後宮にて、あなたを想う

じじ

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11 皇帝の訪

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「皇帝陛下の御成でございます」
宦官の一声とともに皇帝が入ってくる。
「ようこそ、おいでくださいました。陛下におかれましてはご機嫌麗しゅう…」
「堅苦しい挨拶はよい。さがれ」
後半は侍女と宦官に向けて発する。
人払いが済んだ部屋で皇帝と一人取り残された蔡怜の間に気まずい空気が流れる。
うわ、なんでみんな下がらせるんだ。というか、なんか喋れ。じゃないと気まずいだろうが。
たっぷり二分間の沈黙ののち、皇帝がぼそりとつぶやくように話しかけてきた。
「弟が世話になったようだな。あなたのおかげで助かったと言っていた。」
一瞬何を言われたか分からなかった蔡怜はまじまじと皇帝を見る。次の瞬間ようやく昨日、皇帝の姿を見た時に覚えた既視感の正体が分かった。
先日出会ったあの男だ!落馬した挙句馬に逃げられたその姿があまりに情けなく、堂々とした皇帝とはどうしても結びつかなかった。なるほど、血縁なだけあって容姿はほぼ瓜二つと言っていいくらいだ。
「弟君であらせられましたか。大事なかったようでなによりでございます。」
二番目に近い民家を案内したことは黙っていようと思った瞬間、皇帝がニヤリと笑った。
「我が弟は、美しい女人に助けられたと言っていた。しかしその女人は自分に全く興味を示さなかったと。あやつは女人の扱いが上手く、見目も悪くないのでよく言い寄られている。そんな男を全く歯牙にもかけない女人とはどのような人物なのか私も興味が湧いたので調べたら、なんと我が妃候補だったわけだ。」
げっ。ばれてる。
顔に出さなさいようにさらっと受け流す。
「陛下のもとへ嫁ぐと決まっておりましたので、誤解を招くことは避けるべきかと。ただ、弟君には要らぬご負担をおかけしてしまいました。」
「いや、あなたのせいではない。あやつが迂闊だったのだ。ところで今日訪れた件だが、実はあなたに頼みがある。」
それまでとうって変わって真剣な眼差しで皇帝は蔡怜を見据える。
「なんなりと」
答えた蔡怜だが、内心は全力で拒否をしていた。
やめてくれ、私を巻き込まないでくれ。
「あなたも知っているとおり、私が帝位についてから、出産の際に妃達が命を落としている。一人はかろうじて一命を取り留めたが子は二度と望めぬ体となった。」
うん、知ってる。そのせいでここにくる羽目になったんだから。でも、それをどうしろと?怯えずに皇太子でも産んでくれ、とでもいうのだろうか。
「理由がな、わからないんだ。だからそれを調べて欲しい」
はっ?なぜ私が。そりゃ私だって避けれる事態なら避けたい。でも、私は別に呪術の専門家でもまして医者でもない。役に立てるとは思えない。
「お尋ねしてもよろしいでしょうか。そのような大役、なぜ私にお任せくださるのでしょう」
そう尋ねた瞬間、皇帝は不敵な笑みを浮かべた。
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