後宮の巫術妃

じじ

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死の影

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母の言いつけ通り宝珠はそのことを誰にも言わなかった。もとより人前に出ることもない宝珠には友人と呼べる存在もなく話し相手と言えば、母か新しい女官の梅寧くらいだった。

その日も梅寧は宝珠の髪を梳きながらたわいもない話をしていた。まだ見習い女官の彼女は14と歳若く、二人が並んでいると主人と付き人というより歳の離れた姉妹のようだった。
そんな仲睦まじい様子を微笑みながら眺めていた宝珠の母は、手ずから淹れたお茶を二人の前に置いた。
梅寧は恐縮した様子でお礼を言って頭を下げた。
宝珠も母に礼を言いながら母の顔を見た瞬間、さっと顔色を変えた。
彼女の首に鋭利な刃物が刺さっていたのだ。自分の顔を見て絶句した娘に何かを感じ取った彼女は、すぐに人払いをした。
二人きりになった部屋で、努めて冷静な声で宝珠に尋ねた。

「なにか私の顔に見えたのね」

その声でずっと下を向いていた宝珠は思わず顔を上げる。首筋を見ても何も刺さっていない。戸惑う娘に再度尋ねた。

「何が見えたの?全て話してくれるかしら」

母の凛とした声に勇気づけられて、宝珠はありのまま話した。母の首筋に刃物が刺さっているのが見えたこと、そして今は見えないこと。静かに頷きながら母は考えこむように唇に指を当てた。

「確かなことはわからないけれど、おそらく死期と関係しているのかもしれないわ。明鈴の時は話しかけられても首から上は戻らなかったのよね。それはきっと死ぬまでにあまり時間がなかったから。いま、私が普通に見えていると言うことはおそらくまだ死ぬまでに時間があるのね」

淡々と推測する母に宝珠は抱きついて泣き始めた。
それを優しく引き剥がしながら母はゆっくりと伝えた。

「私にとって最も優先すべきはあなたなの。だから約束して。私の喉に刃が刺さっている状態が変わったり、見える時間が長くなったりしたら必ず教えなさい」

瞳に涙を溜めながら宝珠は頷いた。

「良い子ね」

再び優しく抱きしめながら母はもう一つのことを宝珠に伝えた。

「あなたにはきっと辛いことでしょうけど、私の死因をはっきりさせるためにどのように刃が刺さってるか見ておいてくれるかしら」

震えながら宝珠は頷いた。
最も大切な人の無惨な姿を詳細に見ると言うことへの恐怖を感じながらも、それが母を救えるかもしれない唯一の方法だと信じて。
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