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プロローグ
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「怜、一週間後に家を出られるように、荷物をまとめておきなさい。お前は現皇帝に嫁ぐこととなった。」
父さんは馬鹿か。
私は返事をする前に、心の中で毒づいた。
なんで、断らない?我が家は貴族といっても下位貴族でしかも貧乏。その娘に後宮入りの打診がくること自体がおかしいとは思わないのか。
おおよそ、後宮に流れるあの噂のせいで、私に白羽の矢が立ったのだろうけど。
後宮で懐妊した妃は、出産時に命を落とす。
現皇帝が即位して2年、その間に3人の妃たちが出産に際して、母子ともに命を落としたのだ。唯一、一命を取り留めた妃にしても、子は助からず、子も2度と望めない体となってしまった。
そのため、現皇帝にはまだ子がいない。
一方で理由は分からないが、妊娠すると、高い確率で死亡するとあっては、高位の貴族たちは娘の後宮入りを拒んだ。
皆がそうではないだろうが、娘も出世のための大事な手駒。世継ぎを残して死ぬならともかく、世継ぎごと共に死ぬとあっては、本末転倒である。
本来なら皇帝の命を拒否できない貴族達だが、皇帝が強硬策に出るのであれば、貴族側も、謀反もやむなし、といった姿勢を見せたため、ここしばらくは高位の貴族からの後宮入りは途絶えていた。
しかし、いつまでも後宮を空にしておくことはできない。そして何より、世継ぎをもうけて、皇帝に万が一のことがあった時のことを考えなければならない。そう判断した、大臣によって献上された苦肉の策が、力を持たない下位の貴族の娘の後宮入りであった。
娘を後宮入りさせることと引き換え、莫大な報奨金を与える。それにより、自国の貴族の娘の後宮入りを図ったのだ。
結果は上々。蔡怜の父同様、手を挙げた貴族は10家にのぼった。
死んでも良い、自国の貴族の姫、か。
まぁ、我が家は貴族と言っても名ばかりに近い状況ではあったし、父さんも母さんも、富や権力といったものに弱い人たちだから、私なんかまさにうってつけだっただろうな。
残りの9家の姫君の中には、家族が斬首を覚悟で後宮入り願いの取り消しを申し出たものもいるらしいが、我が家は両親ともに両手を挙げて大賛成。
ったく、娘を死地に追いやることを全く厭わないとは、どんな親だ。
そう毒づきながらも蔡怜は、たおやかに微笑みながら父親に尋ねた。
「後宮入りに際して衣服の用意はいかがすればよろしいでしょうか」
父さんは身内にはケチだが、一方で外では見栄を張りたがる。さぁ、なんて答えるかな。
「お前の後宮入りに際してかかる費用は、すべて後宮側で負担くださるそうだ。必要なものは全て揃えて、請求先は後宮宛にすれば良い。」
なにを偉そうに。報奨金から用意しろよ!家族から惜しまれながら、この娘は嫁いできたのだ、と後宮側に思わす気はないのか、この父親は。全て後宮費で賄ったとあっては、私は身売り同然どころか、家族からも不要とされていたように思われるだろうが!
「承知しました。」
「なに、どこが用意した品かなど、他家の姫は、知る由もない。せいぜい贅を凝らしたものを用意すると良い」
他人の金で見栄を張るな!我が父ながら情けない。だいたい、他家の姫に見栄を張ってどうする。後宮費からの支払いによって、私が死んでも全く問題ないと認識するのは、皇帝や大臣であるというのに。
私だってまだ死にたくない。後宮入りに適した年頃の娘を持ったというだけで、宝くじにあたったように喜んでいる父の顔をちらっと見ながら、密かにため息をついた。
父さんは馬鹿か。
私は返事をする前に、心の中で毒づいた。
なんで、断らない?我が家は貴族といっても下位貴族でしかも貧乏。その娘に後宮入りの打診がくること自体がおかしいとは思わないのか。
おおよそ、後宮に流れるあの噂のせいで、私に白羽の矢が立ったのだろうけど。
後宮で懐妊した妃は、出産時に命を落とす。
現皇帝が即位して2年、その間に3人の妃たちが出産に際して、母子ともに命を落としたのだ。唯一、一命を取り留めた妃にしても、子は助からず、子も2度と望めない体となってしまった。
そのため、現皇帝にはまだ子がいない。
一方で理由は分からないが、妊娠すると、高い確率で死亡するとあっては、高位の貴族たちは娘の後宮入りを拒んだ。
皆がそうではないだろうが、娘も出世のための大事な手駒。世継ぎを残して死ぬならともかく、世継ぎごと共に死ぬとあっては、本末転倒である。
本来なら皇帝の命を拒否できない貴族達だが、皇帝が強硬策に出るのであれば、貴族側も、謀反もやむなし、といった姿勢を見せたため、ここしばらくは高位の貴族からの後宮入りは途絶えていた。
しかし、いつまでも後宮を空にしておくことはできない。そして何より、世継ぎをもうけて、皇帝に万が一のことがあった時のことを考えなければならない。そう判断した、大臣によって献上された苦肉の策が、力を持たない下位の貴族の娘の後宮入りであった。
娘を後宮入りさせることと引き換え、莫大な報奨金を与える。それにより、自国の貴族の娘の後宮入りを図ったのだ。
結果は上々。蔡怜の父同様、手を挙げた貴族は10家にのぼった。
死んでも良い、自国の貴族の姫、か。
まぁ、我が家は貴族と言っても名ばかりに近い状況ではあったし、父さんも母さんも、富や権力といったものに弱い人たちだから、私なんかまさにうってつけだっただろうな。
残りの9家の姫君の中には、家族が斬首を覚悟で後宮入り願いの取り消しを申し出たものもいるらしいが、我が家は両親ともに両手を挙げて大賛成。
ったく、娘を死地に追いやることを全く厭わないとは、どんな親だ。
そう毒づきながらも蔡怜は、たおやかに微笑みながら父親に尋ねた。
「後宮入りに際して衣服の用意はいかがすればよろしいでしょうか」
父さんは身内にはケチだが、一方で外では見栄を張りたがる。さぁ、なんて答えるかな。
「お前の後宮入りに際してかかる費用は、すべて後宮側で負担くださるそうだ。必要なものは全て揃えて、請求先は後宮宛にすれば良い。」
なにを偉そうに。報奨金から用意しろよ!家族から惜しまれながら、この娘は嫁いできたのだ、と後宮側に思わす気はないのか、この父親は。全て後宮費で賄ったとあっては、私は身売り同然どころか、家族からも不要とされていたように思われるだろうが!
「承知しました。」
「なに、どこが用意した品かなど、他家の姫は、知る由もない。せいぜい贅を凝らしたものを用意すると良い」
他人の金で見栄を張るな!我が父ながら情けない。だいたい、他家の姫に見栄を張ってどうする。後宮費からの支払いによって、私が死んでも全く問題ないと認識するのは、皇帝や大臣であるというのに。
私だってまだ死にたくない。後宮入りに適した年頃の娘を持ったというだけで、宝くじにあたったように喜んでいる父の顔をちらっと見ながら、密かにため息をついた。
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