後宮にて、あなたを想う

じじ

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7 後宮での初日④

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あと3人。早く揃ってくれ、と蔡怜さいれいは願った。

日も少し傾いてきた頃、最北の領地を統べるきょう家の姫が到着した。
真国の北方は遊牧民の異民族が複数暮らす土地で、数年に一度真国へ攻め入ってくる。そのため真国や経国などからは蛮族の住む地と蔑視されている。
姜家ももとは異民族であるが、楊家が国を治めてた時代に、異民族の尚氏が攻め入った際に、楊家から助けを請われた姜家が騎馬隊で尚氏を撃破した褒賞として、真国の領土及び貴族の地位が下賜された。
また、その際に娘の皇室入りも願いでたものの、そちらは異民族の血を嫌った当時の皇帝から断れたため、長らく娘の皇室入りは姜家の悲願であった。
姜燦輝きょうさんきは、北方異民族に特徴的な大柄の女性で、民族衣装でもある、前に長い布を垂らした胡服のような服装で現れた。衣装には素晴らしい刺繍が施されている。
真国の美女の概念からは外れているが、野生的な美貌である。馬に乗ってきたのは蔡怜も同様だが、得物の弓矢まで携えてきていた。

9番目は、南に領地を持つこう家の娘、宝永ほうえいであった。
楊氏が真国を治めてた頃からの貴族であるが、肥沃な領土にも関わらず内政にしか興味のない領主が続いたため、中央貴族から辺境の貴族として見下されていた。数年前に宝永の父に家督が譲られ、江家の現状を良しとしなかった宝永の父が、地位を向上させるために、今回の入宮に手を挙げたとのことだった。
宝永は南方に多い、肉感的な美女で物憂げな瞳と少し癖のある黒髪が特徴的だ。薄布を幾重にも重ねた紗沙と呼ばれる着物に、ふわりとした帯をしめている。

そして、日も沈むころに現れたのが東に浮かぶ孤島、黄島こうとうを統べるこう家の姫のしょうであった。
丸2日の船旅ののち、2日間の陸路での移動が余程堪えたとみえて、他の姫君よりもはるかに疲労が色濃く見えた。
黄家は、他の9家と異なり、真国の貴族でありながら、属国の王家でもある。黄島自体が真国から離れた位置にあり、当時下位貴族であった黄氏が、失策によりほとんど島流しのような形で、黄島に送られたのが始まりである。
何世代にも渡る統治の末、最初はただの絶海の孤島で未開の地だった黄島は、海路の重要拠点となり、自治が認められるようになった。ただし、あくまで属国としての扱いであったため、今回の昭の入宮で世継ぎを産めば、完全に独立国として認める旨を皇帝に願い出たと噂されている。

そんなに上手くいくのやら、ま、私には関係ないけど。でも、これでやっと全員揃った。中に入れる。大体公正を期すため、ってそれなら集合時刻まで決めとけ!それにこんだけ嫌がられてる後宮入りに公正も何もあったんもんじゃないだろ。
表向き穏やかに微笑みながら、蔡怜は心の中で例によって激しく毒付いた。
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