25 / 91
サイドストーリー
サシャの悲嘆(20年前)
しおりを挟むキョウはひとり佇んでいた。今し方、哀れな冒険者たちを送り出していた。彼らの力ない後ろ姿が見えなくなるまでだった。
キョウは干し肉を手に持っている。それはつい先ほど冒険者たちから巻き上げたものだった。肉はわずかばかりに塩の味が付いているだけで、固くてあまり美味しいとは言えなかった。
歯でかみしめる音が響く。
湿った迷宮の中で、その乾いた食べ物の音が不思議に耳に響いた。
そんな彼に背後からダミアンは近づいた。
「アニキ、どうしてアニキはこんなところでこんなことをしているんですか?」
それは彼が以前からずっと不思議に思っていたことだった。他の仲間たちも同様のことを考えている者たちは数多くいる。
ダミアンのそんな問いかけに、手にしていた干し肉を一切れ差し出した。
それをダミアンは受け取ると、勢いよくかぶりついた。
「美味いか?」
「いえ、マズいっす…!」
正直な感想をダミアンは述べた。
口に入っているものを咀嚼してキョウが続ける。
「…なんで、こんなにまずいものを食べてでも、こんな危ない場所にみんな来るんだろうな…」
「それはやっぱり名声とかもしかしたら財宝とか…そういったものが目当てなんじゃないですか?」
「じゃあ、お前はどうしてここにいる?」
「それは…」
そこでダミアンは言いよどんだ。
どうして彼がそれを言わなかったのか、キョウは彼が抱える事情を知っていた。彼は地上では追われている立場なのだ。
彼は盗賊だった。
とは言っても、生きていく為にその日必要な食べ物を盗んだりといった程度のものである。
官憲に追われて、この迷宮へと逃げて、それから《深きより忍び寄るものたち》にいつのまにかなっていた。
そして、それは彼だけではないのだ。
ここにいるみながそれぞれ色々な事情を抱えていた。
投げかけられた問いに答えづらいのはキョウにも分かっていた。
「俺は…気づいたらここにいたんだ。ここがどこで今がいつなのかも分からなかった。過去の記憶はないでもなかったが、それも曖昧だ。とりあえず生きていくにはどうしたらいいのかを考えていたら、偶然にも《深きより忍び寄るものたち》が現れた」
そして、それをキョウは襲った。
10人程度だったが、相手の武器を奪い、その武器で全員を倒し、そして、彼らの財産とも言うべきすべてを奪った。
それ以来通りすがる人々を襲っていた。
ただ、それも生きるためだ。
生きる以上のものは、とりあえず、いらなかった。
「…いや、それは何回も聞いているんで分かっています。そういう意味ではなくて、どうしてアニキは地上へ出て行かないのかってことです」
それがダミアン以下には疑問だった。
キョウは頭を抱えると、こう続けた。
「…まあ、なんだろうな。俺もそうしたいが、その機会というのが中々訪れねぇ。その内、そういうときがあればそうするかも知れないな」
なんとも、ハッキリとしない物言いである。
「なんですか、そりゃあ…?」
「まあ、半分はそういうことだ」
「ではもう半分は?」
「俺はなんかこれは勘だけどな」
「はい」
「なんか、この場所でやることがあるような気がするんだよ…」
キョウはそんな台詞を冗談とは思えないほどの真顔で言っていたのだった。
「アニキーっ!」
セバスの声が聞こえた。何かしらの報告かも知れない。
その場にいた二人は向き直る。
「新しい冒険者がやってきました! 人数は三人です!」
やれやれ今日は忙しい日だ。面倒くさいからといって逃してもいいが、生憎と今は休憩よりも、強奪したい気分だったのだ。
キョウは干し肉を手に持っている。それはつい先ほど冒険者たちから巻き上げたものだった。肉はわずかばかりに塩の味が付いているだけで、固くてあまり美味しいとは言えなかった。
歯でかみしめる音が響く。
湿った迷宮の中で、その乾いた食べ物の音が不思議に耳に響いた。
そんな彼に背後からダミアンは近づいた。
「アニキ、どうしてアニキはこんなところでこんなことをしているんですか?」
それは彼が以前からずっと不思議に思っていたことだった。他の仲間たちも同様のことを考えている者たちは数多くいる。
ダミアンのそんな問いかけに、手にしていた干し肉を一切れ差し出した。
それをダミアンは受け取ると、勢いよくかぶりついた。
「美味いか?」
「いえ、マズいっす…!」
正直な感想をダミアンは述べた。
口に入っているものを咀嚼してキョウが続ける。
