【完結】悪女のなみだ

じじ

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本編【第二章】

2-25 アン視点

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カリーナ様が不安そうに私を見ながら馬車に乗り込む。私が励ますように笑いかけると、ようやく少しだけ安心した表情をしてくださった。
全く…と私は溜め息を吐きそうになった。カリーナ様は私のことを心配し過ぎだ。今はフォーゼム様とのこれからを考えて幸せいっぱいで過ごせばいいのに、この屋敷に残る私のことを案じてくださってるのだ。そんなこと必要ないのに…。
私は、馬車が見えなくなると同時に思いっきり伸びをした。カリーナ様がフォーゼム様の庇護下に入られた今、私はこの屋敷で怖いものなどなくなっていた。

「さてと、手始めにカレン様の部屋に参りますか」

屋敷の扉に手をかけながらつぶやくと、不謹慎だがわくわくしてきた。
今まで、一方的に罵られるカリーナ様をどれほど歯痒い思いで見つめていたか。心の中で彼らに言いたいことは山ほどあったが、メイドの身で言い返してしまえば、その矛先はカリーナ様に向いてしまうと分かっていたからこそ耐えたのだ。
でも、これからは容赦しなくて済むのだ。

本当なら彼らには生きる気力をなくすほどの絶望を与えてやりたい。長い年月、虐げられ傷つけられてきたカリーナ様の苦しみを、分からせてやりたい。でも優しいカリーナ様のことだ。そんなことは望まないだろう。
だから、せめて絶望感を覚えるほどに悔いさせてやる。


コンコン。
カレン様の部屋のドアをノックすると、誰?と傲慢な口調でカレン様が返事をなさった。その声を聞いて自分の口の端が歪むのが分かる。

「アンでございます。いま、よろしいでしょうか」
「はあ。なに?」

面倒くさそうな声で答えられたが、入るなと言われたわけではないので、ドアを開ける。部屋に入ると、ベッドに横たわったカレン様がじろりとこちらを見ていた。

「お加減いかがでございますか」

別に悪かったとしても容赦するつもりなど毛頭ないが、形だけでも聞いておく。

「良いわけないでしょう。血がいっぱい出たんだから。」
「そうでしょうね。」
「分かってるなら聞かないでよ」
「いえ。まだお礼を言われていなかったものですから」
「何の話よ」
「手当、私とフォーゼム様でさせていただきました。放っておいたら失血死したかもしれませんね」

実際はそれほど大したことなかったがら少し脅してみると、案の定顔色がさっと変わった。

「うそよ」
「なぜ?死んでも良いと思って首を切られたのでは?」
「…」

黙ったカレン様に追い討ちをかけた。

「ああ。やはりカリーナ様の気を引きたかっただけだったのですね」


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