39 / 91
本編【第二章】
2-12
しおりを挟む
「あなた、何を…」
言いかけた瞬間、彼女は割れたガラスを手で掴んだ。鋭利な破片は彼女の美しい手を傷つけ、真っ赤な血がポタポタと床に落ちた。
「落ち着きなさい、カレン」
私は彼女を落ち着けるために静かに声をかける。しかし、彼女は仄暗く笑ったまま答えた。
「カリーナ。私は冷静よ。もちろん賢いあなたからみたら私は馬鹿なことをしているようにしか見えないのでしょう?」
「…」
「本当にね、うんざりなのよ。その顔で憐れまれるのも、嗜められるのも。だからね、このガラスであなたの顔を傷つけてあげる。二度と安易に私のことを褒められないくらい醜い傷を残してあげるわ」
カレンがわがままなことはよく分かっていた。でも、いま彼女から感じるのは、紛れもない狂気だけだ。刺されるのだろうか、切り付けられるのだろうか、そんなことをふと考える。そして一拍置いて、逃げなければという思いに駆られる。
思わず、扉の方に視線をやると彼女はいともおかしそうに声をかけてきた。
「あら、姉様。私から逃げるつもりかしら。でも、味方のいない屋敷でいつまで逃げ切れるかしらね」
すっと私に近寄ってくる彼女に思わず体がたじろいだ。
「姉様ってば怖がりね。大丈夫よ。命まで奪いはしないわよ。」
私の真正面までやってきて破片の先を私の頬に当てて彼女は、それまでと一転してまるで天使のような微笑みを浮かべた。
「誰よりも美しい姉様。私はずっとその顔に憧れていたわ。そして同時にとても憎んでいたの。」
「…」
「私が心から欲しているものを何の努力もせずに得ておきながら、まるで煩わしいとばかりに厭う様子にどれほど私が惨めに思ったか…傷つけられた知らないでしょう?」
「…」
「だからね、もう私が終わりにしてあげる。その顔に傷がついて初めて姉様は私の気持ちを思い知るのよ。ふふっおかしいわね。私ってば幼い頃は姉様の顔を見ただけで幸せな気持ちになれたのに。今は、その顔が無くなると思うだけでこんな幸せな気持ちになるんだもの」
カリーナの手に力が込められるのが分かる。逃げなければ思うのに、足を鉛のように重く感じて動けない。
それは突然のことだった。コンコンと扉をノックする音。
「カレン嬢、すまないが入っていいか」
そう言うと、尋ねておきながら返事を待たずにフォーゼム様は入ってきた。
そして、私達姉妹の様子を見て一瞬驚いたような表情を見せたあと、彼は告げた。
言いかけた瞬間、彼女は割れたガラスを手で掴んだ。鋭利な破片は彼女の美しい手を傷つけ、真っ赤な血がポタポタと床に落ちた。
「落ち着きなさい、カレン」
私は彼女を落ち着けるために静かに声をかける。しかし、彼女は仄暗く笑ったまま答えた。
「カリーナ。私は冷静よ。もちろん賢いあなたからみたら私は馬鹿なことをしているようにしか見えないのでしょう?」
「…」
「本当にね、うんざりなのよ。その顔で憐れまれるのも、嗜められるのも。だからね、このガラスであなたの顔を傷つけてあげる。二度と安易に私のことを褒められないくらい醜い傷を残してあげるわ」
カレンがわがままなことはよく分かっていた。でも、いま彼女から感じるのは、紛れもない狂気だけだ。刺されるのだろうか、切り付けられるのだろうか、そんなことをふと考える。そして一拍置いて、逃げなければという思いに駆られる。
思わず、扉の方に視線をやると彼女はいともおかしそうに声をかけてきた。
「あら、姉様。私から逃げるつもりかしら。でも、味方のいない屋敷でいつまで逃げ切れるかしらね」
すっと私に近寄ってくる彼女に思わず体がたじろいだ。
「姉様ってば怖がりね。大丈夫よ。命まで奪いはしないわよ。」
私の真正面までやってきて破片の先を私の頬に当てて彼女は、それまでと一転してまるで天使のような微笑みを浮かべた。
「誰よりも美しい姉様。私はずっとその顔に憧れていたわ。そして同時にとても憎んでいたの。」
「…」
「私が心から欲しているものを何の努力もせずに得ておきながら、まるで煩わしいとばかりに厭う様子にどれほど私が惨めに思ったか…傷つけられた知らないでしょう?」
「…」
「だからね、もう私が終わりにしてあげる。その顔に傷がついて初めて姉様は私の気持ちを思い知るのよ。ふふっおかしいわね。私ってば幼い頃は姉様の顔を見ただけで幸せな気持ちになれたのに。今は、その顔が無くなると思うだけでこんな幸せな気持ちになるんだもの」
カリーナの手に力が込められるのが分かる。逃げなければ思うのに、足を鉛のように重く感じて動けない。
それは突然のことだった。コンコンと扉をノックする音。
「カレン嬢、すまないが入っていいか」
そう言うと、尋ねておきながら返事を待たずにフォーゼム様は入ってきた。
そして、私達姉妹の様子を見て一瞬驚いたような表情を見せたあと、彼は告げた。
20
お気に入りに追加
370
あなたにおすすめの小説

