後宮にて、あなたを想う

じじ

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37 三人の妃4

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「不思議な話でございますね。もちろんご姉妹で鸚鵡を可愛がられていた可能性もございましょうが…」
「どうでしょうか。陛下にお聞きする限りでは、とても仲の良いご姉妹という感じではございませんでしたので、同じ鳥を可愛がられるようには…」

眉尻を下げて困ったように蔡怜が言うと、二人とも慰めるような微苦笑を浮かべた。

「蔡怜様も陛下より難儀なお話を聞かされたものですね」

同情するように答えた黄昭に、今度は蔡怜が苦笑する番だった。

「鸚鵡で姉妹喧嘩…鸚鵡が話すということと関係があるのでしょうか」

呟くように李嬌が言った。

「でも、鸚鵡そのものが意思を持って話すわけではないのでしょう」

不思議そうに黄昭が尋ねたのを聞いて、蔡怜ははっとした様子で李嬌に聞いた。

「もしや、李嬌様は鸚鵡が覚えてはいけない言葉を覚えてしまった、と?」
「はい。その可能性もあるかと。鸚鵡が覚える言葉は、人間が実際に話した言葉です。知らない単語は話せません。だとすると、陛下に関することで、何かまずい言葉でも覚えてしまったのか、と。」
「だとすれば、内容はなんでしょう。陛下に知られたくないこととなると…まさか陛下を暗殺するような話が陳家にあったとか」
「どうでしょうか。それなら娘を二人も後宮には入れないかと。一人はその後の後宮に入れる方が利益も大きいかと存じます。」

黄昭と李嬌のやり取りを聞きながら蔡怜も口を挟んだ。

「そもそも、鸚鵡という鳥は一度聞いただけで完全に話を真似することができるのでしょうか。」
「難しいかと思います。陳家にお持ちする際に、父が挨拶を覚えさせていましたが、繰り返し何度も聞かせて、やっと真似をするようになりましたから。」
「それであれば、後ろ暗い秘密の露見、と言った感じではなさそうですね。でも、それであれば何が理由かしら。」

不思議そうに小首を傾げた蔡怜に、黄昭が思いついたように、ぱっと顔を輝かせて話し出した。

「後宮という場所が問題だったのかもしれません」

意味のわからない蔡怜と李嬌は二人揃って首を傾げた。その動きが全く同じだったので、黄昭は笑いながら説明した。

「あくまで、想像の域を出ませんが…水月様は鸚鵡の前で愛しい男性の御名を呟かれていたのかもしれません。後宮に上がる前のこと。実際鸚鵡が覚えていたとしても問題にはならないでしょう。しかし、陛下にとっては愉快なことではないでしょう。」
「でも、鸚鵡を後宮に引き取ったのは湖月様だと」
「ええ、ですから水月様が惚れていた方だと周知の事実だった方の名前なのでしょう。でなければ、湖月様の想い人の名前だと誤解されかねません。妹姫への嫌がらせ半分に、かつての妹の想い人の名前を覚えている鸚鵡を引き取ったのでしょう。陛下がいらしている時に、その名前を鸚鵡が呼べば、陛下の心も妹姫から離れると思われたのかもしれません。」

うわ、怖い。そこまでして陛下の寵愛が欲しいのか。罪のない鳥まで小道具にするとはなかなか姑息な姉妹喧嘩だ。陳姉妹が生きていたら、そもそも私が後宮に来ることもなかっただろうが、それでも同じ時期に後宮にいなくてよかった…。







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