「…なんで、こんなにまずいものを食べてでも、こんな危ない場所にみんな来るんだろうな…」
「それはやっぱり名声とかもしかしたら財宝とか…そういったものが目当てなんじゃないですか?」
「じゃあ、お前はどうしてここにいる?」
「それは…」
そこでダミアンは言いよどんだ。
どうして彼がそれを言わなかったのか、キョウは彼が抱える事情を知っていた。彼は地上では追われている立場なのだ。
彼は盗賊だった。
とは言っても、生きていく為にその日必要な食べ物を盗んだりといった程度のものである。
官憲に追われて、この迷宮へと逃げて、それから《深きより忍び寄るものたち》にいつのまにかなっていた。
そして、それは彼だけではないのだ。
ここにいるみながそれぞれ色々な事情を抱えていた。
投げかけられた問いに答えづらいのはキョウにも分かっていた。
「俺は…気づいたらここにいたんだ。ここがどこで今がいつなのかも分からなかった。過去の記憶はないでもなかったが、それも曖昧だ。とりあえず生きていくにはどうしたらいいのかを考えていたら、偶然にも《深きより忍び寄るものたち》が現れた」
そして、それをキョウは襲った。
10人程度だったが、相手の武器を奪い、その武器で全員を倒し、そして、彼らの財産とも言うべきすべてを奪った。
それ以来通りすがる人々を襲っていた。
ただ、それも生きるためだ。
生きる以上のものは、とりあえず、いらなかった。
「…いや、それは何回も聞いているんで分かっています。そういう意味ではなくて、どうしてアニキは地上へ出て行かないのかってことです」
それがダミアン以下には疑問だった。
キョウは頭を抱えると、こう続けた。
「…まあ、なんだろうな。俺もそうしたいが、その機会というのが中々訪れねぇ。その内、そういうときがあればそうするかも知れないな」
なんとも、ハッキリとしない物言いである。
「なんですか、そりゃあ…?」
「まあ、半分はそういうことだ」
「ではもう半分は?」
「俺はなんかこれは勘だけどな」
「はい」
「なんか、この場所でやることがあるような気がするんだよ…」
キョウはそんな台詞を冗談とは思えないほどの真顔で言っていたのだった。
「アニキーっ!」
セバスの声が聞こえた。何かしらの報告かも知れない。
その場にいた二人は向き直る。
「新しい冒険者がやってきました! 人数は三人です!」
やれやれ今日は忙しい日だ。面倒くさいからといって逃してもいいが、生憎と今は休憩よりも、強奪したい気分だったのだ。
31
お気に入りに追加
370
あなたにおすすめの小説


【完結】政略結婚はお断り致します!
かまり
恋愛
公爵令嬢アイリスは、悪い噂が立つ4歳年上のカイル王子との婚約が嫌で逃げ出し、森の奥の小さな山小屋でひっそりと一人暮らしを始めて1年が経っていた。
ある日、そこに見知らぬ男性が傷を追ってやってくる。
その男性は何かよっぽどのことがあったのか記憶を無くしていた…
帰るところもわからないその男性と、1人暮らしが寂しかったアイリスは、その山小屋で共同生活を始め、急速に2人の距離は近づいていく。
一方、幼い頃にアイリスと交わした結婚の約束を胸に抱えたまま、長い間出征に出ることになったカイル王子は、帰ったら結婚しようと思っていたのに、
戦争から戻って婚約の話が決まる直前に、そんな約束をすっかり忘れたアイリスが婚約を嫌がって逃げてしまったと知らされる。
しかし、王子には嫌われている原因となっている噂の誤解を解いて気持ちを伝えられない理由があった。
山小屋の彼とアイリスはどうなるのか…
カイル王子はアイリスの誤解を解いて結婚できるのか…
アイリスは、本当に心から好きだと思える人と結婚することができるのか…
『公爵令嬢』と『王子』が、それぞれ背負わされた宿命から抗い、幸せを勝ち取っていくサクセスラブストーリー。

【完結】離婚しましょうね。だって貴方は貴族ですから
すだもみぢ
恋愛
伯爵のトーマスは「貴族なのだから」が口癖の夫。
伯爵家に嫁いできた、子爵家の娘のローデリアは結婚してから彼から貴族の心得なるものをみっちりと教わった。
「貴族の妻として夫を支えて、家のために働きなさい」
「貴族の妻として慎みある行動をとりなさい」
しかし俺は男だから何をしても許されると、彼自身は趣味に明け暮れ、いつしか滅多に帰ってこなくなる。
微笑んで、全てを受け入れて従ってきたローデリア。
ある日帰ってきた夫に、貞淑な妻はいつもの笑顔で切りだした。
「貴族ですから離婚しましょう。貴族ですから受け入れますよね?」
