【完結】悪女のなみだ

じじ

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本編【第一章】

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自室に戻ると侮られた悔しさと襲われかけた恐ろしさで、再び涙が溢れてくる。

「カリーナ様、大丈夫ですか?」

メイドのアンが声をかけて来た。アンはカレンの味方しかいないこの屋敷で、唯一私が心を許せる相手だ。

「ごめんなさい、アン。心配をかけてしまって」
「お嬢様…なぜさきほども本当のことをおっしゃらないのです。それでは誤解されたままではございませんか」

責めるような口調の裏側には私への心配と、カレンの言葉しか聞かない両親への怒りが隠れている。

「アン、ありがとう。いいのよ。どうせ私が何か言ったところで、私の言葉は届かない。でも、あなたがいてくれるだけで、私は救われているのよ。」
「お嬢様…」

そう別にもういいと思っている自分がいるのも確か。両親に信じてもらえなくても、世の中の男性にふしだらな女だと思われても。私だって、男性のことは信じないし、両親には期待していないのだから。

「あーあ。早くこの家から出たいわ。まぁ、嫁ぎ先が見つからない以上、それも無理よね。いっそのこと修道院にでも駆け込もうかしら」

無理に強がったのが悪かったのか、言いながら余計に涙が出てくる。

「カリーナ様…このようなことを申し上げるのは不躾だと承知しておりますが、カリーナ様の方が美しく清廉な女性ですのに、皆は一体どこを見てるのでしょうか」
「ふふ、ありがとう。お世辞でも元気が出たわ」

私が微笑んだのを見てようやく安心したらしい。アンはにこりと笑って言った。

「お世辞ではございません。ところで本日カリーナ様宛に届きました手紙の中に、王宮より舞踏会の招待状がございました。」
「ええ」
「ご出席で準備を進めさせて頂いてよろしゅうございますか」
「断れないのよね?」
「そうですね。よほどのことがない限り難しいかと」
「分かりました。出席します」
「ドレスと宝石はどうなさいますか」
「そうね、ドレスは紺、宝石は真珠で最低限でお願い」
「承知しました」

また、カレンと比べられるのかと思うと暗い気分になる。カレンはきっと華やかな色合いのものを着るだろうから地味なものを着ておけば悪目立ちすることはないはず。

「パートナーはどうなさいますか」
「パートナー?」
「正式な舞踏会ですので…カレン様はおそらくシュナイダー様といらっしゃるかと」
「いいわ、一人で行くわ」
「それはおすすめできません」
「でも…私を正式なパートナーステディとしたい人なんてきっといない。一夜の恋の相手にちょうどいいと思われているような女だもの」
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