後宮にて、あなたを想う

じじ

文字の大きさ
上 下
23 / 159

22 侍医女官の話⑤

しおりを挟む
「湖月様と水月様は、とてもよく似たご姉妹で、伶俐な美貌が表すかのように冷たいご性格でした。私がご出産の際にお手伝いさせていただくことになりましたのは、お二人ともそれまでの侍医女官達と折り合いが悪かったからです。もともと担当しておりました侍医女官達は、湖月様と水月様にさまざまなご注意点を度々お伝えしていたようで、それを疎まれていたそうです…皇后様、侍医女官にとって最大の屈辱がお分かりになりますでしょうか。
それは、ご出産の介助を拒否されることでございます。
湖月様も水月様も侍医女官達の忠告を無視されたり、ときにはきついお言葉を言われたりすることもあったそうですが、侍医女官達は、それでも御子と側妃様方が安全にご出産に臨めるようにと、心を砕いておりました。

湖月様に陣痛が始まった時でございます。それまで、湖月様付きであった侍医女官におっしゃったのです。あなたは出て行きなさい、と。」

なかなか性格の悪い女人だな、と蔡怜は思う。担当の侍医女官を代えてもらうにしても、出産直前でそれを言うとは。

「担当の侍医女官は、絶句しておりましたが、ご命令には従うしかございません。恭しく一礼をして、その場を後にしたようでございます。その後は、居室の外で泣きながら、湖月様の安産を祈っていたそうです。
入れ替わるように、私が呼ばれました。」
「あなたが呼ばれたのはなぜなのかしら。たまたまだったの?」
「いえ、湖月様から直々にご指名いただきました。前皇后様がご懐妊中に私のことを良いようにおっしゃってくださっていたようです。部屋に入った際に、あなたは口うるさく言わないって聞いたわよ、と言われましたので…前皇后様は、我々がご注意するまでもなくお体を気遣っておられたので、こちらから申し上げることがなかっただけなのですが。」
「そう。湖月様は出産に至るまでは問題なかったの?」
「はい。担当であった侍医女官から引き継ぐ際も、特に問題ない旨は聞いておりました。しかし、お生まれになった御子は前皇后様の時同様、お首に臍の緒が巻き付いた状態でお亡くなりになられていたのでございます。
私も侍医も一瞬言葉を無くしましたが、湖月様にお伝えしないわけにはございません。できるだけ落ち着いて、御子がお亡くなりになっている旨をお伝えしました。」
「そう。湖月様はなんと」
「はい。私達が申し上げたことが飲み込めないようでした。そして、あとは前皇后様の時と同様でございます。お止めする間もなく、かんざしで喉をお突きになって自害されたのです。」
「まあ。でもなぜ、かんざしがお側に?前皇后様がかんざしで自害されたからには、あなた達も注意をしてたわよね。」
「もちろんでございます。ただ、こちらからは危険となりそうなものについては、お側に置かれないようにお伝えする以上のことはできませんでした。まさか、ご身体検査を行うわけにもまいりませんので…。」

それはそうか。普通は侍医女官の言うことを聞くだろうしな。しかし、忠告されたにも関わらずかんざしを持って出産に望むとは…なかなかいい根性してるな。
蔡怜は、妙に関心したのだった。
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

炎華繚乱 ~偽妃は後宮に咲く~

悠井すみれ
キャラ文芸
昊耀国は、天より賜った《力》を持つ者たちが統べる国。後宮である天遊林では名家から選りすぐった姫たちが競い合い、皇子に選ばれるのを待っている。 強い《遠見》の力を持つ朱華は、とある家の姫の身代わりとして天遊林に入る。そしてめでたく第四皇子・炎俊の妃に選ばれるが、皇子は彼女が偽物だと見抜いていた。しかし炎俊は咎めることなく、自身の秘密を打ち明けてきた。「皇子」を名乗って帝位を狙う「彼」は、実は「女」なのだと。 お互いに秘密を握り合う仮初の「夫婦」は、次第に信頼を深めながら陰謀渦巻く後宮を生き抜いていく。 表紙は同人誌表紙メーカーで作成しました。 第6回キャラ文芸大賞応募作品です。

