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56 蔡怜の依頼
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「ありがとうございます。私ばかりお願いごとをしてしまい申し訳ございません。
皇后様のお話なさりたい件、お聞きしてもよろしいでしょうか」
「ええ。突然で申し訳ないのだけれど、近いうちにあなたの侍女と会いたいと思いまして。」
「私の侍女…深夏燕でしょうか」
「ええ。」
「それは構いませんが、何かございましたか」
「深夏燕さんにお聞きしたいことがありまして。湖月様に仕えていた方だと聞きしましたので」
「承知しました。夏燕はとてもよく気のつく侍女ですが…湖月様の下で仕えるのは大変だったのでしょう。私にもあまり心を開きません。至らぬ点もあるかもしれませんが、どうか優しくしてやってください。」
侍女を大切に思いやる楊充儀に、蔡怜は深く頷いた。
「ええ。分かりました。ご心配でしたら楊充儀様もご同席頂いて構いませんよ」
「いいえ。皇后様は信頼できるお方。そのお言葉だけで充分でございます。夏燕と会われるのはいつになさいますか」
「早いとありがたいのだけれど…」
「では、明日でいかがでしょうか」
「ええ。お願いします」
話もひと段落ついたところで、楊充儀は暇を告げた。
楊充儀を見送った後、蔡怜はバタンと寝台に倒れ込んだ。
遠くから奏輝の注意する声が聞こえる。
うつらうつらとしかけたところに突然、奏輝の声が響いた。
「蔡怜様!起きてください。お休みになるなら、衣服を着替えていただきませんと」
年はさして自分と変わらないのに、母のような侍女だと思いながら蔡怜は返事した。
「ねえ、奏輝。深夏燕さんと明日会うのだけれど、彼女ってどんな方」
「うーん。そうですね。頭の良い女性ですよ。物事の道理もわきまえておいででしたし。だからこそ、湖月様の下でも仕えられたのではないかと。」
「楊充儀様が心を開かないようだ、と」
「それはそうでございましょう」
「なぜ。彼女は夏燕さんのことを心配していたわ。」
「ええ。楊充儀様のせいではなく…湖月様の下に仕えていた時、彼女は湖月様の一挙手一投足に常に怯えていたと思います。
なにせ、湖月様は気分次第で侍女への接し方を変えると有名でしたから。その中でも夏燕さんは、湖月様のお気に入りで、常に側に置かれておりました。裏を返せば彼女は気の抜ける瞬間がなかったのです。
楊充儀様は優しい方だと思います。ですが、夏燕さんは湖月様の時のことを思い出して、深入りされないようにしているのではないかと。」
「うーん。難しいわね」
「人の心ですからね」
嗜めるように言った奏輝を見つめながら、蔡怜は楊充儀との約束をはたと思い出した。
「あ、奏輝。今晩、陛下にお会いしたいのだけれど…」
「蔡怜様からのお誘いとは珍しいですね。陛下が喜ばれるのが目に浮かぶようです」
からかうような笑みを浮かべて、お伝えしてきます、の一言とともに侍女は去っていった。
皇后様のお話なさりたい件、お聞きしてもよろしいでしょうか」
「ええ。突然で申し訳ないのだけれど、近いうちにあなたの侍女と会いたいと思いまして。」
「私の侍女…深夏燕でしょうか」
「ええ。」
「それは構いませんが、何かございましたか」
「深夏燕さんにお聞きしたいことがありまして。湖月様に仕えていた方だと聞きしましたので」
「承知しました。夏燕はとてもよく気のつく侍女ですが…湖月様の下で仕えるのは大変だったのでしょう。私にもあまり心を開きません。至らぬ点もあるかもしれませんが、どうか優しくしてやってください。」
侍女を大切に思いやる楊充儀に、蔡怜は深く頷いた。
「ええ。分かりました。ご心配でしたら楊充儀様もご同席頂いて構いませんよ」
「いいえ。皇后様は信頼できるお方。そのお言葉だけで充分でございます。夏燕と会われるのはいつになさいますか」
「早いとありがたいのだけれど…」
「では、明日でいかがでしょうか」
「ええ。お願いします」
話もひと段落ついたところで、楊充儀は暇を告げた。
楊充儀を見送った後、蔡怜はバタンと寝台に倒れ込んだ。
遠くから奏輝の注意する声が聞こえる。
うつらうつらとしかけたところに突然、奏輝の声が響いた。
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年はさして自分と変わらないのに、母のような侍女だと思いながら蔡怜は返事した。
「ねえ、奏輝。深夏燕さんと明日会うのだけれど、彼女ってどんな方」
「うーん。そうですね。頭の良い女性ですよ。物事の道理もわきまえておいででしたし。だからこそ、湖月様の下でも仕えられたのではないかと。」
「楊充儀様が心を開かないようだ、と」
「それはそうでございましょう」
「なぜ。彼女は夏燕さんのことを心配していたわ。」
「ええ。楊充儀様のせいではなく…湖月様の下に仕えていた時、彼女は湖月様の一挙手一投足に常に怯えていたと思います。
なにせ、湖月様は気分次第で侍女への接し方を変えると有名でしたから。その中でも夏燕さんは、湖月様のお気に入りで、常に側に置かれておりました。裏を返せば彼女は気の抜ける瞬間がなかったのです。
楊充儀様は優しい方だと思います。ですが、夏燕さんは湖月様の時のことを思い出して、深入りされないようにしているのではないかと。」
「うーん。難しいわね」
「人の心ですからね」
嗜めるように言った奏輝を見つめながら、蔡怜は楊充儀との約束をはたと思い出した。
「あ、奏輝。今晩、陛下にお会いしたいのだけれど…」
「蔡怜様からのお誘いとは珍しいですね。陛下が喜ばれるのが目に浮かぶようです」
からかうような笑みを浮かべて、お伝えしてきます、の一言とともに侍女は去っていった。
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