【完結】悪女のなみだ

じじ

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本編【第二章】

2ー14

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言われたカリーナは馬鹿にした笑い声をあげた。

「あら、ダメよ。」
「なぜだ」
「まだ、あなたのこと信じてないもの。」

そう言うとカレンは私に優しく声をかけた。

「動かないでね、姉様。どちらにせよ顔に傷を作ることになるけど、少しでも遅い方がいいでしょう?」

私の頬にガラスを当てたまま、後ろに周りこむ。力が込められているのは刃先だけで、後は緩く腕をかけられているだけなのに、まるで羽交い締めにされているような気分になる。

「ほら、フォーゼム様の方を向きなさい」

カレンに言われた通りにフォーゼム様が真正面になるように動く。横目でしか見えなかったフォーゼム様を真正面から見て、私はぞくりとした。感情の読めない瞳で、ひたすらカレンを見つめている。

「カリーナ嬢の顔に傷を作ればいいのか」

再度尋ねたフォーゼム様にカレンはさも愉快そうに答えた。

「あら、本当になさるの?」
「それで私の心を信じて貰えるならな」
「なら、そこのガラスの破片拾いなさい。それで痕が残るくらい深い傷を姉様につけて。それであなたを許すし、あなたの言葉を信じるわ」

そして、カレンは私の耳元で甘く囁く。

「かわいそうな姉様。信じた相手にも裏切られて結局最後は何も残らないのよ。でも良かったわね。夢を見る期間が短くて。すぐに覚める夢だったから傷も深くないでしょう?」

フォーゼム様は一際鋭利なガラス片を拾う。私は思わず涙をこぼした。流れた涙が頬を伝ってカレンの腕に落ちたのだろう、カレンは嬉しそうな声で囁く。

「あら、かわいそうに泣いてるのね。一瞬でも心許した、いえ愛した男性に裏切られて傷つけられるなんて…姉様ってば本当にかわいそう」

フォーゼム様は私の顔を押さえつけるように手を当てた。そして、柔らかな声音で残酷な言葉を放った。

「カリーナ嬢すまないな。動くとかえって危ないから押えさせてもらう。」
「あら、優しいのね。」

馬鹿にした笑いと共にカリーナが揶揄う。
フォーゼム様は表情を変えることなく私の頬にガラス片を近づけてくる。

「すまない」

フォーゼム様がそう言った瞬間、左頬あたりから血が吹き出すのが見えた。

「きゃあ」

予想していたこととはいえ、見たこともない血の量に思わず悲鳴を上げる。
フォーゼム様の手元が死角だったカレンは、私の悲鳴と腕に滴る生温かい感触に、願いは叶ったと思ったらしい。
右頬に当てていたガラス片をすっと下ろして、私の顔を覗き込もうとした。
その瞬間に、カレンが持っていたガラス片はフォーゼム様によって叩き落とされた。

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