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1 準備期間、自然の中の不自然な出会い
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一週間で用意しろ、と父さんに言われて焦ったが、いざ準備を始めると、二日あれば充分だった。
もとより、荷物は少ないし、基本的に必要なものは後宮側で用意してくれるとのことだ。なら私が用意するものは、当日着ていく服と、当日の移動手段の確保のみだった。
幸か不幸か、後宮まで近い我が家は他の後宮入りの娘たちのように、到着に何日もかかるということはなく、一日あれば充分着く距離だ。
移動は家にいる馬に乗って行こう。あの子なら私も乗り慣れているし、今更馬車の手配も邪魔くさい。貴族の娘が馬に直接乗ってくるなんて、と思われるかもしれないけど、どうせ向こうだって深窓の姫君がくるとは思ってないだろうし。それに私だって望んで後宮に行くわけでもない。どうせ、下位貴族の死んでも良い娘。好きにさせてもらおう。
後宮からさほど離れていないとはいえ、今までのように気晴らしに野山を馬で駆けることができないと思うと、自分が生まれ育っと景色をもう一度見ておこう、という殊勝な気持ちが湧いてきた。
家族に一声かけて外出することにする。
「父様、母様、少し馬で散策して参ります」
「くれぐれも怪我をせぬように、すぐに戻れ」
うるさい。自身の身を案ずる言葉も父さんに言われると、後宮入りが決まったから発されるとしか思えない。
まぁ、実際そうなのだろうけど。すでに報奨金が支払われているとは言え、無事に後宮について初めて報奨金はその家のものとなる。今、私が落馬でもして後宮に行けなくなったら、すでに支払われている報奨金を全額揃えて返納する必要がある。
それでも、普通は娘の後宮入りに際して実家からの準備品として、着物や調度品を揃えるために使う家が多い。そのため万が一娘が入宮できないとなっても、用意した品を国庫に返納すれば、使用分は免除される。
しかし、うちの両親はどうだ?
報奨金が手元に入るや否や、まず自分たちの華美な衣服を買い、食事を豪勢なものに変え、屋敷の修繕のみならず、大きく立派なものに建て替えるための手付金として使ったのだ。
一方で、私の衣服は後宮費で請求しろと言うのだから、強欲ここに極まれりだ。
私が後宮で恥をかこうが、遠い場所にいる自分たちには関係ないと思っているのだろう。
腹立たしい気持ちでいっぱいだが、そんな気分をずっと抱えたままなのは、私の精神衛生上、よろしくない。気分転換が必要だ。
身動きのしやすい胡服に着替え、厩舎に向かう。
「黒鈴、今日もよろしくね」
黒い毛並みが美しい相棒に一声かけ、背にまたがる。黒鈴も心得たもので、最初はゆっくり歩いていたが、上々に軽やかに走り出す。
しばらく走ったあと、黒鈴が急に立ち止まった。黒鈴が乗り手に負担をかけるような止まり方をするのは珍しい。
「どうしたの。足でも痛めてしまった?」
心配しながら背から滑るように降りる。
うん?なんか人が寝転んでいる気がする。いや、ここは野山、であるなら正しい表現としては倒れているのか。
どうしよう。助けたら絶対めんどくさいことに巻き込まれる。
倒れているのが子どもや老人、女性なら
蔡怜も迷いなく助けただろうが、倒れているのは、この辺りに似つかわしくない上等な衣服を着た青年だ。ご丁寧に腰には剣まで佩いている。
こんな貴人なら自分が放置しても、すぐに誰かが探しに来るだろう。
蔡怜はそう結論づけてさっさと踵を返すことにする。
「あの」
いや、私は何も見てないし、聞こえない。
「あの、君!申し訳ないが」
やっぱり、私に声をかけてきている。やめろ、私を巻き込むな。入宮までの猶予期間を精一杯楽しむって決めてるんだ。
「足を痛めて、動けないんだ。申し訳ないが手を貸してくれないか。」
そこまで言われて蔡怜は観念した。だめだ、これ以上気づいてないふりは無理だ、と。
もとより、荷物は少ないし、基本的に必要なものは後宮側で用意してくれるとのことだ。なら私が用意するものは、当日着ていく服と、当日の移動手段の確保のみだった。
幸か不幸か、後宮まで近い我が家は他の後宮入りの娘たちのように、到着に何日もかかるということはなく、一日あれば充分着く距離だ。
移動は家にいる馬に乗って行こう。あの子なら私も乗り慣れているし、今更馬車の手配も邪魔くさい。貴族の娘が馬に直接乗ってくるなんて、と思われるかもしれないけど、どうせ向こうだって深窓の姫君がくるとは思ってないだろうし。それに私だって望んで後宮に行くわけでもない。どうせ、下位貴族の死んでも良い娘。好きにさせてもらおう。
後宮からさほど離れていないとはいえ、今までのように気晴らしに野山を馬で駆けることができないと思うと、自分が生まれ育っと景色をもう一度見ておこう、という殊勝な気持ちが湧いてきた。
家族に一声かけて外出することにする。
「父様、母様、少し馬で散策して参ります」
「くれぐれも怪我をせぬように、すぐに戻れ」
うるさい。自身の身を案ずる言葉も父さんに言われると、後宮入りが決まったから発されるとしか思えない。
まぁ、実際そうなのだろうけど。すでに報奨金が支払われているとは言え、無事に後宮について初めて報奨金はその家のものとなる。今、私が落馬でもして後宮に行けなくなったら、すでに支払われている報奨金を全額揃えて返納する必要がある。
それでも、普通は娘の後宮入りに際して実家からの準備品として、着物や調度品を揃えるために使う家が多い。そのため万が一娘が入宮できないとなっても、用意した品を国庫に返納すれば、使用分は免除される。
しかし、うちの両親はどうだ?
報奨金が手元に入るや否や、まず自分たちの華美な衣服を買い、食事を豪勢なものに変え、屋敷の修繕のみならず、大きく立派なものに建て替えるための手付金として使ったのだ。
一方で、私の衣服は後宮費で請求しろと言うのだから、強欲ここに極まれりだ。
私が後宮で恥をかこうが、遠い場所にいる自分たちには関係ないと思っているのだろう。
腹立たしい気持ちでいっぱいだが、そんな気分をずっと抱えたままなのは、私の精神衛生上、よろしくない。気分転換が必要だ。
身動きのしやすい胡服に着替え、厩舎に向かう。
「黒鈴、今日もよろしくね」
黒い毛並みが美しい相棒に一声かけ、背にまたがる。黒鈴も心得たもので、最初はゆっくり歩いていたが、上々に軽やかに走り出す。
しばらく走ったあと、黒鈴が急に立ち止まった。黒鈴が乗り手に負担をかけるような止まり方をするのは珍しい。
「どうしたの。足でも痛めてしまった?」
心配しながら背から滑るように降りる。
うん?なんか人が寝転んでいる気がする。いや、ここは野山、であるなら正しい表現としては倒れているのか。
どうしよう。助けたら絶対めんどくさいことに巻き込まれる。
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こんな貴人なら自分が放置しても、すぐに誰かが探しに来るだろう。
蔡怜はそう結論づけてさっさと踵を返すことにする。
「あの」
いや、私は何も見てないし、聞こえない。
「あの、君!申し訳ないが」
やっぱり、私に声をかけてきている。やめろ、私を巻き込むな。入宮までの猶予期間を精一杯楽しむって決めてるんだ。
「足を痛めて、動けないんだ。申し訳ないが手を貸してくれないか。」
そこまで言われて蔡怜は観念した。だめだ、これ以上気づいてないふりは無理だ、と。
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