後宮にて、あなたを想う

じじ

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55 楊充儀の願い

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驚いたような顔をして、楊充儀は顔を上げた。

「私が皇后様にお話ししたいことがあるとご存知だったのですか」

問われた蔡怜は、苦笑いしながら答えた。

「私というより有能な侍女が、でしょうか。充儀様から欠席のご連絡を頂戴した時に私から呼び出されるためではないか、と考えたようです」

目を伏せて、楊充儀は申し訳なさそうに答えた。

「欠席したいのはもちろん本心です。ですが、侍女の方がおっしゃる通り、欠席の旨を伝えれば皇后様と直接二人でお話しできるのではと考えました。申し訳ございません。」
「いえ、私も充儀様とはお話ししたかったですし、問題ございません。それで、私にお話ししたかった件とはなんでしょう」
「義姉上の件でございます」
「陛下の姉君ですよね」
「はい。お母上のご出自が低かったため楊家に嫁がされた、と言われることもございますが、兄と義姉上は互いに想いあっておりました。それを汲んだ陛下が義姉上の降嫁をお認めくださったのです。」
「と言うことは、夫婦仲はよろしいのですね。重畳なことです」

会話の方向性が見えず、当たり障りのない相槌を蔡怜はした。

「ありがとうございます。ですが、ご相談したい内容は、楊家での義姉上のお立場なのです。」
「あまり、よくないのかしら」

恐る恐る尋ねた蔡怜を悲しげに見つめて、楊充儀は話し出した。

「冷遇されている、といっても過言ではありません。もちろん兄は義姉上を大切にしております。私もとても慕っております。ですが、両親や一族はそう言うわけにも行かず…お辛いことも多いのではないかと」
「陛下はご存知ではないのかしら」
「義姉上はとても聡明な方です。嫁ぎ先でのご自身の立場を陛下に知られたら、降嫁を認めたご自分を責められるのでは、と危惧されているのだと思います」
「そこまで分かっていながら、楊充儀様の一存で陛下にお伝えしてもよいのですか」

少々冷たい言い方になってしまったが、楊充儀の覚悟のほどもわからずに、皇帝に話すことはできないと思い蔡怜は確かめた。

「知られれば、義姉上から叱責されるかもしれません。ですが、これ以上我が一族の心無い態度で大切な義姉上を傷つけたくないのです」
「冷遇されている理由はなんでしょう」
「嫁いで来られて数年経つにも関わらず後継に恵まれないことが大きいようです。
皇后様、義姉上は忍耐強いお方です。ですが、あの状況ではいつ心を病まれてもおかしくございません。
本来、陛下に直接申し上げたいところですが、あいにく陛下はご多忙でなかなか会って頂くこともままなりません。しかし皇后様には定期的に会われると伺いました。勝手なお願いではございますが、どうか陛下のお耳に入れていただけませんでしょうか」

縋るような瞳で懇願されて蔡怜は頷いた。

「ええ。陛下には、早急にお伝えします」







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