21 / 91
サイドストーリー
フォーゼムの決意
しおりを挟む
彼女が私のドレスを着てくれた。謝罪を受け入れる以上の意味がないことは重々承知しているが、それでも嬉しさを隠しきれない。
彼女に声をかけに行きたいが、どう声をかけようか。ドレスは気に入りましたか、は恩着せがましい気がする。思い悩んでいると、彼女は弟のシュナイダーと彼女の妹のカレン嬢の側へと近寄って行った。
まさか私の居場所を尋ねるためだろうか。
そう思うと柄にもなく浮き足だってしまう。平常心、と心の中で唱えながら3人の元へ近づくと、カレン嬢の声が響いた。
「だいたいシュナイダー様の非礼ってなによ。この間の屋敷の件なら、迷惑かけたのは姉様の方でしょう!」
何を言ってるんだ、こいつは。カリーナ嬢が妹の婚約者を誘惑する訳ないだろう、カレン嬢じゃあるまいし。おおかた軽薄で軽率なシュナイダーがカリーナ嬢の美しさに興味を示したんだろう。愚かで、人を見る目がないところまでそっくりのお似合いの夫婦になるだろう。
「どうかしましたか、カレン嬢」
悪態は心の中だけでついておき、表面上は何事もなかったかのように尋ねる。
私の問いかけに反応したのはシュナイダーの方だった。そのままシュナイダーの非礼をカリーナ嬢に詫びると、カレン嬢がどう言うことかと問い詰め始めた。
カレン嬢を純粋な乙女だと信じている弟は何やら慌てたように言い訳しているが、私にとってはどうでもいいことだ。
ありったけの勇気を振り絞って、カリーナ嬢の手を取る。振り払われなかったことにほっとしながら、バルコニーの人目につかないところで謝罪をすると彼女は困ったように微笑んだ。そんな笑顔を見たいわけではないのに、その美しさに心臓が早鐘を打った。
あの場を連れ出した私にお礼を言いながらも、悪い噂が増えたところで今更関係ない、と苦笑しながら言う彼女に私は思わず言ってしまった。あいつの相手などあなたに失礼だ、と。
彼女は驚いたように目を見開いた後、思わずと言った様子で笑ってくれた。迷惑をかけられることの多かった弟に感謝したいくらいだ。
笑ってくれた彼女に勇気づけられて、そのまま会話を続ける。彼女はよほど妹と比べて自分に自信がないようだ。正直あの腹黒そうな妹のどこが良いのか私には分からないが、彼女の話ぶりからは、つねに妹が優遇されて来た様子が見て取れる。
私が守りたい。そう思ったが美しい彼女のことだ。いくらなんでも相手くらいいるだろう。一人で入って来たのはたまたまかもしれない。
それとなく聞くと、恥ずかしそうに相手がいないことを告げてくる。心臓が跳ねた。まさか、そんな幸運があるのか。
それなら私が候補の一人に名乗りをあげても良いはずだ。言わないとと思うほど、なかなかきっかけが見つからない。違うこんな話がしたいんじゃない、ドレスがいかに似合ってるかなど、いまとなっては瑣末な問題だ。
そのまま、きっかけを掴めないまま広間に戻る。意気地のない自分にうんざりしていると、彼女が私に断って広間の真ん中へと足早に急いだ。
私もすぐに後を追いかけると、カレン嬢がカリーナ嬢に食ってかかっていた。
どうやらシュナイダーが、カリーナ嬢に誘惑されるのが嫌で婚約を破棄して欲しいとカレン嬢に言ったようだ。
あいつことだ。もしバレてもカレン嬢ならほろほろと泣くくらいで済むと思っていたに違いない。案に反して、問い詰められて邪魔くさくなったのだろう。まったく…
「責任とりなさいよ、姉様。バレール伯爵家との縁談は父様も母様も悲願だったのよ。どうなさるのかしら」
カレン嬢の声が耳に届いた瞬間、私は背中を後押しされた気になった。言うなら今だ。
「それなら私が姉君に結婚を申し込むことにしよう」
びっくりした顔でこちらを見つめてくるカリーナ嬢が愛らしい。隣で自分ではないのか、などと頓珍漢なことを聞いてくるカレン嬢に一言釘を刺し、改めてカリーナ嬢に向かって渾身の勇気とともに告げる。
「どうか、あなたを妻に迎える栄誉を与えてはいただけないか。」
彼女は泣きながら微笑んで答えてくれた。その姿はさながら聖女のようだった。
彼女に声をかけに行きたいが、どう声をかけようか。ドレスは気に入りましたか、は恩着せがましい気がする。思い悩んでいると、彼女は弟のシュナイダーと彼女の妹のカレン嬢の側へと近寄って行った。
まさか私の居場所を尋ねるためだろうか。
そう思うと柄にもなく浮き足だってしまう。平常心、と心の中で唱えながら3人の元へ近づくと、カレン嬢の声が響いた。
「だいたいシュナイダー様の非礼ってなによ。この間の屋敷の件なら、迷惑かけたのは姉様の方でしょう!」
何を言ってるんだ、こいつは。カリーナ嬢が妹の婚約者を誘惑する訳ないだろう、カレン嬢じゃあるまいし。おおかた軽薄で軽率なシュナイダーがカリーナ嬢の美しさに興味を示したんだろう。愚かで、人を見る目がないところまでそっくりのお似合いの夫婦になるだろう。