妹と人生を入れ替えました〜皇太子さまは溺愛する相手をお間違えのようです〜

鈴宮(すずみや)
恋愛
「俺の妃になって欲しいんだ」  従兄弟として育ってきた憂炎(ゆうえん)からそんなことを打診された名家の令嬢である凛風(りんふぁ)。  実は憂炎は、嫉妬深い皇后の手から逃れるため、後宮から密かに連れ出された現皇帝の実子だった。  自由を愛する凛風にとって、堅苦しい後宮暮らしは到底受け入れられるものではない。けれど憂炎は「妃は凛風に」と頑なで、考えを曲げる様子はなかった。  そんな中、凛風は双子の妹である華凛と入れ替わることを思い付く。華凛はこの提案を快諾し、『凛風』として入内をすることに。  しかし、それから数日後、今度は『華凛(凛風)』に対して、憂炎の補佐として出仕するようお達しが。断りきれず、渋々出仕した華凛(凛風)。すると、憂炎は華凛(凛風)のことを溺愛し、籠妃のように扱い始める。  釈然としない想いを抱えつつ、自分の代わりに入内した華凛の元を訪れる凛風。そこで凛風は、憂炎が入内以降一度も、凛風(華凛)の元に一度も通っていないことを知る。 『だったら最初から『凛風』じゃなくて『華凛』を妃にすれば良かったのに』  憤る凛風に対し、華凛が「三日間だけ元の自分戻りたい」と訴える。妃の任を押し付けた負い目もあって、躊躇いつつも華凛の願いを聞き入れる凛風。しかし、そんな凛風のもとに憂炎が現れて――――。

月華後宮伝

織部ソマリ
キャラ文芸
【10月中旬】5巻発売です!どうぞよろしくー! ◆神託により後宮に入ることになった『跳ねっ返りの薬草姫』と呼ばれている凛花。冷徹で女嫌いとの噂がある皇帝・紫曄の妃となるのは気が進まないが、ある目的のために月華宮へ行くと心に決めていた。凛花の秘めた目的とは、皇帝の寵を得ることではなく『虎に変化してしまう』という特殊すぎる体質の秘密を解き明かすこと! だが後宮入り早々、凛花は紫曄に秘密を知られてしまう。しかし同じく秘密を抱えている紫曄は、凛花に「抱き枕になれ」と予想外なことを言い出して――? ◆第14回恋愛小説大賞【中華後宮ラブ賞】受賞。ありがとうございます! ◆旧題:月華宮の虎猫の妃は眠れぬ皇帝の膝の上 ~不本意ながらモフモフ抱き枕を拝命いたします~

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

出て行けと言って、本当に私が出ていくなんて思ってもいなかった??

新野乃花(大舟)
恋愛
ガランとセシリアは婚約関係にあったものの、ガランはセシリアに対して最初から冷遇的な態度をとり続けていた。ある日の事、ガランは自身の機嫌を損ねたからか、セシリアに対していなくなっても困らないといった言葉を発する。…それをきっかけにしてセシリアはガランの前から失踪してしまうこととなるのだが、ガランはその事をあまり気にしてはいなかった。しかし後に貴族会はセシリアの味方をすると表明、じわじわとガランの立場は苦しいものとなっていくこととなり…。

【完結】徒花の王妃

つくも茄子
ファンタジー
その日、王妃は王都を去った。 何故か勝手についてきた宰相と共に。今は亡き、王国の最後の王女。そして今また滅びゆく国の最後の王妃となった彼女の胸の内は誰にも分からない。亡命した先で名前と身分を変えたテレジア王女。テレサとなった彼女を知る数少ない宰相。国のために生きた王妃の物語が今始まる。 「婚約者の義妹と恋に落ちたので婚約破棄した処、「妃教育の修了」を条件に結婚が許されたが結果が芳しくない。何故だ?同じ高位貴族だろう?」の王妃の物語。単体で読めます。

後宮なりきり夫婦録

石田空
キャラ文芸
「月鈴、ちょっと嫁に来るか?」 「はあ……?」 雲仙国では、皇帝が三代続いて謎の昏睡状態に陥る事態が続いていた。 あまりにも不可解なために、新しい皇帝を立てる訳にもいかない国は、急遽皇帝の「影武者」として跡継ぎ騒動を防ぐために寺院に入れられていた皇子の空燕を呼び戻すことに決める。 空燕の国の声に応える条件は、同じく寺院で方士修行をしていた方士の月鈴を妃として後宮に入れること。 かくしてふたりは片や皇帝の影武者として、片や皇帝の偽りの愛妃として、後宮と言う名の魔窟に潜入捜査をすることとなった。 影武者夫婦は、後宮内で起こる事件の謎を解けるのか。そしてふたりの想いの行方はいったい。 サイトより転載になります。

月の後宮~孤高の皇帝の寵姫~

真木
恋愛
新皇帝セルヴィウスが即位の日に閨に引きずり込んだのは、まだ十三歳の皇妹セシルだった。大好きだった兄皇帝の突然の行為に混乱し、心を閉ざすセシル。それから十年後、セシルの心が見えないまま、セルヴィウスはある決断をすることになるのだが……。

処理中です...