後宮にて、あなたを想う

じじ

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31 蔡怜と侍女2

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やっと帰ってくれた。忙しいであろう政務の合間を縫って来てくれるのは結構だが、毎回嫌な置き土産をしていってくれる。
皇帝の弟君か。落馬していた男という印象しかないが、向こうだって、馬しか貸さずに逃げた私のことが好印象だとは思えない。全く王宮に呼び出してまで一体何を言うつもりなのやら。
そんなことを考えながら、蔡怜は眠りについた。

翌朝、奏輝そうきの声で目覚めた。

「おはようございます、皇后さま。そろそろお支度をさせてくださいませ。」
「おはよう、奏輝。今日もよろしくね。あと前から言おうと思ってたんだけれど、名前で呼んでくれないかしら。」

起き抜けのぼーっとした頭で蔡怜が告げると、奏輝は嬉しそうに微笑んで答えた。

「よろしいのですか。それでは蔡怜様と今後はお呼びさせていただきます。蔡怜様、早速ではございますがこちらのお召し物にお着替えくださいませ。」
「あら、今日は胡服で良いの?」

冗談めかして聞いた蔡怜に、冷たい視線を向けながら、奏輝は慇懃に答えた。

「お持ちになられていた翠色の服で、側妃様方をお迎えできるだけ仕立ての良いものは、絹で作られた胡服しかございませんでしたので。ただ、蔡怜様の仰りようでは翠の紗沙をお持ちと思われていたようでございます。今後このようなことがございませんよう、お持ちになられた服の中で、紗沙をお持ちでない色のものについては早急に紗沙をお作りさせていただきます。」
「え。いえ、そんな」
「気づかず申し訳ございませんでした。」
「あの、作らないで…ください。」

後半は消え入りそうな声で懇願する蔡怜を見て、奏輝はようやく相好を崩した。
ほんの冗談で、いつも紗沙を着せようとしてくる奏輝をからかったつもりが、いらぬ火種をまいた、と蔡怜は後悔した。

「冗談でございますよ。もちろん必要なものについては紗沙も胡服も絹の物を用意させていただきますが…。ところで髪型と装飾品はいかがなさいますか。」
「胡服だから、髪は後ろで1つに結ってくれるかしら。耳飾りは真珠でお願い。」
「承知いたしました。」

奏輝が微笑みを一つ残して用意に取り掛かるのを見て、蔡怜はほーっと息を吐いた。
仕事の出来る真面目な侍女だとは思っていたが、意外にも茶目っ気があったとは。ただ、話しやすいというのはありがたい。
そう思いながら、自分の顔に白粉が塗られ紅を差される様子を鏡越しに眺めた。

「お支度整いましてございます。」
「ありがとう」

奏輝は、蔡怜の準備を終えるや否や、今度は妃達を迎える準備を始めた。

本当にできた侍女だ。
しみじみそう思う蔡怜だった。

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