【完結】悪女のなみだ

じじ

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本編【第二章】

2-60

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「まだ分からぬ!」

焦ったように声を荒げるフォーゼム様に私はゆっくり頭を振った。

「分かります。彼らの娘ですから。」
「なぜ」
「カレンのことを見限った時、両親の心もきっと死んだのです。自分たちの死に場所を探していたのでしょう。それが今日だったと言うだけのことです」

淡々と告げた私の言葉を聞いて、フォーゼム様ははっとした様子で私を見た。先ほどまでと異なり、小さく呟く。

「そうかもしれないな」

その言葉と共に、フォーゼム様が両親を訪ねた時に言われた言葉を教えてくれた。

「私に許されようと願うカレンが許せなかったのですね」
「ああ」
「それならなおさら、今日のことは両親の意思でしょう。シュナイダー様の刑の執行を待って自死を選んだのがカレンへのせめてもの餞かもしれません。」
「だが…なぜ…」
「母はカレンなしには生きられなかった。父はサシャ殿なしには生きられなかった。そういうことなのでしょう」

そう。父ははるか昔、目の前で恋人を失った時に心が死んでしまっていたのだろう。代わりにと与えられた母との間に娘ができたから、なんとか生きながらえていただけで。

母にしても最愛の男性の心は、亡くなった姉にあり続けたのだ。行き場のなくした愛情は、自分によく似た娘に注がれた。それにも関わらず大嫌いな姉に似た娘に、カレンがこだわった挙句、死んだのであれば生きる気力を無くしても不思議ではない。

「明日になればはっきりするでしょうから。今日はどうかおやすみください。」

悄然とした様子で引き上げるフォーゼム様の姿に私は一抹の寂しさを感じる。
彼には私の心はきっと分からないだろう。
シュナイダーを断罪した時でさえ、彼の心には一抹の憂いを感じた。
彼は当たり前のように家族を愛して、そして愛されてきたのだ。
彼は私を受け入れられないかもしれない。実の両親を愛せず、その両親からも愛されていない私をいつか持て余すかもしれない。
分かっている。本当に彼のことを思うなら…彼の手を離すべきだ。彼から言えないのなら、なおさら。
それでも…それでもやはり手放せないのだ。彼から別れを告げられない限り…。

「お願い。少しだけの間でいいから…仮初でいいから。愛して…愛される家族が欲しいの。あなたに本当に愛する人ができたら別れるから。ごめんなさい」

閉められたドアにそう呟いた。
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