【完結】悪女のなみだ

じじ

文字の大きさ
上 下
75 / 91
本編【第二章】

2-48

しおりを挟む
「シュナイダーと一緒にいたのだろう?」
「あの、どうして…」
「君が言い淀むとすれば、私のことを慮ってとしか思えない…すまない。」
「先ほど、私がシュナイダー様のダンスのお誘いをお断りした時に一緒にいらっしゃったのです。でもまさか…」
「詳細は奴に聞く。本当にすまない」
「あの、フォーゼム様が悪いわけではございません。それにシュナイダー様が関与しているかも分かりませんし…」
「ありがとう…そうだといいのだが」

悄然とした様子のフォーゼム様の姿を見て胸が痛む。

「あの…シュナイダー様はどちらに?」
「おそらくまだパーティ会場だ。奴のことだ。おそらくまだこの騒ぎには気づいてないだろう」
「ということは会場の招待されて方達は…」
「ああ、まだ知らされていないはずだし、気づいている者もほとんどいないだろう。」

私が不思議そうな顔をしたからだろう。フォーゼム様は困ったような笑みを浮かべて続けた。

「君たちのいた控え室は、会場よりだいぶ入り口に近いからな。それにエルシラはこういうことに敏感なんだ。異変を察知することに長けているというか…だからこそ君の護衛を任せたのだが」
「そうでしたか」
「私はシュナイダーに話を聞くが、君はエルシラに屋敷まで送ってもらうといい。カレン殿のことは私の方で手配する」
「あの、私も同席させていただけないでしょうか」

カレンに何があったのか知りたい、そう思いフォーゼム様に尋ねる。答えはもちろん是だと信じていた。しかし返ってきた答えに言葉を失う。

「いや、それは…許可できない」

想定外の返答に絶句していると、フォーゼム様は一度ゆっくり瞬きしてから続けた。

「すまない。弟には必ず私から話を聞き出す。奴がカレン殿を弑した者と繋がりがあれば必ず厳罰を与える。だから、今日のところは…」

フォーゼム様の瞳が懇願するように揺れるのを見て、私は諦めた。

「そう…ですか。それならば仕方ありませんね。どうぞカレンのことをよろしくお願いします」
「ああ。エルシラ、カリーナを頼む」
「はい」

フォーゼム様に背を向けて歩き始めると、瞳から涙が伝ってくる。カレンを失った悲しみなのか、フォーゼム様に拒絶されたことへの恨みなのか分からない。そっと背中を優しく押されて見上げると、エルシラ様が困ったように微笑んでいた。

「カリーナ様。フォーゼムはおそらくこれ以上カリーナ様を渦中に置いておきたくなかったのです。決して悪意から同席を拒否した訳ではありませんよ。」



しおりを挟む
感想 23

あなたにおすすめの小説

もういいです、離婚しましょう。

うみか
恋愛
そうですか、あなたはその人を愛しているのですね。 もういいです、離婚しましょう。

悪役令嬢ですが、ヒロインの恋を応援していたら婚約者に執着されています

窓辺ミナミ
ファンタジー
悪役令嬢の リディア・メイトランド に転生した私。 シナリオ通りなら、死ぬ運命。 だけど、ヒロインと騎士のストーリーが神エピソード! そのスチルを生で見たい! 騎士エンドを見学するべく、ヒロインの恋を応援します! というわけで、私、悪役やりません! 来たるその日の為に、シナリオを改変し努力を重ねる日々。 あれれ、婚約者が何故か甘く見つめてきます……! 気付けば婚約者の王太子から溺愛されて……。 悪役令嬢だったはずのリディアと、彼女を愛してやまない執着系王子クリストファーの甘い恋物語。はじまりはじまり!

【完結】政略結婚はお断り致します!

