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サイドストーリー
サシャの悲嘆(20年前)
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ずっと私は死に場所を探し求めていた気がする。
優しい両親、可愛い妹、そして愛しいはずの婚約者。満ち足りた人生だと分かっている。でも私は幸せではなかった。
私は家族や婚約者がいながらも、人や自分を全く愛せなかった。興味をもてなかった。しかしそれは周りの人間にとってはどうでもいいことなのだろう。私の全ては周りの人を満たすためだけにあり、私の想いなど関係ないのだ。
優しくあること、美しくあること、聡明であること、全ては周りが求める私を演じているだけにすぎない。
妹のクレアが時々、刺すような視線で私をみるのが不思議だ。恵まれているのは彼女の方だろうに。引っ込み思案な妹だが、一方で家族や友人といるときは天真爛漫で、彼女の周りにはいつも優しい風が吹く。私に優しさを求める人は、今度はクレアに優しさを与えるようだ。
みんな、私には求めて、彼女には与えた。
決してそれが嫌だったわけじゃない。求められているものを与えられる自分で良かったと思うことはあっても、クレアを妬んだことなどない。妬むほどの感情を持てなかった。
しかし、クレアの視線に複雑な色が混じることは成長とともに多くなった。
私への慕情に憧憬、嫉妬、そして恋敵としての憎悪。
幼い頃はただ慕ってくれるだけだった妹も、年頃になり、さまざまに思うところがあるのだろう。
彼女がジェラルドを好いていることも知っていた。私はジェドに対して友人以上の感情はなかったので、クレアとジェドが婚約関係になると思っていた。しかし、理由なく長女より先に次女の婚約者を決めるなど普通はしない。慣例にのっとって、両親も私をジェドの婚約者とした。
ジェドは私が婚約者となったことをとても喜んでくれた。彼は深く包み込むような愛で私を大切にしてくれるだろう。
ジェドと生きる未来は楽しいだろうか。これほど愛してくれる人の側なら私も少しは人を愛せるようになるかもしれない。いや、既に愛しているのだと自分に言い聞かせるために、ジェドに愛を囁く。私の言葉を純粋に受け取り嬉しそうに微笑む彼に罪悪感を覚える。
「あなたのように人を愛せない」
そう言えればどれだけ楽だろうか。友としての親しみ以上の感情は、相手が誰であっても持ち合わせていないと告白できたら。
両家への挨拶を終え、正式に婚約が決まったのは先ほどだ。これまでは互いに親から聞いているだけの状態だったが、挨拶が終わったからには正式なパートナーとなり、家族に準ずる扱いとなる。一生自分をそして彼を偽り続けて生きて行かなければならないのだ。
彼は私にカフェテラスで待つように言った。おそらく私への贈り物だろう。喜ばないといけないな、とぼんやり頭の片隅で考える。その時不意に若い母親の叫ぶ声が聞こえた。目の前を幼い子どもが駆け抜けた。しかし、母親の声に驚いたように立ち止まってしまう。
考えるより先に体が動いた、渾身の力で子どもを突き飛ばした瞬間、体が一瞬宙に浮く。直後激しい衝撃を体に受けた。跳ねられて叩きつけられたのだ、と分かる。
遠くの方で、母親が何か言っている声が聞こえる。その時、視界にジェドが現れた。子どもが無事か聞きたいのに声が出ない。その想いを察したようにジェドは伝えてくれた。
「子どもは無事だ。君のおかげだ」
その言葉を聞いて私は安心した。良かった。そしてジェドに精一杯の力を振り絞って笑いかける。
よかった、これであなたを傷つけずにすむ。私と共に生きたならあなたはいつか私の本心
に気付き傷ついたかもしれない。あなたには純粋にあなたを愛する人と幸せになって欲しい。
だから、今日のことは、私のことはどうか忘れて。
優しい両親、可愛い妹、そして愛しいはずの婚約者。満ち足りた人生だと分かっている。でも私は幸せではなかった。
私は家族や婚約者がいながらも、人や自分を全く愛せなかった。興味をもてなかった。しかしそれは周りの人間にとってはどうでもいいことなのだろう。私の全ては周りの人を満たすためだけにあり、私の想いなど関係ないのだ。
優しくあること、美しくあること、聡明であること、全ては周りが求める私を演じているだけにすぎない。
妹のクレアが時々、刺すような視線で私をみるのが不思議だ。恵まれているのは彼女の方だろうに。引っ込み思案な妹だが、一方で家族や友人といるときは天真爛漫で、彼女の周りにはいつも優しい風が吹く。私に優しさを求める人は、今度はクレアに優しさを与えるようだ。
みんな、私には求めて、彼女には与えた。
決してそれが嫌だったわけじゃない。求められているものを与えられる自分で良かったと思うことはあっても、クレアを妬んだことなどない。妬むほどの感情を持てなかった。
しかし、クレアの視線に複雑な色が混じることは成長とともに多くなった。
私への慕情に憧憬、嫉妬、そして恋敵としての憎悪。
幼い頃はただ慕ってくれるだけだった妹も、年頃になり、さまざまに思うところがあるのだろう。
彼女がジェラルドを好いていることも知っていた。私はジェドに対して友人以上の感情はなかったので、クレアとジェドが婚約関係になると思っていた。しかし、理由なく長女より先に次女の婚約者を決めるなど普通はしない。慣例にのっとって、両親も私をジェドの婚約者とした。
ジェドは私が婚約者となったことをとても喜んでくれた。彼は深く包み込むような愛で私を大切にしてくれるだろう。
ジェドと生きる未来は楽しいだろうか。これほど愛してくれる人の側なら私も少しは人を愛せるようになるかもしれない。いや、既に愛しているのだと自分に言い聞かせるために、ジェドに愛を囁く。私の言葉を純粋に受け取り嬉しそうに微笑む彼に罪悪感を覚える。
「あなたのように人を愛せない」
そう言えればどれだけ楽だろうか。友としての親しみ以上の感情は、相手が誰であっても持ち合わせていないと告白できたら。
両家への挨拶を終え、正式に婚約が決まったのは先ほどだ。これまでは互いに親から聞いているだけの状態だったが、挨拶が終わったからには正式なパートナーとなり、家族に準ずる扱いとなる。一生自分をそして彼を偽り続けて生きて行かなければならないのだ。
彼は私にカフェテラスで待つように言った。おそらく私への贈り物だろう。喜ばないといけないな、とぼんやり頭の片隅で考える。その時不意に若い母親の叫ぶ声が聞こえた。目の前を幼い子どもが駆け抜けた。しかし、母親の声に驚いたように立ち止まってしまう。
考えるより先に体が動いた、渾身の力で子どもを突き飛ばした瞬間、体が一瞬宙に浮く。直後激しい衝撃を体に受けた。跳ねられて叩きつけられたのだ、と分かる。
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「子どもは無事だ。君のおかげだ」
その言葉を聞いて私は安心した。良かった。そしてジェドに精一杯の力を振り絞って笑いかける。
よかった、これであなたを傷つけずにすむ。私と共に生きたならあなたはいつか私の本心
に気付き傷ついたかもしれない。あなたには純粋にあなたを愛する人と幸せになって欲しい。
だから、今日のことは、私のことはどうか忘れて。
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