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本編【第二章】
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カレンの葬儀の日、私は妹の亡骸に触れた。
まるで眠っているように美しいのに、その冷たさが、残酷なほど彼女がすでにこの世の存在ではないことを示している。
両親は葬儀に来なかった。あれほど…私と彼女の仲を割いてさえ、愛したはずの娘だったはずなのに…その最期の姿すら見ようとはしなかった。
カレンとの最期の別れを終えた晩、私が部屋で休んでいるとフォーゼム様が訪ねてきた。
「今良いか」
「はい…カレンの葬儀の手配、ありがとうございました。」
「いや、これくらいしかできることがなくて…すまない」
疲労の色が濃く表れたフォーゼム様の表情に胸が締め付けられそうになる。
「あの、何かございましたか?」
私が尋ねると、フォーゼム様は神妙な顔で告げた。
「ああ。今聞かせるべきではないかもしれないが、シュナイダーとファボ子爵の息子は死罪となることが決まった」
「そうですか…」
「ファボ家からも全く異論はなかった」
「…」
「疲れている時にすまなかったな」
それだけ言って立ちあがろうとするフォーゼム様の手をぎゅっと握り、その場に留めて私は震える声で告げた。
「妹の仇をとってくださり、ありがとうございます。」
涙が勝手にぽろぽろと流れてくる。自分の口から出た言葉のはずなのに、思ってもみなかったセリフに自分で驚く。カレンの死に与う罰、それが死罪だと聞いて救われた心持ちになる自分が信じられなかった。私は自らの口では綺麗事を言いながらも心の底では、人の死を願っていたのだ。
「いや…少しでも償いになるのであれば…」
フォーゼム様は、そう言ったまま黙り込んでしまった。
切り捨てた妹に命を庇われて生きながらえてしまう私は…助けてもらったからと、掌を返すように妹の死を嘆き、加害者を殺したいと憎む私は…醜い。そう気づいてしまった。
「フォーゼム様。私は自分が許せません」
「違う。あなたに非はない。カレン殿が真相を打ち明ける覚悟ができなかったのはきっと私のせいだ」
「え?」
「私が彼女の言葉に耳を傾けようとしなかった。最初からあなたのことを邪魔する存在だと決めつけて…きっと正直に聞いた話を教えてくれても疑ってかかったに違いない。彼女もそれが分かったからあのような手段に出たんだ。だから、許せないのは私の方なんだ。」
フォーゼム様の声が掠れるのが分かる。顔を上げて思わずフォーゼム様を見ると、瞳にうっすらと涙を溜めている。
「フォーゼム様…」
「すまない。それでも私が悔いているのは…彼女を死なせてしまったこと以上にあなたを傷つけてしまったことなんだ。」
まるで眠っているように美しいのに、その冷たさが、残酷なほど彼女がすでにこの世の存在ではないことを示している。
両親は葬儀に来なかった。あれほど…私と彼女の仲を割いてさえ、愛したはずの娘だったはずなのに…その最期の姿すら見ようとはしなかった。
カレンとの最期の別れを終えた晩、私が部屋で休んでいるとフォーゼム様が訪ねてきた。
「今良いか」
「はい…カレンの葬儀の手配、ありがとうございました。」
「いや、これくらいしかできることがなくて…すまない」
疲労の色が濃く表れたフォーゼム様の表情に胸が締め付けられそうになる。
「あの、何かございましたか?」
私が尋ねると、フォーゼム様は神妙な顔で告げた。
「ああ。今聞かせるべきではないかもしれないが、シュナイダーとファボ子爵の息子は死罪となることが決まった」
「そうですか…」
「ファボ家からも全く異論はなかった」
「…」
「疲れている時にすまなかったな」
それだけ言って立ちあがろうとするフォーゼム様の手をぎゅっと握り、その場に留めて私は震える声で告げた。
「妹の仇をとってくださり、ありがとうございます。」
涙が勝手にぽろぽろと流れてくる。自分の口から出た言葉のはずなのに、思ってもみなかったセリフに自分で驚く。カレンの死に与う罰、それが死罪だと聞いて救われた心持ちになる自分が信じられなかった。私は自らの口では綺麗事を言いながらも心の底では、人の死を願っていたのだ。
「いや…少しでも償いになるのであれば…」
フォーゼム様は、そう言ったまま黙り込んでしまった。
切り捨てた妹に命を庇われて生きながらえてしまう私は…助けてもらったからと、掌を返すように妹の死を嘆き、加害者を殺したいと憎む私は…醜い。そう気づいてしまった。
「フォーゼム様。私は自分が許せません」
「違う。あなたに非はない。カレン殿が真相を打ち明ける覚悟ができなかったのはきっと私のせいだ」
「え?」
「私が彼女の言葉に耳を傾けようとしなかった。最初からあなたのことを邪魔する存在だと決めつけて…きっと正直に聞いた話を教えてくれても疑ってかかったに違いない。彼女もそれが分かったからあのような手段に出たんだ。だから、許せないのは私の方なんだ。」
フォーゼム様の声が掠れるのが分かる。顔を上げて思わずフォーゼム様を見ると、瞳にうっすらと涙を溜めている。
「フォーゼム様…」
「すまない。それでも私が悔いているのは…彼女を死なせてしまったこと以上にあなたを傷つけてしまったことなんだ。」
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