かまり
恋愛
公爵令嬢アイリスは、悪い噂が立つ4歳年上のカイル王子との婚約が嫌で逃げ出し、森の奥の小さな山小屋でひっそりと一人暮らしを始めて1年が経っていた。 ある日、そこに見知らぬ男性が傷を追ってやってくる。 その男性は何かよっぽどのことがあったのか記憶を無くしていた… 帰るところもわからないその男性と、1人暮らしが寂しかったアイリスは、その山小屋で共同生活を始め、急速に2人の距離は近づいていく。 一方、幼い頃にアイリスと交わした結婚の約束を胸に抱えたまま、長い間出征に出ることになったカイル王子は、帰ったら結婚しようと思っていたのに、 戦争から戻って婚約の話が決まる直前に、そんな約束をすっかり忘れたアイリスが婚約を嫌がって逃げてしまったと知らされる。 しかし、王子には嫌われている原因となっている噂の誤解を解いて気持ちを伝えられない理由があった。 山小屋の彼とアイリスはどうなるのか… カイル王子はアイリスの誤解を解いて結婚できるのか… アイリスは、本当に心から好きだと思える人と結婚することができるのか… 『公爵令嬢』と『王子』が、それぞれ背負わされた宿命から抗い、幸せを勝ち取っていくサクセスラブストーリー。

乙女ゲームの世界だと、いつから思い込んでいた?

シナココ
ファンタジー
母親違いの妹をいじめたというふわふわした冤罪で婚約破棄された上に、最北の辺境地に流された公爵令嬢ハイデマリー。勝ち誇る妹・ゲルダは転生者。この世界のヒロインだと豪語し、王太子妃に成り上がる。乙女ゲームのハッピーエンドの確定だ。 ……乙女ゲームが終わったら、戦争ストラテジーゲームが始まるのだ。

【完結】離婚しましょうね。だって貴方は貴族ですから

すだもみぢ
恋愛
伯爵のトーマスは「貴族なのだから」が口癖の夫。 伯爵家に嫁いできた、子爵家の娘のローデリアは結婚してから彼から貴族の心得なるものをみっちりと教わった。 「貴族の妻として夫を支えて、家のために働きなさい」 「貴族の妻として慎みある行動をとりなさい」 しかし俺は男だから何をしても許されると、彼自身は趣味に明け暮れ、いつしか滅多に帰ってこなくなる。 微笑んで、全てを受け入れて従ってきたローデリア。 ある日帰ってきた夫に、貞淑な妻はいつもの笑顔で切りだした。 「貴族ですから離婚しましょう。貴族ですから受け入れますよね?」 彼の望み通りに動いているはずの妻の無意識で無邪気な逆襲が始まる。 ※意図的なスカッはありません。あくまでも本人は無意識でやってます。

職業『お飾りの妻』は自由に過ごしたい

LinK.
恋愛
勝手に決められた婚約者との初めての顔合わせ。 相手に契約だと言われ、もう後がないサマンサは愛のない形だけの契約結婚に同意した。 何事にも従順に従って生きてきたサマンサ。 相手の求める通りに動く彼女は、都合のいいお飾りの妻だった。 契約中は立派な妻を演じましょう。必要ない時は自由に過ごしても良いですよね?

義妹のせいで、婚約した相手に会う前にすっかり嫌われて婚約が白紙になったのになぜか私のことを探し回っていたようです

珠宮さくら
恋愛
サヴァスティンカ・メテリアは、ルーニア国の伯爵家に生まれた。母を亡くし、父は何を思ったのか再婚した。その再婚相手の連れ子は、義母と一緒で酷かった。いや、義母よりうんと酷かったかも知れない。 そんな義母と義妹によって、せっかく伯爵家に婿入りしてくれることになった子息に会う前にサヴァスティンカは嫌われることになり、婚約も白紙になってしまうのだが、義妹はその子息の兄と婚約することになったようで、義母と一緒になって大喜びしていた 。

罠にはめられた公爵令嬢~今度は私が報復する番です

結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
ファンタジー
【私と私の家族の命を奪ったのは一体誰?】 私には婚約中の王子がいた。 ある夜のこと、内密で王子から城に呼び出されると、彼は見知らぬ女性と共に私を待ち受けていた。 そして突然告げられた一方的な婚約破棄。しかし二人の婚約は政略的なものであり、とてもでは無いが受け入れられるものではなかった。そこで婚約破棄の件は持ち帰らせてもらうことにしたその帰り道。突然馬車が襲われ、逃げる途中で私は滝に落下してしまう。 次に目覚めた場所は粗末な小屋の中で、私を助けたという青年が側にいた。そして彼の話で私は驚愕の事実を知ることになる。 目覚めた世界は10年後であり、家族は反逆罪で全員処刑されていた。更に驚くべきことに蘇った身体は全く別人の女性であった。 名前も素性も分からないこの身体で、自分と家族の命を奪った相手に必ず報復することに私は決めた――。 ※他サイトでも投稿中

処理中です...