【完結】悪女のなみだ

じじ

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サイドストーリー

フォーゼムの告白2

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「え」

びっくりして目を見開く様子も愛らしい。しかし言ってしまった以上腹をくくって話すしかない。

「あなたがまだ幼い少女の時、初めて王宮の庭園で見かけたんだ。といっても最初は話し声が聞こえただけだったが…内容が聞こえてくるうちにどんな少女たちだろうと単純に興味がわいた。そしてこっそりのぞいて見たんだ。趣味がよくないことは分かっていたが…。驚いたよ。容姿と話ている内容が思った少女とそれぞれ逆だったのだから。そして人を容姿で判断していた自分を恥じた。」
「全く知りませんでした。」
「ああ。あなたは窘めていたが、カレン嬢の話している内容があまり趣味の良いものじゃなかったからな。人がいることが分かれば気まずいかと思い、そのままそっとその場を離れたんだ。」
「そうだったのですね」
「次に出会ったのはそれから数年後の年始の仮面舞踏会だ。」

その単語を聞いた彼女は一瞬苦い表情を見せる。おそらく私と同じでよい思い出がないのだろう。

「仲間内に見つかってたらふく酒を飲まされた私をあなたは見かねて助けてくれた。一人でふらついていた私を近くの空き部屋にいざなって、水を用意してくれたのだが覚えているだろうか」

問いかけると、目をまんまるにして驚いている。

「まさか、あの時の!」
「ああ。不躾にもあなたの名前を聞いた酔っ払いだ。」
「まあ…。」

絶句する彼女を前に私は苦笑いとともに白状した。

「実は助けてくれた時点で、あなたではないかと思っていたんだ。」
「なぜでしょうか」
「華美な仮面が好まれる中であなたのはなんというか…」
「地味でしたか」

投げやりだったとか、やる気がなかった、と言いかけた私は寸前で言葉を飲み込み、カリーナの言葉にうなずく。地味、の方がまだましだろう。

「そうだな。ある意味目立っていた。」
「そうですか」

今度はしょんぼりした様子で答える。目立ちたくないのに、悪目立ちしていた事実を知りいたたまれないのだろう。

「でも、確証がなかったからな。どうしても助けてくれた相手があなたであると確かめたくて聞いたんだ」
「そうだったのですね」
「あなたの名前を聞いた時、やはりと納得した。それで私も身分を明かそうとしたら、あなたが仮面舞踏会だから秘密のままでと言ってくれた。そのあとすぐに気づいたが、あれは私の名誉を守ってくれたのだな」
「…」
「酒に呑まれてみっともない姿をさらしていた私に、身分を明かさせて恥をかかせるわけにはいかないというあなたの気遣いであったのだろう。今更だがあの時は本当にすまなかった。そしてありがとう。」

私は一息つくと、そのままの勢いで続けた。

「あの時、顔の見えない相手にも優しく接するあなたを見て、初めて恋に落ちたんだ。それまで私は結婚相手について深く考えたことなどなかった。いつか親が決めた相手とするのだろうとぼんやり思っていたくらいだ。でもあなたを知って私は妻に迎えるならあなた以外の女性は受け入れられないと思ったんだ。だから、そんな簡単にプロポーズを取り消すだなんていわないでくれ。本当にあなたに恋焦がれていたんだ」

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