それなら、あなたは要りません!

じじ

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ジルラ=エバンドレッド

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伯爵家の娘という私の身分に恋をしたジンは、結婚して5年経ってもまだ私たちの間に子どもができないと分かると、あっさり私のことを捨て去った。
彼の子を身籠った女性が他にできたとのことだった。相手は彼と同じ男爵家の令嬢で私より3つ下だそうだ。ユリアナ=メイビス。それが彼女の名前だった。
その名前に聞き覚えがあった私は、彼に必死で2つのことを説明しようとした。しかし彼は聞く耳を持たず、身一つで私を屋敷から追い出した。
着の身着のままの状態で実家に辿り着いた時、両親は私のことを優しく迎え入れてくれると共に、ウォールド男爵家を制裁すると言ってくれた。でも、私は怒る両親を宥めた。これから自分が幸せに生きることが彼への復讐になることは間違いないと確信していたから。

それから8年。私は30歳になった。この間に私はヨランド伯爵のセオと再婚し、三人のかわいい子どもをもうけた。

それはある日の貴族の集まりのことだった。
社交界デビューの前の子どもも連れて行けるそのパーティに私はセオと四人の子どもと共に出席した。
ガーデンで紅茶を飲んでいるとにやにやしながら、私に気づいたジンがやってきた。セオは私の方をちらっと確認したが、私が強い眼差しで頷き返すと、ニコッと笑って一言だけ言った。
僕の助けが必要ならいつでも言って、と。
ジンは目の前にやってくるなり、横柄な口調で私に声をかけた。

「ひさしぶりだな、ジルラ。どうだ少し話さないか」
「久しぶりね、ジン」

私達は家族から少し離れたところで話し出した。

「お前が伯爵と結婚したと聞いた時は驚いたよ。不妊のお前でも引き取り手があってよかったな。ま、ヨランド伯爵はお前より15も上で、しかもあっちも再婚だから結婚できたんだろうけど。」
「どうかしらね。彼はあなたと違って私の身分に恋する必要がなかったからでしょ。」
「なんだと。ふん。まあ、不妊のお前は再婚先でも子どもができなかったみたいだな。引き取った以上、子どもが作れないからって養子にあたるなよ。」

ジンの言っている意味がわからず、小首を傾げたまま私は尋ねた。

「養子?なんのことかしら。全員私が産んだ子なのだけれど。」
「え。お前の子なのか」
「そうよ。なんでわざわざそう思ったのよ。」
「俺と結婚してた時は妊娠しなかっただろ。それに一番上の男の子、どう見たってお前にも、ヨランド伯爵にも全くにてない。お前は金髪、伯爵は茶髪だろ。でもあの子は銀髪だ。」
「そうね」
「それに顔立ちだって似てないだろ。むしろ俺の子だと言う方がしっくりくるくらい…だ。まさか」
「ええ。あなたの子よ。」
「嘘だろ。だってお前出ていく時何も言わなかったじゃないか。」
「だって、言おうとしたらものすごい勢いで話遮られて追い出されたんだもの。怒った両親があなたに手紙だしたら、私に関わる全てのことと自分は無関係だっていう手紙まで寄越したじゃない。」
「でも、子どものことは書いてなかったはずだ。」
「そう?妊娠してるかもしれないって書いてたはずたけど?あなたのことだから私が身籠るはずないって、勝手に思い込んだんでしょ」
「そんな」
「それにね。あなたの家族のことを言うのは気が引けるのだけれど…ユリアナさんはね、当時けっこう噂になってたのよ。」

にこりと微笑むとジンは引き攣った顔でこちらを見てきた。

「噂ってどんな?」
「言ってしまっても大丈夫かしら。倒れない?」

わざとらしく聞いてやると、怒りに満ちた様子で答えた。

「早く言えよ。」
「ユリアナさんね、あの当時、とある子爵家の既婚の方ともお付き合いされていたのよ」
「そんな」
「女性のサロンではそこそこ有名だったわよ。ご主人の浮気を知った子爵家の奥様が子を堕ろすか他の男性と結婚して、その男の子どもとして育てるか選べって、ユリアナさんにいわれたそうよ。」
「まさか。そんな、なんで言ってくれなかったんだ。」
「言おうとしたのに聞いてくれなかったもの。あなたとあなたの子こそ似てないんじゃないかしら。でも、子どもに罪はないんだし、子どもに辛く当たるなってあなたが仰ったばかりだから大丈夫よね?」
「そんな」

絶句しているジンに私は更に言い募った。

「あのね、そもそも子どもができにくい理由をなんで私にばかり求めたの?」
「そんなのお前が女だから…」
「ええ、きっとそうだろうと思ってた。でもね、セオは私が子どもが出来づらい体かもしれないと言ったら、笑って言ってくれたのよ。身籠ることができない責任が女性にしかないのなら男なんてそもそも不要だよ、って。」
「…」
「まぁ、セオと結婚したら続けて子宝に恵まれたから私としては幸運だったけど。あなたの方はユリアナさんとの間に子どもができなかったみたいね。セオの言ってたことは正しかったようね」
「それなら」
「なにかしら」
「それなら、俺との間にできた一番上の子をこっちに渡せ。どうせヨランド伯爵と血の繋がりがないんだ。冷遇されてるだろ」

私はびっくりして一瞬目を丸くしたが、次の瞬間ジンのあまりの馬鹿さ加減に笑ってしまった。この男の機嫌にビクビクしていた過去の自分が信じられない。

「まさか。セオはとても公平よ。レイルのことも他の子と同様に可愛がり叱ってくれる。あなたのところに行くより、私達と暮らす方が幸せだと分かってるのに、手放すわけないでしょ?」
「でも俺の子だ」
「手紙の件忘れたの?実父が父権を放棄したあの手紙でもって、正式にレイルはヨランド伯爵家の第一子となってるのよ。いいじゃない。レイルだってあなたのこと知ってるけど、興味ないみたいだし、あなたにはかわいい奥さんの子がいる。」
「でも、マリーは俺の子じゃない!」
「知らないわよ、そんなこと。その言い合いはユリアナさんとすべきで私は関係ないでしょ?」
「でも…」
「それにね、マリーちゃんのこと8年間可愛がってきたんでしょ?大事にしてあげなさいよ、子どもに罪はないんだから」
「…」

絶句するジンにそろそろ別れの挨拶をしようとした時、項垂れたまま絞り出すような声でジンは言ってきた。

「申し訳なかった。ユリアナとは別れる。だから君たちも僕のもとに戻ってきてくれないか」

あまりの身勝手な発言に笑いそうになると、ジンの後ろから近づいてきていたユリアナと目があった。ジンの声はユリアナに届いていたようで、顔が青ざめている。
私は微笑みながら告げた。


「今が幸せなのに、わざわざ不幸になりいく訳がないじゃない。あなたは、私達にとって存在なのよ。」


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