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昔の話
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18年前、皇后を母に持つ宝珠は周りから望まれて生まれた。
生まれた時に浴びた第一声は、女官達のなんて美しい姫君なのでしょう、と言う言葉だった。
宝珠の母は美しさと儚さを持ち合わせながらもそれ以上に後宮で生き抜くために必要な強かさと賢さを持った人だった。
彼女は自分の娘が自分よりも美しくなることをすぐに見抜いた。
彼女は日々美しく育つ娘を部屋から滅多に出さず、父に当たる皇帝にすら極力合わせようとしなかった。娘の美しさが政治の道具として使われることを恐れたのだ。
宝珠は美しいだけでなく、とても利発な娘だった。
それは宝珠が4歳の時だった。いつもどおり皇后付きの女官が部屋を訪ねると宝珠はひっと小さく悲鳴をあげるなり逃げるように母の後ろに隠れた。
いつもは駆け寄ってくる宝珠が自分を避けたことに驚いた女官は、少し困惑した顔で、どうかなさいましたか、と彼女に尋ねた。しかし問われた宝珠は母の後ろに隠れるだけで、その日は一言も発さなかった。
女官が下がり二人きりになると母は優しく宝珠に尋ねた。
「どうしたの?いつもは飛びつかないばかりに駆け寄るあなたが」
優しく心配する母の声に宝珠は青ざめた顔で答えた。
「お母様、あの人…」
「あの人?明鈴でしょう?」
「明鈴…明鈴の頭がなかった…」
絶句する母に宝珠は必死で説明した。幼いながらも利発な娘の言葉がふざけているとは思えず皇后は娘の話を聞き終えると静かに告げた。
「このことは絶対に誰にも言ってはいけませんよ」
宝珠は母の真剣な様子にこくりと頷いた。
それから程なくして明鈴が処刑されたことを宝珠は知った。皇帝である父が皇后である母に話している内容を聞いてしまったのだ。
皇帝が去ったあと、宝珠はおずおずと母に尋ねた。
「明鈴はなぜ死ななければならなかったの?」
慕っていた女官の死を悲しむよりも、首のない幻影を二度と見なくて済むと言うことに安堵を覚える自分に、幼いながらも後ろめたさを感じる。
そして、自分の見たものが彼女を死に追いやってしまったのではないかという恐怖も。
宝珠の気持ちを的確に汲み取った母は優しく微笑みながらあやすように頭を撫でた。
「明鈴はね、敵対する国の間者だったの。だからあなたが見たこととは関係ないのよ」
母はゆっくり一度目を閉じた。
「あなたは多分、特別な目を持ってる。その人の死期が近づくと最期の姿が見えてしまう。それはきっと時にはあなたを苦しめる。でも、必ずそれに助けられる日も来るわ」
そして幼い宝珠にしっかりと視線を合わせて母は再び告げた。
「でも、このことはあなたと私だけの秘密。私が良いと言うまで絶対に誰にも言ってはなりません」
生まれた時に浴びた第一声は、女官達のなんて美しい姫君なのでしょう、と言う言葉だった。
宝珠の母は美しさと儚さを持ち合わせながらもそれ以上に後宮で生き抜くために必要な強かさと賢さを持った人だった。
彼女は自分の娘が自分よりも美しくなることをすぐに見抜いた。
彼女は日々美しく育つ娘を部屋から滅多に出さず、父に当たる皇帝にすら極力合わせようとしなかった。娘の美しさが政治の道具として使われることを恐れたのだ。
宝珠は美しいだけでなく、とても利発な娘だった。
それは宝珠が4歳の時だった。いつもどおり皇后付きの女官が部屋を訪ねると宝珠はひっと小さく悲鳴をあげるなり逃げるように母の後ろに隠れた。
いつもは駆け寄ってくる宝珠が自分を避けたことに驚いた女官は、少し困惑した顔で、どうかなさいましたか、と彼女に尋ねた。しかし問われた宝珠は母の後ろに隠れるだけで、その日は一言も発さなかった。
女官が下がり二人きりになると母は優しく宝珠に尋ねた。
「どうしたの?いつもは飛びつかないばかりに駆け寄るあなたが」
優しく心配する母の声に宝珠は青ざめた顔で答えた。
「お母様、あの人…」
「あの人?明鈴でしょう?」
「明鈴…明鈴の頭がなかった…」
絶句する母に宝珠は必死で説明した。幼いながらも利発な娘の言葉がふざけているとは思えず皇后は娘の話を聞き終えると静かに告げた。
「このことは絶対に誰にも言ってはいけませんよ」
宝珠は母の真剣な様子にこくりと頷いた。
それから程なくして明鈴が処刑されたことを宝珠は知った。皇帝である父が皇后である母に話している内容を聞いてしまったのだ。
皇帝が去ったあと、宝珠はおずおずと母に尋ねた。
「明鈴はなぜ死ななければならなかったの?」
慕っていた女官の死を悲しむよりも、首のない幻影を二度と見なくて済むと言うことに安堵を覚える自分に、幼いながらも後ろめたさを感じる。
そして、自分の見たものが彼女を死に追いやってしまったのではないかという恐怖も。
宝珠の気持ちを的確に汲み取った母は優しく微笑みながらあやすように頭を撫でた。
「明鈴はね、敵対する国の間者だったの。だからあなたが見たこととは関係ないのよ」
母はゆっくり一度目を閉じた。
「あなたは多分、特別な目を持ってる。その人の死期が近づくと最期の姿が見えてしまう。それはきっと時にはあなたを苦しめる。でも、必ずそれに助けられる日も来るわ」
そして幼い宝珠にしっかりと視線を合わせて母は再び告げた。
「でも、このことはあなたと私だけの秘密。私が良いと言うまで絶対に誰にも言ってはなりません」
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