【完結】政略結婚はお断り致します!
かまり
恋愛
公爵令嬢アイリスは、悪い噂が立つ4歳年上のカイル王子との婚約が嫌で逃げ出し、森の奥の小さな山小屋でひっそりと一人暮らしを始めて1年が経っていた。
ある日、そこに見知らぬ男性が傷を追ってやってくる。
その男性は何かよっぽどのことがあったのか記憶を無くしていた…
帰るところもわからないその男性と、1人暮らしが寂しかったアイリスは、その山小屋で共同生活を始め、急速に2人の距離は近づいていく。
一方、幼い頃にアイリスと交わした結婚の約束を胸に抱えたまま、長い間出征に出ることになったカイル王子は、帰ったら結婚しようと思っていたのに、
戦争から戻って婚約の話が決まる直前に、そんな約束をすっかり忘れたアイリスが婚約を嫌がって逃げてしまったと知らされる。
しかし、王子には嫌われている原因となっている噂の誤解を解いて気持ちを伝えられない理由があった。
山小屋の彼とアイリスはどうなるのか…
カイル王子はアイリスの誤解を解いて結婚できるのか…
アイリスは、本当に心から好きだと思える人と結婚することができるのか…
『公爵令嬢』と『王子』が、それぞれ背負わされた宿命から抗い、幸せを勝ち取っていくサクセスラブストーリー。

悪役令嬢ですが、ヒロインの恋を応援していたら婚約者に執着されています
窓辺ミナミ
ファンタジー
悪役令嬢の リディア・メイトランド に転生した私。
シナリオ通りなら、死ぬ運命。
だけど、ヒロインと騎士のストーリーが神エピソード! そのスチルを生で見たい!
騎士エンドを見学するべく、ヒロインの恋を応援します!
というわけで、私、悪役やりません!
来たるその日の為に、シナリオを改変し努力を重ねる日々。
あれれ、婚約者が何故か甘く見つめてきます……!
気付けば婚約者の王太子から溺愛されて……。
悪役令嬢だったはずのリディアと、彼女を愛してやまない執着系王子クリストファーの甘い恋物語。はじまりはじまり!
乙女ゲームの世界だと、いつから思い込んでいた?
シナココ
ファンタジー
母親違いの妹をいじめたというふわふわした冤罪で婚約破棄された上に、最北の辺境地に流された公爵令嬢ハイデマリー。勝ち誇る妹・ゲルダは転生者。この世界のヒロインだと豪語し、王太子妃に成り上がる。乙女ゲームのハッピーエンドの確定だ。
……乙女ゲームが終わったら、戦争ストラテジーゲームが始まるのだ。

【完結】離婚しましょうね。だって貴方は貴族ですから
すだもみぢ
恋愛
伯爵のトーマスは「貴族なのだから」が口癖の夫。
伯爵家に嫁いできた、子爵家の娘のローデリアは結婚してから彼から貴族の心得なるものをみっちりと教わった。
「貴族の妻として夫を支えて、家のために働きなさい」
「貴族の妻として慎みある行動をとりなさい」
しかし俺は男だから何をしても許されると、彼自身は趣味に明け暮れ、いつしか滅多に帰ってこなくなる。
微笑んで、全てを受け入れて従ってきたローデリア。
ある日帰ってきた夫に、貞淑な妻はいつもの笑顔で切りだした。
「貴族ですから離婚しましょう。貴族ですから受け入れますよね?」
彼の望み通りに動いているはずの妻の無意識で無邪気な逆襲が始まる。
※意図的なスカッはありません。あくまでも本人は無意識でやってます。
記憶喪失になった嫌われ悪女は心を入れ替える事にした
結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
ファンタジー
池で溺れて死にかけた私は意識を取り戻した時、全ての記憶を失っていた。それと同時に自分が周囲の人々から陰で悪女と呼ばれ、嫌われている事を知る。どうせ記憶喪失になったなら今から心を入れ替えて生きていこう。そして私はさらに衝撃の事実を知る事になる―。
罠にはめられた公爵令嬢~今度は私が報復する番です
結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
ファンタジー
【私と私の家族の命を奪ったのは一体誰?】
私には婚約中の王子がいた。
ある夜のこと、内密で王子から城に呼び出されると、彼は見知らぬ女性と共に私を待ち受けていた。
そして突然告げられた一方的な婚約破棄。しかし二人の婚約は政略的なものであり、とてもでは無いが受け入れられるものではなかった。そこで婚約破棄の件は持ち帰らせてもらうことにしたその帰り道。突然馬車が襲われ、逃げる途中で私は滝に落下してしまう。
次に目覚めた場所は粗末な小屋の中で、私を助けたという青年が側にいた。そして彼の話で私は驚愕の事実を知ることになる。
目覚めた世界は10年後であり、家族は反逆罪で全員処刑されていた。更に驚くべきことに蘇った身体は全く別人の女性であった。
名前も素性も分からないこの身体で、自分と家族の命を奪った相手に必ず報復することに私は決めた――。
※他サイトでも投稿中

義妹のせいで、婚約した相手に会う前にすっかり嫌われて婚約が白紙になったのになぜか私のことを探し回っていたようです
珠宮さくら
恋愛
サヴァスティンカ・メテリアは、ルーニア国の伯爵家に生まれた。母を亡くし、父は何を思ったのか再婚した。その再婚相手の連れ子は、義母と一緒で酷かった。いや、義母よりうんと酷かったかも知れない。
そんな義母と義妹によって、せっかく伯爵家に婿入りしてくれることになった子息に会う前にサヴァスティンカは嫌われることになり、婚約も白紙になってしまうのだが、義妹はその子息の兄と婚約することになったようで、義母と一緒になって大喜びしていた
。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる