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サイドストーリー
ジェドの悔恨
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王宮舞踏会の日、カレンは華やかな装いでシュナイダー様と共に王宮へと向かった。
愛しい私の娘。憂なく愛することができるたった一人の娘だ。誰よりも幸せになって欲しい。そうカリーナよりも。
年々サシャに似てくるカリーナがどうしても疎ましい。
深すぎる愛がこれほどの憎悪に変わると分かっていたなら、私はクレアと結婚しなかっただろう。なんとしても別の家の娘を娶り、サシャには似ても似つかない子どもを溺愛したはずだ。カレンのように。
そのくせふとした瞬間にカリーナを見て思うのだ。サシャはこんな風に悲しげに微笑まなかった。サシャはもっと自信に溢れていた、と。
カリーナから彼女を輝かす全てのものを私が、いや、私たち家族が奪っておきながら、私はカリーナとサシャの異なる部分に目を向けずにはいられない。
今日もカリーナはいつものような地味な格好で舞踏会へ向かうのだろう。サシャなら決してしなかったような年配の未亡人のような装いで。
春風のようなカレンを見送ったあと、私は妻と二人で娘の美しさについて語り合った。
「クレア、カレンは君に似て年々柔らかな美貌が際立つようだ。あの朗らかな愛らしさは私たちの宝物だな」
「ありがとう、あなた。でも本当にあの子は美しいわ。あの明るさがほんの少しでもカリーナにあれば良いものを」
最後は憎々しげにカリーナのことを呟くクレアを見て、私は複雑な気持ちになる。
彼女もサシャに思うところがあって、よく似たカリーナを嫌ってることは昔から分かっていた。しかし私と異なり、どうやらその感情はサシャへの嫉妬が大部分を占めているようだ。
結果的にカリーナを疎んじている事実には変わりないのに、クレアに同じだと思われることを拒む自分がいることも確かだ。
サシャを愛していた。とても愛していたからこそいつまでも癒えない傷を見せ続けられるようでカリーナが憎く疎ましい。カリーナがサシャから生まれた娘なら私は、これ以上ないほどの深い愛で彼女を包み込んだのに。
「お父様、お母様、行ってまいります」
心なしかいつもより凛とした声に、一瞬サシャが現れたのかと思い、ハッと顔を上げる。私は思わず叫びそうだった。
サシャが目の前にいたのだ。紺の美しいドレスを纏った彼女が。
いや、違う。カリーナだ。そう頭では理解しているのに驚きすぎて声が出ない。隣でクレアも言葉を失っている。
カリーナに何か言わなければと思うほど、言葉が見つからない。私たちが絶句しているのを、いつもの悲しげな微笑で受け入れて、彼女は舞踏会へと行った。
ああ、そうか。彼女はずっと愚かな私達を受け入れ許してくれていたのだ。だから私達には何も期待していない。今も美しいドレス姿を見せたかったのではなく、両親への礼を尽くすために挨拶にきただけなのだろう。
本当は分かっている。カレンよりカリーナの方が本来なら愛されるべき人間だと。私たちでは駄目だった。強すぎる光にいつまでも囚われてそれができなかった。
だからどうか祈らせてくれ。勝手なのは分かってるが、君を心から愛してくれる人間が、君を見つけてくれると。
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「お父様、お母様、行ってまいります」
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ああ、そうか。彼女はずっと愚かな私達を受け入れ許してくれていたのだ。だから私達には何も期待していない。今も美しいドレス姿を見せたかったのではなく、両親への礼を尽くすために挨拶にきただけなのだろう。
本当は分かっている。カレンよりカリーナの方が本来なら愛されるべき人間だと。私たちでは駄目だった。強すぎる光にいつまでも囚われてそれができなかった。
だからどうか祈らせてくれ。勝手なのは分かってるが、君を心から愛してくれる人間が、君を見つけてくれると。
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