【完結】悪女のなみだ

じじ

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本編【第二章】

2-8

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「あなた…」

母は父に止められたことを驚いたようだ。正気に戻ったようにしばらく父を見つめた後、その顔は、ぐにゃりと不愉快な笑みを浮かべた。

「そう。そうね。あなたはサシャを愛していたものね。私のことよりはるかに深く。私ってば馬鹿みたいだわ。」
「何を」
「喜びなさい、カレン。この男はね、私やあなたよりカリーナとサシャをとったのよ」
「何を言ってるんだ」
「だってそうでしょう?あなたがカリーナに辛く当たるのはサシャの生き写しだから。深く愛した女性に良く似た娘を愛せなかったのはサシャを思い出すからじゃないの?自分だけをこの世に置いて行ったサシャのことをずっと恨み続けて…いえ、思い続けてるからでしょう?」
「黙れ」

父が母にこんな風に言うのは初めて聞いた。いつもどこか母には気を遣ったように話していたのに。
父は自分を落ち着かせるように息を吐いた後、極力柔らかな声音に聞こえるように努力した声で母に呼びかけた。

「クレア、悪いが君に話したいことがある。一緒に来てくれ」

ハッとしたように母は顔を上げると青ざめた表情のまま父に従った。

置いてきぼりにされた私は呆然とする。同じく呆気に取られた様子で二人を見ていたカレンだが、扉の閉まる音とともに我に返ったらしい。
刺すような視線で私を睨みつけながら低い声で呪詛の如き言葉を放つ。

「本当になんなの、あんた。いつもみたいに地味な年寄りみたいな格好してればよかったものを。あんたが変な気を起こすから最悪な事ばっかり起こるのよ、この疫病神!」

普段であればここでカレンに気を遣いながら嗜めたり謝ったりするが、今日はそんな気になれない。思えば、私は何をそんなに怯えていたのだろう?カレンの暴言を聞きながら私は考えた。

周りから愛される一見すると天使のような妹の存在そのもの?妹しか可愛がらない両親の機嫌?それとも、その妹が流した私の悪い噂を鵜呑みにしている周りの人間からの視線?

違う。私が本当に恐れたのは自分を信頼して愛してくれる人間がことだ。
だから私は明確に嫌われていると分かっていても両親の顔色を伺っていたし、その彼らが溺愛するカレンの愚かな行動や考えも被害が私だけですむなら黙って許した。いつか愛してもらえるかもしれないと思っていたから。

でも、私にはもう彼らに頓着する必要はなかった。
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