「どうかしましたか、カレン嬢」
悪態は心の中だけでついておき、表面上は何事もなかったかのように尋ねる。
私の問いかけに反応したのはシュナイダーの方だった。そのままシュナイダーの非礼をカリーナ嬢に詫びると、カレン嬢がどう言うことかと問い詰め始めた。
カレン嬢を純粋な乙女だと信じている弟は何やら慌てたように言い訳しているが、私にとってはどうでもいいことだ。
ありったけの勇気を振り絞って、カリーナ嬢の手を取る。振り払われなかったことにほっとしながら、バルコニーの人目につかないところで謝罪をすると彼女は困ったように微笑んだ。そんな笑顔を見たいわけではないのに、その美しさに心臓が早鐘を打った。
あの場を連れ出した私にお礼を言いながらも、悪い噂が増えたところで今更関係ない、と苦笑しながら言う彼女に私は思わず言ってしまった。あいつの相手などあなたに失礼だ、と。
彼女は驚いたように目を見開いた後、思わずと言った様子で笑ってくれた。迷惑をかけられることの多かった弟に感謝したいくらいだ。
笑ってくれた彼女に勇気づけられて、そのまま会話を続ける。彼女はよほど妹と比べて自分に自信がないようだ。正直あの腹黒そうな妹のどこが良いのか私には分からないが、彼女の話ぶりからは、つねに妹が優遇されて来た様子が見て取れる。
私が守りたい。そう思ったが美しい彼女のことだ。いくらなんでも相手くらいいるだろう。一人で入って来たのはたまたまかもしれない。
それとなく聞くと、恥ずかしそうに相手がいないことを告げてくる。心臓が跳ねた。まさか、そんな幸運があるのか。
それなら私が候補の一人に名乗りをあげても良いはずだ。言わないとと思うほど、なかなかきっかけが見つからない。違うこんな話がしたいんじゃない、ドレスがいかに似合ってるかなど、いまとなっては瑣末な問題だ。
そのまま、きっかけを掴めないまま広間に戻る。意気地のない自分にうんざりしていると、彼女が私に断って広間の真ん中へと足早に急いだ。
私もすぐに後を追いかけると、カレン嬢がカリーナ嬢に食ってかかっていた。
どうやらシュナイダーが、カリーナ嬢に誘惑されるのが嫌で婚約を破棄して欲しいとカレン嬢に言ったようだ。
あいつことだ。もしバレてもカレン嬢ならほろほろと泣くくらいで済むと思っていたに違いない。案に反して、問い詰められて邪魔くさくなったのだろう。まったく…
「責任とりなさいよ、姉様。バレール伯爵家との縁談は父様も母様も悲願だったのよ。どうなさるのかしら」
カレン嬢の声が耳に届いた瞬間、私は背中を後押しされた気になった。言うなら今だ。
「それなら私が姉君に結婚を申し込むことにしよう」
びっくりした顔でこちらを見つめてくるカリーナ嬢が愛らしい。隣で自分ではないのか、などと頓珍漢なことを聞いてくるカレン嬢に一言釘を刺し、改めてカリーナ嬢に向かって渾身の勇気とともに告げる。
「どうか、あなたを妻に迎える栄誉を与えてはいただけないか。」
彼女は泣きながら微笑んで答えてくれた。その姿はさながら聖女のようだった。
35
お気に入りに追加
370
あなたにおすすめの小説

【完結】政略結婚はお断り致します!
かまり
恋愛
公爵令嬢アイリスは、悪い噂が立つ4歳年上のカイル王子との婚約が嫌で逃げ出し、森の奥の小さな山小屋でひっそりと一人暮らしを始めて1年が経っていた。
ある日、そこに見知らぬ男性が傷を追ってやってくる。
その男性は何かよっぽどのことがあったのか記憶を無くしていた…
帰るところもわからないその男性と、1人暮らしが寂しかったアイリスは、その山小屋で共同生活を始め、急速に2人の距離は近づいていく。
一方、幼い頃にアイリスと交わした結婚の約束を胸に抱えたまま、長い間出征に出ることになったカイル王子は、帰ったら結婚しようと思っていたのに、
戦争から戻って婚約の話が決まる直前に、そんな約束をすっかり忘れたアイリスが婚約を嫌がって逃げてしまったと知らされる。
しかし、王子には嫌われている原因となっている噂の誤解を解いて気持ちを伝えられない理由があった。
山小屋の彼とアイリスはどうなるのか…
カイル王子はアイリスの誤解を解いて結婚できるのか…
アイリスは、本当に心から好きだと思える人と結婚することができるのか…
『公爵令嬢』と『王子』が、それぞれ背負わされた宿命から抗い、幸せを勝ち取っていくサクセスラブストーリー。
悪役令嬢ですが、ヒロインの恋を応援していたら婚約者に執着されています
窓辺ミナミ
ファンタジー
悪役令嬢の リディア・メイトランド に転生した私。
シナリオ通りなら、死ぬ運命。
だけど、ヒロインと騎士のストーリーが神エピソード! そのスチルを生で見たい!
