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44 蔡怜と弟殿下2
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溜め息を吐きそうになるのを堪えつつ、蔡怜は桂騎に話しかけた。
「あの、桂騎様。私からも一つお聞きしてよろしいでしょうか。桂騎様は前皇后様がいらっしゃた時分には、何度か陛下とともに後宮を訪われたとお聞きしたのですが。」
「おや、兄上。お話になられたのですか」
蔡怜の問いかけには答えず、自身の兄を面白そうに見やりながら、桂騎は皇帝に問いかけた。
肩をすくめた兄を、やれやれといった表情で見て桂騎は、蔡怜の方に向き直った。
「義姉上。念の為に申し上げておくけれど、邪な気持ちがあって後宮を訪れていたわけではないよ。」
そりゃそうだろう、と思いながらも蔡怜は真面目な表情で頷いた。
「もちろん、そのような意図でお聞きしたわけではございません。私の侍女が何度か陛下とご一緒なさるところを見た、と申しておりましたので…後宮にどのようなご用件がおありだったのか気になったのです」
一瞬困ったような笑みを浮かべた桂騎は再び兄の方を見た。
弟の視線を受けた皇帝は、表情を崩すことなく告げた。
「皇后には、お前が後宮を訪れていた理由を話しておけ。」
「それは少々気恥ずかしいですねぇ。」
「問題ない。お前が恥ずかしがる理由の方はすでに皇后に話してある。」
「それは、なんとまあ。」
照れたように頬をかきながら、蔡怜の方に向いて桂騎は話し始めた。
「自分より年下の女性に話すのも、なんとも照れ臭い話しなんだけれど、兄上と私にとって前皇后の柳栄は姉のような母のような存在でね。兄上に輿入れしたのを機に会えなくなるのを寂しがった私を見かねて、兄上が自分がいる時なら後宮に入ってよい、と情けをかけてくれたわけだ」
「ええ。そのようにお聞きしておりました。」
「で、一回のみならず何度も足を運んでいたら、当然の如く柳栄に叱られた。もちろん兄弟揃って。」
「ええ。ですが三人でお話しされて以降、前皇后様は黙認されるようになったと」
「そうなんだ。もとは柳栄に会いに後宮に行ってたんだけどね、私の友人の弦陽という男が、私が後宮に出入りしてるのを聞いて、頼み事をしてきたんだ」
「どのような内容だったのでしょう」
「後宮に入ることがあれば卓律佳殿の様子を見ておいて欲しい、と。」
「まあ。ご友人はなぜそのようなことを」
「陳家と付き合いのある家の子息でね。陳家を訪れた時に、まだ入宮前だった水月と湖月が、当時陳家で行儀見習いをしていた律佳殿をいじめる様を見てしまったらしい。それで、後宮でも同じことが起きていないか心配したそうだ。」
「なるほど。そういうことだったのですね。」
「私が律佳殿に話しかけたからと言って、どれほどの抑止力になったか不明だけどね。」
「いえ、陛下と桂騎殿下が自分を気にかけてくださるのは、きっと律佳様にとっても心強かったでしょう。」
「だといいんだけど…ま、そういうわけで、私は友人の頼み事を聞くために後宮に行ってたってことだよ。で、その話を柳栄にしたら、それなら仕方ない、と黙認してくれた」
直接、律佳と関係ない人物が思わず心配してしまうほど、水月と湖月の虐めは苛烈だったのか。
蔡怜がそう思った瞬間、桂騎が気のない様子で続けた。
「まぁ、それから後だけど、子供を亡くした律佳殿は後宮を去り、しばらくして弦陽に嫁いだわけだ」
「あの、桂騎様。私からも一つお聞きしてよろしいでしょうか。桂騎様は前皇后様がいらっしゃた時分には、何度か陛下とともに後宮を訪われたとお聞きしたのですが。」
「おや、兄上。お話になられたのですか」
蔡怜の問いかけには答えず、自身の兄を面白そうに見やりながら、桂騎は皇帝に問いかけた。
肩をすくめた兄を、やれやれといった表情で見て桂騎は、蔡怜の方に向き直った。
「義姉上。念の為に申し上げておくけれど、邪な気持ちがあって後宮を訪れていたわけではないよ。」
そりゃそうだろう、と思いながらも蔡怜は真面目な表情で頷いた。
「もちろん、そのような意図でお聞きしたわけではございません。私の侍女が何度か陛下とご一緒なさるところを見た、と申しておりましたので…後宮にどのようなご用件がおありだったのか気になったのです」
一瞬困ったような笑みを浮かべた桂騎は再び兄の方を見た。
弟の視線を受けた皇帝は、表情を崩すことなく告げた。
「皇后には、お前が後宮を訪れていた理由を話しておけ。」
「それは少々気恥ずかしいですねぇ。」
「問題ない。お前が恥ずかしがる理由の方はすでに皇后に話してある。」
「それは、なんとまあ。」
照れたように頬をかきながら、蔡怜の方に向いて桂騎は話し始めた。
「自分より年下の女性に話すのも、なんとも照れ臭い話しなんだけれど、兄上と私にとって前皇后の柳栄は姉のような母のような存在でね。兄上に輿入れしたのを機に会えなくなるのを寂しがった私を見かねて、兄上が自分がいる時なら後宮に入ってよい、と情けをかけてくれたわけだ」
「ええ。そのようにお聞きしておりました。」
「で、一回のみならず何度も足を運んでいたら、当然の如く柳栄に叱られた。もちろん兄弟揃って。」
「ええ。ですが三人でお話しされて以降、前皇后様は黙認されるようになったと」
「そうなんだ。もとは柳栄に会いに後宮に行ってたんだけどね、私の友人の弦陽という男が、私が後宮に出入りしてるのを聞いて、頼み事をしてきたんだ」
「どのような内容だったのでしょう」
「後宮に入ることがあれば卓律佳殿の様子を見ておいて欲しい、と。」
「まあ。ご友人はなぜそのようなことを」
「陳家と付き合いのある家の子息でね。陳家を訪れた時に、まだ入宮前だった水月と湖月が、当時陳家で行儀見習いをしていた律佳殿をいじめる様を見てしまったらしい。それで、後宮でも同じことが起きていないか心配したそうだ。」
「なるほど。そういうことだったのですね。」
「私が律佳殿に話しかけたからと言って、どれほどの抑止力になったか不明だけどね。」
「いえ、陛下と桂騎殿下が自分を気にかけてくださるのは、きっと律佳様にとっても心強かったでしょう。」
「だといいんだけど…ま、そういうわけで、私は友人の頼み事を聞くために後宮に行ってたってことだよ。で、その話を柳栄にしたら、それなら仕方ない、と黙認してくれた」
直接、律佳と関係ない人物が思わず心配してしまうほど、水月と湖月の虐めは苛烈だったのか。
蔡怜がそう思った瞬間、桂騎が気のない様子で続けた。
「まぁ、それから後だけど、子供を亡くした律佳殿は後宮を去り、しばらくして弦陽に嫁いだわけだ」
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