喜ばれるとは思いません。ですから、かえってお二人をお呼びしなくてよかったとは思います。ですが、お誘いしている以上、できるだけ早く言い訳…いえ、ご説明された方がよろしいのでは?」
「はい…そうでした。明日で調整お願いします。」

がっくり頭を落として蔡怜は奏輝に告げた。


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