後宮にて、あなたを想う

じじ

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58 皇帝の意志

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「二つある」
「一つ目は姉上様とご夫君が互いに慕っておられるからですよね。」
「そうだ」
「もう一つは何でしょうか」
「楊一族を通常の貴族と同列にするためだ。」
「つまり、奴隷貴族ではなくなると」
「そもそも、その布石としての意味合いもあったから姉上が嫁ぐのを容認した」
「でも、楊家の通常貴族への格上げは現在の皇家である莉家にとって望ましくないのでは?」
「ああ。だが、楊家は莉家に皇統を譲った際に無用な争いを避けた。本来ならしかるべき爵位でもって迎えるのが当然であるにも関わらず、皇位の奪還を恐れた莉家の先祖が奴隷貴族にしてしまったのだ。それを私の代で清算したい。」
「そうだったのですね」
「なんだ腑に落ちないと言った顔だな。」
「いえ。ただ…」
「皇家の人間が楊家に辛く当たられる理由は、おそらく妊娠できないせいだけじゃない」

ぼそりと言った皇帝に蔡怜はハッとして聞いた。

「私、顔に出てしまってましたか。」
「まあ、出ていなくでも分かる。
おそらくあなたが考えていることはこうだ。
莉家が楊家を奴隷貴族から引き上げるために、皇家の姫を楊家に嫁がせた。それなら、楊家は莉家に感謝こそすれ、その一族の姫を冷遇する理由が分からない、とな。」
「はい。子を成すことが引き上げの条件であるならまだしもそうではないのですよね」
「ああ。」
「それでしたら何故…姉上様は聡明な方だと伺いました。お人柄で不興を買うこともございませんでしょうに」
「そうだな。おそらくもっと単純なことだ。」
「とおっしゃいますと」
「その前に一つ聞きたい。琉麗から奴隷貴族のことをどのように聞いた?」
「貴族の集まりがあった際に、一族から一名は必ず参加すると。招待を受けておきながら欠席はできぬ立場であったとお聞きしました。」
「他には?」
「その場で楊一族を待っているのは、嘲笑であった、と」
「ああ。つまり、そう言うことだ。
楊一族は、奴隷貴族に落とした莉家を恨んでいる。しかし、莉家に直接楯突くことはできない。そんな時に、出自の低い母を持つ莉家の姫が嫁いできたんだ。積りに積もった恨みを姉上にぶつけているのだろう」
「ご存知だったのですか」
「いや、先ほども言ったとおり、書簡には何も書かれていなかったからな。ただ、起こり得ぬことではないと考えていた」
「どうなさるおつもりですか」
「静観する」
「そんな…」
「姉上から直接助けを乞われたならまだしも琉麗の一存だろう。いま無理やり楊一族から姉上を離縁させたら、貴族への引き上げができなくなる。姉上もそれが分かっているからこそ、耐えてくれているのだ」
「しかし…」
「悪いがこの件についてはここまでだ」
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