後宮の巫術妃

じじ

文字の大きさ
上 下
2 / 5

昔の話

しおりを挟む
18年前、皇后を母に持つ宝珠は周りから望まれて生まれた。
生まれた時に浴びた第一声は、女官達のなんて美しい姫君なのでしょう、と言う言葉だった。
宝珠の母は美しさと儚さを持ち合わせながらもそれ以上に後宮で生き抜くために必要な強かさと賢さを持った人だった。
彼女は自分の娘が自分よりも美しくなることをすぐに見抜いた。

彼女は日々美しく育つ娘を部屋から滅多に出さず、父に当たる皇帝にすら極力合わせようとしなかった。娘の美しさが政治の道具として使われることを恐れたのだ。
宝珠は美しいだけでなく、とても利発な娘だった。

それは宝珠が4歳の時だった。いつもどおり皇后付きの女官が部屋を訪ねると宝珠はひっと小さく悲鳴をあげるなり逃げるように母の後ろに隠れた。
いつもは駆け寄ってくる宝珠が自分を避けたことに驚いた女官は、少し困惑した顔で、どうかなさいましたか、と彼女に尋ねた。しかし問われた宝珠は母の後ろに隠れるだけで、その日は一言も発さなかった。
女官が下がり二人きりになると母は優しく宝珠に尋ねた。

「どうしたの?いつもは飛びつかないばかりに駆け寄るあなたが」

優しく心配する母の声に宝珠は青ざめた顔で答えた。

「お母様、あの人…」
「あの人?明鈴でしょう?」
「明鈴…明鈴の頭がなかった…」

絶句する母に宝珠は必死で説明した。幼いながらも利発な娘の言葉がふざけているとは思えず皇后は娘の話を聞き終えると静かに告げた。

「このことは絶対に誰にも言ってはいけませんよ」

宝珠は母の真剣な様子にこくりと頷いた。

それから程なくして明鈴が処刑されたことを宝珠は知った。皇帝である父が皇后である母に話している内容を聞いてしまったのだ。
皇帝が去ったあと、宝珠はおずおずと母に尋ねた。

「明鈴はなぜ死ななければならなかったの?」

慕っていた女官の死を悲しむよりも、首のない幻影を二度と見なくて済むと言うことに安堵を覚える自分に、幼いながらも後ろめたさを感じる。
そして、自分の見たものが彼女を死に追いやってしまったのではないかという恐怖も。
宝珠の気持ちを的確に汲み取った母は優しく微笑みながらあやすように頭を撫でた。

「明鈴はね、敵対する国の間者だったの。だからあなたが見たこととは関係ないのよ」

母はゆっくり一度目を閉じた。

「あなたは多分、特別な目を持ってる。その人の死期が近づくと最期の姿が見えてしまう。それはきっと時にはあなたを苦しめる。でも、必ずそれに助けられる日も来るわ」

そして幼い宝珠にしっかりと視線を合わせて母は再び告げた。

「でも、このことはあなたと私だけの秘密。私が良いと言うまで絶対に誰にも言ってはなりません」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

好きな人がいるならちゃんと言ってよ

しがと
恋愛
高校1年生から好きだった彼に毎日のようにアピールして、2年の夏にようやく交際を始めることができた。それなのに、彼は私ではない女性が好きみたいで……。 彼目線と彼女目線の両方で話が進みます。*全4話

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

偶然PTAのママと

Rollman
恋愛
偶然PTAのママ友を見てしまった。

魅了が解けた貴男から私へ

砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。 彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。 そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。 しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。 男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。 元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。 しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。 三話完結です。

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

処理中です...