騎士エンドを見学するべく、ヒロインの恋を応援します!
というわけで、私、悪役やりません!
来たるその日の為に、シナリオを改変し努力を重ねる日々。
あれれ、婚約者が何故か甘く見つめてきます……!
気付けば婚約者の王太子から溺愛されて……。
悪役令嬢だったはずのリディアと、彼女を愛してやまない執着系王子クリストファーの甘い恋物語。はじまりはじまり!
乙女ゲームの世界だと、いつから思い込んでいた?
シナココ
ファンタジー
母親違いの妹をいじめたというふわふわした冤罪で婚約破棄された上に、最北の辺境地に流された公爵令嬢ハイデマリー。勝ち誇る妹・ゲルダは転生者。この世界のヒロインだと豪語し、王太子妃に成り上がる。乙女ゲームのハッピーエンドの確定だ。
……乙女ゲームが終わったら、戦争ストラテジーゲームが始まるのだ。

【完結】離婚しましょうね。だって貴方は貴族ですから
すだもみぢ
恋愛
伯爵のトーマスは「貴族なのだから」が口癖の夫。
伯爵家に嫁いできた、子爵家の娘のローデリアは結婚してから彼から貴族の心得なるものをみっちりと教わった。
「貴族の妻として夫を支えて、家のために働きなさい」
「貴族の妻として慎みある行動をとりなさい」
しかし俺は男だから何をしても許されると、彼自身は趣味に明け暮れ、いつしか滅多に帰ってこなくなる。
微笑んで、全てを受け入れて従ってきたローデリア。
ある日帰ってきた夫に、貞淑な妻はいつもの笑顔で切りだした。
「貴族ですから離婚しましょう。貴族ですから受け入れますよね?」
彼の望み通りに動いているはずの妻の無意識で無邪気な逆襲が始まる。
※意図的なスカッはありません。あくまでも本人は無意識でやってます。
記憶喪失になった嫌われ悪女は心を入れ替える事にした
結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
ファンタジー
池で溺れて死にかけた私は意識を取り戻した時、全ての記憶を失っていた。それと同時に自分が周囲の人々から陰で悪女と呼ばれ、嫌われている事を知る。どうせ記憶喪失になったなら今から心を入れ替えて生きていこう。そして私はさらに衝撃の事実を知る事になる―。
罠にはめられた公爵令嬢~今度は私が報復する番です
結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
ファンタジー
【私と私の家族の命を奪ったのは一体誰?】
私には婚約中の王子がいた。
ある夜のこと、内密で王子から城に呼び出されると、彼は見知らぬ女性と共に私を待ち受けていた。
そして突然告げられた一方的な婚約破棄。しかし二人の婚約は政略的なものであり、とてもでは無いが受け入れられるものではなかった。そこで婚約破棄の件は持ち帰らせてもらうことにしたその帰り道。突然馬車が襲われ、逃げる途中で私は滝に落下してしまう。
次に目覚めた場所は粗末な小屋の中で、私を助けたという青年が側にいた。そして彼の話で私は驚愕の事実を知ることになる。
目覚めた世界は10年後であり、家族は反逆罪で全員処刑されていた。更に驚くべきことに蘇った身体は全く別人の女性であった。
名前も素性も分からないこの身体で、自分と家族の命を奪った相手に必ず報復することに私は決めた――。
※他サイトでも投稿中

義妹のせいで、婚約した相手に会う前にすっかり嫌われて婚約が白紙になったのになぜか私のことを探し回っていたようです
珠宮さくら
恋愛
サヴァスティンカ・メテリアは、ルーニア国の伯爵家に生まれた。母を亡くし、父は何を思ったのか再婚した。その再婚相手の連れ子は、義母と一緒で酷かった。いや、義母よりうんと酷かったかも知れない。
そんな義母と義妹によって、せっかく伯爵家に婿入りしてくれることになった子息に会う前にサヴァスティンカは嫌われることになり、婚約も白紙になってしまうのだが、義妹はその子息の兄と婚約することになったようで、義母と一緒になって大喜びしていた
。

職業『お飾りの妻』は自由に過ごしたい
LinK.
恋愛
勝手に決められた婚約者との初めての顔合わせ。
相手に契約だと言われ、もう後がないサマンサは愛のない形だけの契約結婚に同意した。
何事にも従順に従って生きてきたサマンサ。
相手の求める通りに動く彼女は、都合のいいお飾りの妻だった。
契約中は立派な妻を演じましょう。必要ない時は自由に過ごしても良いですよね?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる