後宮にて、あなたを想う

じじ

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42 蔡怜と侍女6

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そういえばそんなことを陛下も言っていたな。

皇帝とその弟から姉のように慕われた前皇后に若干の同情を覚えながら蔡怜は聞いた。

「前皇后様もそれをお許しになったのね」
「何度かご兄弟揃って嗜められておいででした。いくら幼い時に共に育ったとはいえ場所を弁えるべきです、と」

やはり前皇后は常識人のようだ、と結論づけた蔡怜は重ねて尋ねた。

「それでもお二人は、揃って後宮に入られてた、と」
「そうでございますね。一度お人払いをされてお三方でお話されたことがあるのですが、それ以降、前皇后様も殿下の訪を嗜められることがなくなったように思います」
「そうなのね」

なにかあったのだろうか、と不思議に思った蔡怜は、明日本人に直接聞いてみようと決めた。

「蔡怜様、明日もお早いですので、そろそろお休みくださいませ」
「ええ。お休みなさい」
「お休みなさいませ」

翌朝、久しぶりに後宮から出ることに緊張したのか、珍しく蔡怜は奏輝が起こしにくる前に目が覚めた。

「失礼いたします、蔡怜様」

本人が起きているとは思っていない様子で、挨拶する奏輝に蔡怜はにやりと笑って挨拶した。

「おはよう、奏輝」
「おはようございます、蔡怜様。」

いたって冷静な様子で返事をされ、拍子抜けした蔡怜はしょんぼりしながら奏輝に言った。

「起こしてもらう前に起きれたから、あなたが驚くと思ったのに」

その様子を見て奏輝はさすがに相好を崩した。

「驚いておりますよ、蔡怜様でも早く起きられる時がおありなのですね」
「さすがにそれは失礼…」
「ええ、申し訳ございません。失礼かと思い、いつも通りに振る舞ったのですが、蔡怜様がこだわられましたので。」

やはり、この姉のような侍女には敵わない、と思いながら蔡怜は奏輝に尋ねた。

「今日は胡服だと…だめですよね」

ご冗談を、とでも言いたげな奏輝の表情をみて、蔡怜の言葉の後半は尻すぼみになった。

「何色の紗沙をきようかしら」

わざとらしく、呟いた蔡怜に奏輝は鋭い視線を向けた。

「王宮に行かれるのですから紗沙と帯は紫、上包は黄色でお願いします」
「え、上包もいるの?」
「もちろんでございます。王宮に行かれるのですから正装していただきます」

上包は、紗沙の上にきるワンピースのような服で、襟、袖口、裾から少しだけ紗沙が出るようにして着るものだ。紗沙だけの着用では正装と見なされないため、正式な場では上包まで着る必要がある。

「でも、今回はお忍びみたいなものよね」
「陛下以外の男性と会われる皇后様が、色っぽい紗沙だけでお会いになることが問題なのです。」

奏輝の正論に、蔡怜はかくかくと頷いた。





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