後宮にて、あなたを想う

じじ

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35 三人の妃2

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「やはり、お二人もご存じありませんでしたか。」
「ええ。黄家は後宮内部の事情にも通じている方だと自負しておりましたが、全く存じ上げませんでした。」
「管家もでございます。そのようなご事情であったとは…ですが、それでも不思議でございますね」

悼むように目を伏せた李嬌りきょうを見ながら蔡怜も頷いた。

「ええ、私もそう思いました。妃三人の自死など、どれだけ口止めしても普通はどこからか漏れてしまいそうな話です。しかし、お二人ですらお知りにならなかったのであれば、ことを知る者が極めて少ないか若しくは」
「知っている者を口封じしたか、ですね、蔡怜様」

蔡怜から引き継ぐように黄昭が続けた。その様子を見た李嬌が、さすが阿吽の呼吸ですね、と言うの苦笑で返し、蔡怜は二人に問いかけた。

「お二人はどちらの可能性が高いと思われますか。」

問われた二人は間をおかず声を揃えて答えた。

「「前者でございます。」」

その答えを聞いて、黄昭だけではなく李嬌もやはり利発であると蔡怜は改めて思った。

「ちなみに李嬌様がそのように思われたご理由をお伺いしてもよろしいでしょうか。」

名指しされたことで、一瞬緊張した表情を見せた李嬌だが、落ち着かせるようににこりと微笑んだ蔡怜の様子を見て、一呼吸置いて考えを話し出した。

「当時そのような噂をお聞きしたことがございませんので。
もちろん漏れ聞こえなかった噂として、お妃様方の自害なされた件も同様に存じあげませんでした。ですが、亡くなられた、ということについては存じておりました。ご死因を偽ることはある程度容易くとも、人の死そのものを隠すことは意外に難しいのではないかと。
もしこの件に関して断罪されている人物がいるとすれば、侍医か侍医女官でございましょう。そのような者達が口封じをされていれば、彼らをよく知る数多の後宮へ仕えている侍女や女官達が瞬く間に、その事実を知るでしょうし、その全員を口止めすることなど不可能だと思います。」

黄昭も同じ考えだったと見えて、頷きながら話を聞いていた。蔡怜はその様子を見つめながらもう一つだけ質問をしてみることにした。

「そうですね。私も同じ考えでございます。では、この事実を知っている者は何人いると考えるのが妥当でしょうか」

問われた李嬌は顎に指を当てて、しばらく考え込んで後に答えた。

「二人でしょうか。」
「そのようにお考えになられたご理由を伺ってもよろしいですか。」
「三人以上であれば、陛下はお妃方のご死因をたとえ外聞が悪かろうと正しくご公表されたかと思います。
正式な発表と、実際に看取った者が話す死因とが異なっていれば、要らぬ疑惑を招きかねませんから。
ただ、関係者が二人であれば、お互いこう思うのではないかと。自分は絶対話さない。だから噂が出たとしたら相手からだ、と。このように思っている以上、わざわざ陛下から口止めされていることを周りに話すとは思えません。
もちろんお二人とも陛下からの信頼があってこそ、だとは思いますが。」

やはり切れ者だな、改めてそう感じながら蔡怜は李嬌の回答に微笑んで頷いた。




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