後宮にて、あなたを想う

じじ

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21 侍医女官の話④

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そういうことか。だから一切の躊躇いもなく自害したわけか。
確かに子が望めない皇后は遅かれ早かれ廃される運命にあるしな。後宮から実家に戻されることが多いようだが、一族にとって不名誉となるし…子を失った悲しみと実家に迷惑をかけることを嫌って自ら命を絶ったんだろうな。でも私なら、実家のために命を投げ打つことはしないけど。

「陛下は、なんと。」
「御子がお亡くなりの状態でお生まれになったこと、前皇后様が自害されたことは、侍医からすぐに伝えられました。陛下はしばらく絶句されておられましたが、御子と前皇后様のご遺体をすぐに確認されました。」
「そう。気を悪くしないで欲しいのだけれど、あなた達は調べを受けたりはしなかったの。」
「もちろん、聞き取りは行われました。しかし、我々が陛下にお伝えした内容と実際の状況に相違点がなかったため、不審なしと判断されました。侍医が陛下の信頼厚い者であったからなのでしょうが。」
「それなら、あなたもそうでしょう。」

さらりと言うと州芳しゅうほうは感謝の眼差しを蔡怜に向けた。

どうやら、今の皇帝はまともな人間のようだな。過去の皇帝の中には、侍医や侍医女官には手の施しようがない病気や怪我であっても助けられなかったという理由で、極刑に処した者もいるというし。私にとっては厄介ごとを持ち込んできた迷惑な人間だが、それだけではなさそうだ。

「前皇后様のことはよく分かったわ。では、そのあとの三人の妃方についてはどうなのかしら。あなたはやはり、三人とも知っているのかしら。」
「はい。と申しましても、私がご担当させて頂きましたのは、ご出産の際のみではございますが。」
「前皇后さまの時は、ご懐妊がわかって以降、あなたと侍医で定期的に診ていたのよね。なぜ三人の側妃方は、ご出産の時だけだったの。」
「側妃様方は、なんと申しますか…その少し難しいご気性をお持ちでしたので」

言いにくそうに目を伏せながら語る州芳の様子に、蔡怜は側妃達が侍女や、侍医女官に辛くあたっていたのだろう、と見当をつけた。

「それは、難儀だったわね。あなたが知っているところだけでいいから、側妃方のご出産の際に起こったことを教えて貰えないかしら。」
「はい、もちろんでございます。お亡くなりになった側妃様の一人目は、陳湖月ちんこげつさまでした。」
「陳というと、あの陳家かしら。高官を多く輩出している名門貴族の…」
「左様にございます。陳家のお嬢様お二人が入宮されておりました。湖月様と妹姫の水月すいげつ様でございます。水月様は湖月様の次に亡くなられた方でございます。」
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