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本編【第二章】
2-15
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「何するの!?」
カレンが叫んだ瞬間、フォーゼム様に強く抱き寄せられ、そのままフォーゼム様の背後に庇われる。
「どう言うつもりよ!」
「見た通りだ」
冷静に告げたフォーゼム様を射殺さんばかりに睨みつけながら、フォーゼム様の手から滴り落ちる血に気づいたカレンは次いで、私の顔を確認した。
「私から見えないのをいいことに自分の手を切ったのね。そのためにカリーナの顔を押さえたってわけね。良くやるわ。そんな女なんかのために」
吐き捨てるように言うカレンの言葉が心に突き刺さる。
「そんな女?」
フォーゼム様が纏う空気が冷たいものへと変わる。
「カリーナのことを言っているなら訂正してもらう」
静かだが、怒気を孕んだ物言いに一瞬カレンがたじろいだ。しかしすぐにフォーゼム様へとくってかかる。
「あなたも大概役者ね。さっきまで散々私に甘い言葉を呟いておきながら。今度は血に濡れた手で姉様を抱き寄せるのね」
「あなたへの甘言は反吐が出そうだったよ。」
「それならよくあれほど嘘がつけたことね。さっさと私の手からガラス片を叩き落とせば良かったのに」
「万が一にでも、カリーナに痛い思いをさせたくなかったからな」
「は?顔に傷をつけたくなかったの間違いでしょう」
馬鹿にしたようにカレンはフォーゼム様に吐き捨てる。
「カリーナの顔に傷があろうがなかろうが些末なことだ。だが、目の前で彼女を傷つけ痛い思いをさせることなど容認できるわけないだろう」
「そのためになら、嫌な女にでも跪いて愛を請えるの?自尊心のかけらもないのね」
嘲笑するカレンに、私は居た堪れなくなった。私なんかのせいでフォーゼム様は屈辱的なことと怪我をしなければならなかったのだと思うと、悲しみが込み上げてくる。
「跪くくらいでカリーナが傷一つ負わずに済むなら安いと思わないか」
しれっとした様子でフォーゼム様はカレンに告げた。
「それとも、あなたの取り巻き連中はそんなことすら、あなたのためにはできないような奴ばかりなのか?」
「なんですって」
「私はカリーナのためならなんだってできる。自分より遥かに大事だと思えるひとだからな。」
「…」
絶句したカレンを見て、私はようやく自分のすべきことを思い出した。
「あの、フォーゼム様。止血をさせてください。」
「あ、ああ。すまないな。怖い思いをさせた」
「いいえ…いいえ。本当にありがとうございます」
ギュッとハンカチできつく腕を縛る。立ち尽くしたままのカレンに私は言った。
「カレン、謝りなさい」
「…」
「カレン。フォーゼム様に謝りなさい」
「…」
私は溜め息を吐いた。その瞬間カレンはガラス片を拾い、全くためらいもせずに自分の首を切った。
カレンが叫んだ瞬間、フォーゼム様に強く抱き寄せられ、そのままフォーゼム様の背後に庇われる。
「どう言うつもりよ!」
「見た通りだ」
冷静に告げたフォーゼム様を射殺さんばかりに睨みつけながら、フォーゼム様の手から滴り落ちる血に気づいたカレンは次いで、私の顔を確認した。
「私から見えないのをいいことに自分の手を切ったのね。そのためにカリーナの顔を押さえたってわけね。良くやるわ。そんな女なんかのために」
吐き捨てるように言うカレンの言葉が心に突き刺さる。
「そんな女?」
フォーゼム様が纏う空気が冷たいものへと変わる。
「カリーナのことを言っているなら訂正してもらう」
静かだが、怒気を孕んだ物言いに一瞬カレンがたじろいだ。しかしすぐにフォーゼム様へとくってかかる。
「あなたも大概役者ね。さっきまで散々私に甘い言葉を呟いておきながら。今度は血に濡れた手で姉様を抱き寄せるのね」
「あなたへの甘言は反吐が出そうだったよ。」
「それならよくあれほど嘘がつけたことね。さっさと私の手からガラス片を叩き落とせば良かったのに」
「万が一にでも、カリーナに痛い思いをさせたくなかったからな」
「は?顔に傷をつけたくなかったの間違いでしょう」
馬鹿にしたようにカレンはフォーゼム様に吐き捨てる。
「カリーナの顔に傷があろうがなかろうが些末なことだ。だが、目の前で彼女を傷つけ痛い思いをさせることなど容認できるわけないだろう」
「そのためになら、嫌な女にでも跪いて愛を請えるの?自尊心のかけらもないのね」
嘲笑するカレンに、私は居た堪れなくなった。私なんかのせいでフォーゼム様は屈辱的なことと怪我をしなければならなかったのだと思うと、悲しみが込み上げてくる。
「跪くくらいでカリーナが傷一つ負わずに済むなら安いと思わないか」
しれっとした様子でフォーゼム様はカレンに告げた。
「それとも、あなたの取り巻き連中はそんなことすら、あなたのためにはできないような奴ばかりなのか?」
「なんですって」
「私はカリーナのためならなんだってできる。自分より遥かに大事だと思えるひとだからな。」
「…」
絶句したカレンを見て、私はようやく自分のすべきことを思い出した。
「あの、フォーゼム様。止血をさせてください。」
「あ、ああ。すまないな。怖い思いをさせた」
「いいえ…いいえ。本当にありがとうございます」
ギュッとハンカチできつく腕を縛る。立ち尽くしたままのカレンに私は言った。
「カレン、謝りなさい」
「…」
「カレン。フォーゼム様に謝りなさい」
「…」
私は溜め息を吐いた。その瞬間カレンはガラス片を拾い、全くためらいもせずに自分の首を切った。
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