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本編【第一章】
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「ドレスも問題なさそうな品でしたので、手紙は開けておりませんが、先に確認いたしましょうか?」
シュナイダーの兄君のフォーゼム様は非常に有能で誠実な方との噂だ。次のバレール伯爵家の後継で婚約者候補に手を挙げる女性は多いものの、その全てを丁重に断っていると聞いたことがある。
「いいえ。ありがとう、大丈夫よ」
そう言って封を開けると、流麗な文字で簡潔に、自己紹介と先日のシュナイダーの非礼、そしてそのお詫びの品としてドレスを贈った旨が書かれていた。
シュナイダーがフォーゼム様にあの日の事を話したのだと思うとなんとも言えない気持ちになり、私は溜め息をついた。
「なにかご不快なことでも書いてありましたか」
心配気な声で聞いてきたアンに笑って答える。
「大丈夫よ。フォーゼム様が先日のシュナイダー様の非礼のお詫びに贈ってきてくださったそうよ」
「それは。さすが有能とのお噂どおりですね。シュナイダー様のことです、きっとご自分の行いを悪くは仰らなかったでしょうに。それを見抜かれた上でカリーナ様にご迷惑がかかったことまで慮ってくださるとは。」
「本当ね。なんなら妹の婚約者を誘惑する悪女、と罵る手紙が来てもおかしくなさそうなのに。」
「よかったですね、カリーナ様。正しく見てくださる方もちゃんといらっしゃいます。」
「ええ」
思わず声を弾ませて答えると、アンはにっこりしながら言った。
「それでは、せっかくですのでこのドレスで本日のお支度させてくださいませ。」
「え?」
「何か問題でもございますか」
キョトンとした表情で尋ねてきたアンに私は慌てて言った。
「とても美しいドレスだけれど、私には似合わないわ!」
「カリーナ様のために贈られたドレスですよ!似合われるに決まってます」
「…私が着るには派手よ」
「いつもが地味過ぎるのです。今日はこれをお召しくださいませ」
「でも」
「カリーナ様。このドレス、おそらくわざわざ今日届くように送られております。家族の非礼を許して頂けるなら、このドレスを着てください、と言うことではありませんか」
「…」
このドレスを着るのは勇気がいるけれど、ドレスを着ずにフォーゼム様に出会ってしまってたら許していない、とも取られかねない…思わず黙り込むと、アンは微笑みながら言った。
「ですから、今日はこちらを」
そもそもカレンも私に、自分に恥をかかすような格好をしてくるなと言っていたし…そう思い私は頷いた。
シュナイダーの兄君のフォーゼム様は非常に有能で誠実な方との噂だ。次のバレール伯爵家の後継で婚約者候補に手を挙げる女性は多いものの、その全てを丁重に断っていると聞いたことがある。
「いいえ。ありがとう、大丈夫よ」
そう言って封を開けると、流麗な文字で簡潔に、自己紹介と先日のシュナイダーの非礼、そしてそのお詫びの品としてドレスを贈った旨が書かれていた。
シュナイダーがフォーゼム様にあの日の事を話したのだと思うとなんとも言えない気持ちになり、私は溜め息をついた。
「なにかご不快なことでも書いてありましたか」
心配気な声で聞いてきたアンに笑って答える。
「大丈夫よ。フォーゼム様が先日のシュナイダー様の非礼のお詫びに贈ってきてくださったそうよ」
「それは。さすが有能とのお噂どおりですね。シュナイダー様のことです、きっとご自分の行いを悪くは仰らなかったでしょうに。それを見抜かれた上でカリーナ様にご迷惑がかかったことまで慮ってくださるとは。」
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「ええ」
思わず声を弾ませて答えると、アンはにっこりしながら言った。
「それでは、せっかくですのでこのドレスで本日のお支度させてくださいませ。」
「え?」
「何か問題でもございますか」
キョトンとした表情で尋ねてきたアンに私は慌てて言った。
「とても美しいドレスだけれど、私には似合わないわ!」
「カリーナ様のために贈られたドレスですよ!似合われるに決まってます」
「…私が着るには派手よ」
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「でも」
「カリーナ様。このドレス、おそらくわざわざ今日届くように送られております。家族の非礼を許して頂けるなら、このドレスを着てください、と言うことではありませんか」
「…」
このドレスを着るのは勇気がいるけれど、ドレスを着ずにフォーゼム様に出会ってしまってたら許していない、とも取られかねない…思わず黙り込むと、アンは微笑みながら言った。
「ですから、今日はこちらを」
そもそもカレンも私に、自分に恥をかかすような格好をしてくるなと言っていたし…そう思い私は頷いた。
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