6 / 159
5 後宮での初日②
しおりを挟む
蔡怜の次にきたのは、菅家の姫だった。最近、商家から貴族へと引き上げられたばかりで、噂によると娘の後宮入りをだしにして、貴族入りを果たしたようだ。
溢れんばかりの金はあるが、地位がないため、ここぞとばかりに娘の入宮にかこつけて貴族の地位をねだったと、父さんと母さんが忌々し気に話していたな。報奨金を受け取らないのも馬鹿だ、と罵ってもいたし。
私にすれば、報奨金に目が眩んだあんたら両親も大概だよ。
ま、自分たちが嬉々として受け取った報奨金を辞退した人たちがいたら、面白くない、というか惨めに感じるだろうけど。
そんなことを思いながら菅家の姫、李嬌を見つめる。
なるほど、貴族といっても最近なったばかりで、皇室の噂に触れてくる環境になかったせいか、どちらかというと楽観的な雰囲気さえ感じる。
興味深げに蔡怜や、花家茅家の娘を眺める姿は、お芝居を見にきた観客のような気楽さだ。皇室に入ったところで、皇帝が自分に興味を向けることなどないと思っているに違いない。せいぜい、自分は脇役の一人くらいにしか思っていないのだろう。
花家茅家の姫達に比べると容姿においても特筆すべき点はない。ただ時折賢そうに煌めく瞳からは、自分の人生を自分で切り拓く強さが感じられる。
つぎに到着したのは、楊琉麗優しげな顔立ちに、楊家特有の色素の薄い茶色の髪や、光が当たると青色っぽく見える瞳を持つ凛とした雰囲気の少女である。
今回の件に関わらず、貴族の間では常に話題になっていた人物だ。それは、琉麗が現皇帝の義妹だからだ。皇帝の腹違いの姉が嫁いだ先が琉麗の実家であった。
楊家は先の皇室であったが、現在の皇帝、莉家の先祖により玉座を奪われた。本来ならなら楊家自体が一族郎党皆殺しとなるところであったが、皇帝が早々に玉座を引き渡すこと、家臣であった莉家の謀反ではなく国を憂えた上での反逆である旨を書き残すこと、そして、自らの首を差し出すことを条件に、奴隷貴族として、他の者達を生かすことができるよう取り計らった。
奴隷貴族。それは平民よりも扱いが酷いと言われる貴族のことである。
主に、敵国から掠奪してきた貴人達や、人質として預かっている他国の貴族の子女がこれに当たる。領地も持たず、最低限の衣食住を国から与えられる以外は財産となるものを持ってはならないとされている。ただし、友好国の奴隷貴族においては、その政治的有用性から、他の上位貴族と変わらない程度の暮らしは享受できる場合が多い。
自国の貴族で、奴隷貴族とされているのは楊家のみであった。そんなところへ実姉を嫁がせたのは、姉の母親の出自が、妓女であったためだ。低い身分の者を母に持つ彼女であったが、極めて聡明な女性であり、時として皇帝を諌めることもあった。それが彼には煩わしく、奴隷貴族の下へ嫁がせた、というのは貴族達の間では有名な話であった。
溢れんばかりの金はあるが、地位がないため、ここぞとばかりに娘の入宮にかこつけて貴族の地位をねだったと、父さんと母さんが忌々し気に話していたな。報奨金を受け取らないのも馬鹿だ、と罵ってもいたし。
私にすれば、報奨金に目が眩んだあんたら両親も大概だよ。
ま、自分たちが嬉々として受け取った報奨金を辞退した人たちがいたら、面白くない、というか惨めに感じるだろうけど。
そんなことを思いながら菅家の姫、李嬌を見つめる。
なるほど、貴族といっても最近なったばかりで、皇室の噂に触れてくる環境になかったせいか、どちらかというと楽観的な雰囲気さえ感じる。
興味深げに蔡怜や、花家茅家の娘を眺める姿は、お芝居を見にきた観客のような気楽さだ。皇室に入ったところで、皇帝が自分に興味を向けることなどないと思っているに違いない。せいぜい、自分は脇役の一人くらいにしか思っていないのだろう。
花家茅家の姫達に比べると容姿においても特筆すべき点はない。ただ時折賢そうに煌めく瞳からは、自分の人生を自分で切り拓く強さが感じられる。
つぎに到着したのは、楊琉麗優しげな顔立ちに、楊家特有の色素の薄い茶色の髪や、光が当たると青色っぽく見える瞳を持つ凛とした雰囲気の少女である。
今回の件に関わらず、貴族の間では常に話題になっていた人物だ。それは、琉麗が現皇帝の義妹だからだ。皇帝の腹違いの姉が嫁いだ先が琉麗の実家であった。
楊家は先の皇室であったが、現在の皇帝、莉家の先祖により玉座を奪われた。本来ならなら楊家自体が一族郎党皆殺しとなるところであったが、皇帝が早々に玉座を引き渡すこと、家臣であった莉家の謀反ではなく国を憂えた上での反逆である旨を書き残すこと、そして、自らの首を差し出すことを条件に、奴隷貴族として、他の者達を生かすことができるよう取り計らった。
奴隷貴族。それは平民よりも扱いが酷いと言われる貴族のことである。
主に、敵国から掠奪してきた貴人達や、人質として預かっている他国の貴族の子女がこれに当たる。領地も持たず、最低限の衣食住を国から与えられる以外は財産となるものを持ってはならないとされている。ただし、友好国の奴隷貴族においては、その政治的有用性から、他の上位貴族と変わらない程度の暮らしは享受できる場合が多い。
自国の貴族で、奴隷貴族とされているのは楊家のみであった。そんなところへ実姉を嫁がせたのは、姉の母親の出自が、妓女であったためだ。低い身分の者を母に持つ彼女であったが、極めて聡明な女性であり、時として皇帝を諌めることもあった。それが彼には煩わしく、奴隷貴族の下へ嫁がせた、というのは貴族達の間では有名な話であった。
2
お気に入りに追加
154
あなたにおすすめの小説
公女様は愛されたいと願うのやめました。~態度を変えた途端、家族が溺愛してくるのはなぜですか?~
朱色の谷
恋愛
公爵家の末娘として生まれた8歳のティアナ
お屋敷で働いている使用人に虐げられ『公爵家の汚点』と呼ばれる始末。
お父様やお兄様は私に関心がないみたい。
ただ、愛されたいと願った。
そんな中、夢の中の本を読むと自分の正体が明らかに。
炎華繚乱 ~偽妃は後宮に咲く~
悠井すみれ
キャラ文芸
昊耀国は、天より賜った《力》を持つ者たちが統べる国。後宮である天遊林では名家から選りすぐった姫たちが競い合い、皇子に選ばれるのを待っている。
強い《遠見》の力を持つ朱華は、とある家の姫の身代わりとして天遊林に入る。そしてめでたく第四皇子・炎俊の妃に選ばれるが、皇子は彼女が偽物だと見抜いていた。しかし炎俊は咎めることなく、自身の秘密を打ち明けてきた。「皇子」を名乗って帝位を狙う「彼」は、実は「女」なのだと。
お互いに秘密を握り合う仮初の「夫婦」は、次第に信頼を深めながら陰謀渦巻く後宮を生き抜いていく。
表紙は同人誌表紙メーカーで作成しました。
第6回キャラ文芸大賞応募作品です。
【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。
だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。
その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
下っ端妃は逃げ出したい
都茉莉
キャラ文芸
新皇帝の即位、それは妃狩りの始まりーー
庶民がそれを逃れるすべなど、さっさと結婚してしまう以外なく、出遅れた少女は後宮で下っ端妃として過ごすことになる。
そんな鈍臭い妃の一人たる私は、偶然後宮から逃げ出す手がかりを発見する。その手がかりは府庫にあるらしいと知って、調べること数日。脱走用と思われる地図を発見した。
しかし、気が緩んだのか、年下の少女に見つかってしまう。そして、少女を見張るために共に過ごすことになったのだが、この少女、何か隠し事があるようで……
[完結]いらない子と思われていた令嬢は・・・・・・
青空一夏
恋愛
私は両親の目には映らない。それは妹が生まれてから、ずっとだ。弟が生まれてからは、もう私は存在しない。
婚約者は妹を選び、両親は当然のようにそれを喜ぶ。
「取られる方が悪いんじゃないの? 魅力がないほうが負け」
妹の言葉を肯定する家族達。
そうですか・・・・・・私は邪魔者ですよね、だから私はいなくなります。
※以前投稿していたものを引き下げ、大幅に改稿したものになります。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
雇われ側妃は邪魔者のいなくなった後宮で高らかに笑う
ちゃっぷ
キャラ文芸
多少嫁ぎ遅れてはいるものの、宰相をしている父親のもとで平和に暮らしていた女性。
煌(ファン)国の皇帝は大変な女好きで、政治は宰相と皇弟に丸投げして後宮に入り浸り、お気に入りの側妃/上級妃たちに囲まれて過ごしていたが……彼女には関係ないこと。
そう思っていたのに父親から「皇帝に上級妃を排除したいと相談された。お前に後宮に入って邪魔者を排除してもらいたい」と頼まれる。
彼女は『上級妃を排除した後の後宮を自分にくれること』を条件に、雇われ側妃として後宮に入る。
そして、皇帝から自分を楽しませる女/遊姫(ヨウチェン)という名を与えられる。
しかし突然上級妃として後宮に入る遊姫のことを上級妃たちが良く思うはずもなく、彼女に幼稚な嫌がらせをしてきた。
自分を害する人間が大嫌いで、やられたらやり返す主義の遊姫は……必ず邪魔者を惨めに、後宮から追放することを決意する。
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる