後宮にて、あなたを想う

じじ

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9 皇后の地位

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皇后なんて嬉しくない。心なしか周りからも若干距離を置かれている気がする。
蔡怜はうんざりしていた。
別に友人を作りにきたわけではないが、穏やかな後宮暮らしのために情報はかかせない。
仕方ない、位の低い者からは声をかけられないのだし、私から声をかけてみるか。
皇帝の退室した広間で、そのまま妃達のもてなしに入ったが、状況が状況だけにみんな黙ったまま食事をはじめようとしている。
「みなさま、若輩者ではございますが、本日よりどうぞ、よろしくお願いいたします。」
そろりと挨拶を挟んでみると、みんなハッとしたように、蔡怜のほうを見て口々に挨拶を始めた。

あ、もしや、みんなが静かだったのは、身売りに近い後宮入りを嘆いてじゃなくて、単純に私が口火を切らないと、話せないからか!うわっ、めんどくさい。話くらい好きにすればいいのに。やっぱり皇后なんていやだ、やめたい。私は隅の方で、ニコニコしながら話を聞く役くらいの方がいいのに。

そう思いながらも、妃たちの挨拶に丁寧に受け答えをする。ここで友好的な関係を結んでおかないと、あとあと邪魔くさいことになりかねない。

「蔡怜様は、お父上が望まれて入宮されたとお聞きしました。美しく自慢のご令嬢だったのですね。きっと、出立の際は手放しがたく思われたのでは」
朗らかに李嬌が尋ねる。
ともすれば皮肉にも聞こえる質問を、嫌味なく発せられるのは、悪意が全くないからだろう。

いえいえ、うちの親は私を牛か馬を売りに出すかの如く、喜んで差し出しましたよ。報奨金に完全に目が眩んでましたよ!そして、私がいなくなったいま、食い扶持が一人減った、くらいのことは思ってますよ
蔡怜は、そう言いそうになるのをグッと堪え、
「父は皇帝陛下に貴族としての誠意を示したかっただけですわ。蔡家には年頃の娘が私しかおりませんので、不出来な私を仕方なく送り出したのだと思います。」
微苦笑とともに返事をする。

蔡怜の返事を聞いて、場は和やかな雰囲気へと変わる。きっとどの娘たちも皇后となる人物がどのような気性の持ち主か戦々恐々としていたのだろう。
ただでさえ、不穏な噂の流れる後宮であるのに、妃達の最上位に君臨する皇后の性格にまで悩まされるとあっては堪らない。
大丈夫、私は怖くないですよー、と言う空気をできるだけ出しながら、その後は宴がお開きとなるまで、蔡怜はひたすら聞き役に徹した。

部屋に帰って、蔡怜は盛大にため息をついた。

やっと1日目が終わった。明日は朝から皇帝の訪があると聞いている。後宮に入ったから仕方のないこととはいえ、迷惑なことこの上ない。

そんな風に思いながら柔らかな寝台に突っ伏して眠りについた。
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