彼の望み通りに動いているはずの妻の無意識で無邪気な逆襲が始まる。
※意図的なスカッはありません。あくまでも本人は無意識でやってます。
罠にはめられた公爵令嬢~今度は私が報復する番です
結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
ファンタジー
【私と私の家族の命を奪ったのは一体誰?】
私には婚約中の王子がいた。
ある夜のこと、内密で王子から城に呼び出されると、彼は見知らぬ女性と共に私を待ち受けていた。
そして突然告げられた一方的な婚約破棄。しかし二人の婚約は政略的なものであり、とてもでは無いが受け入れられるものではなかった。そこで婚約破棄の件は持ち帰らせてもらうことにしたその帰り道。突然馬車が襲われ、逃げる途中で私は滝に落下してしまう。
次に目覚めた場所は粗末な小屋の中で、私を助けたという青年が側にいた。そして彼の話で私は驚愕の事実を知ることになる。
目覚めた世界は10年後であり、家族は反逆罪で全員処刑されていた。更に驚くべきことに蘇った身体は全く別人の女性であった。
名前も素性も分からないこの身体で、自分と家族の命を奪った相手に必ず報復することに私は決めた――。
※他サイトでも投稿中
記憶喪失になった嫌われ悪女は心を入れ替える事にした
結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
ファンタジー
池で溺れて死にかけた私は意識を取り戻した時、全ての記憶を失っていた。それと同時に自分が周囲の人々から陰で悪女と呼ばれ、嫌われている事を知る。どうせ記憶喪失になったなら今から心を入れ替えて生きていこう。そして私はさらに衝撃の事実を知る事になる―。
妹ばかり見ている婚約者はもういりません
水谷繭
恋愛
子爵令嬢のジュスティーナは、裕福な伯爵家の令息ルドヴィクの婚約者。しかし、ルドヴィクはいつもジュスティーナではなく、彼女の妹のフェリーチェに会いに来る。
自分に対する態度とは全く違う優しい態度でフェリーチェに接するルドヴィクを見て傷つくジュスティーナだが、自分は妹のように愛らしくないし、魔法の能力も中途半端だからと諦めていた。
そんなある日、ルドヴィクが妹に婚約者の証の契約石に見立てた石を渡し、「君の方が婚約者だったらよかったのに」と言っているのを聞いてしまう。
さらに婚約解消が出来ないのは自分が嫌がっているせいだという嘘まで吐かれ、我慢の限界が来たジュスティーナは、ルドヴィクとの婚約を破棄することを決意するが……。
◆エールありがとうございます!
◇表紙画像はGirly Drop様からお借りしました💐
◆なろうにも載せ始めました
◇いいね押してくれた方ありがとうございます!

【コミカライズ決定】地味令嬢は冤罪で処刑されて逆行転生したので、華麗な悪女を目指します!~目隠れ美形の天才王子に溺愛されまして~
胡蝶乃夢
恋愛
婚約者である王太子の望む通り『理想の淑女』として尽くしてきたにも関わらず、婚約破棄された挙句に冤罪で処刑されてしまった公爵令嬢ガーネット。
時間が遡り目覚めたガーネットは、二度と自分を犠牲にして尽くしたりしないと怒り、今度は自分勝手に生きる『華麗な悪女』になると決意する。
王太子の弟であるルベリウス王子にガーネットは留学をやめて傍にいて欲しいと願う。
処刑された時、留学中でいなかった彼がガーネットの傍にいることで運命は大きく変わっていく。
これは、不憫な地味令嬢が華麗な悪女へと変貌して周囲を魅了し、幼馴染の天才王子にも溺愛され、ざまぁして幸せになる物語です。

死ぬはずだった令嬢が乙女ゲームの舞台に突然参加するお話
みっしー
恋愛
病弱な公爵令嬢のフィリアはある日今までにないほどの高熱にうなされて自分の前世を思い出す。そして今自分がいるのは大好きだった乙女ゲームの世界だと気づく。しかし…「藍色の髪、空色の瞳、真っ白な肌……まさかっ……!」なんと彼女が転生したのはヒロインでも悪役令嬢でもない、ゲーム開始前に死んでしまう攻略対象の王子の婚約者だったのだ。でも前世で長生きできなかった分今世では長生きしたい!そんな彼女が長生きを目指して乙女ゲームの舞台に突然参加するお話です。
*番外編も含め完結いたしました!感想はいつでもありがたく読ませていただきますのでお気軽に!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる