【完結】悪女のなみだ

じじ

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本編【第一章】

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「お父様もお母様も不思議よね」

ふと私はドレスを見ながら呟いた。

「何がでしょうか」
「いえ、私のことをお嫌いなわりには、きっちりと衣食住を与えてくださる。あれほどカレンのことしか可愛がらないわりに…ほら、ドレスだっていつも仕立てはいいものだし、宝石だって与えてくださるじゃない」
「ですが、カレン様に比べればお持ちの宝石は少ないですし、ドレスも最低限ではございませんか。色も茶色や紺など地味な物ばかりです。これでは、カリーナ様の美しさが半分も発揮できません」
「いいのよ。どちらにしても地味な色しか着ないから。」
「カリーナ様はもっと鮮やかなお色でも美しく着こなされますよ。」
「無理よ、この顔じゃ。」
「またそのような。カリーナ様の周りにいらっしゃった方がたまたまカレン様のお顔の方が好みだっただけでございましょう。親しみやすい可愛らしさで言えばカレン様かもしれませんが、カリーナ様にこそ「美しい」という言葉が似合うと思います。」
「…ありがとう」
「さあ、そろそろドレスに着替えませんと」

パンっと手を打って、アンは吊るしたドレスを持ってきた。

「あら?そのドレスはなにかしら」

濃紺のドレスは数枚持っているが、どれも首を覆う襟に、長い袖、スカート部分は膨らんではいるが長く飾りが全くないという、まるで年配の家庭教師が着るような地味なもののはずだ。
しかし、いまアンが持ってきたドレスは片方の肩から袖にかけて銀色に輝くスパンコールがぬいつけられており、もう片方は袖がなく肩を出して着る物のようだ。胸元も上品にあいており、スカートは優美なドレープが幾重にも重なり、前は膝下、後ろはくるぶしあたりまで丈がありそうだ。
そして、何より見事なのが、スカート部分に銀糸で縫い取られている花の刺繍だ。

「とても美しいドレスね。どうしたの?」
「実は先程、いつもどおりカリーナ様宛の贈り物を見分したら、こちらのドレスが入っておりまして。差出人はシュナイダー様の兄君様のようです。手紙も同封されておりました。こちらは開けておりませんので」

アンは私宛の贈り物を、私より先に開けて確認してくれている。
何度かほとんど見知らぬ男性からかなり際どいドレスを贈られたり、全く身に覚えがないにもかかわらず、婚約者を私に誘惑されたという女性から身の毛のよだつ贈り物をされたりして、怖がった私を見かねて、アンが先に見分する旨申し出てくれたのだ。

「なぜかしら?私、全く接点ないのだけれど」

困ったように言うと、アンが手紙を渡してきた。

「こちらでございます」
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