君の記憶が消えゆく前に

じじ

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「え、昼飯食いに帰ろうって誘いにきたんだけど。どうしたの美弥?」

僕の方が狼狽した声を出したの見て、美弥ははっと我に帰ったようだ。

「あれ、どうしたの、あなた?」

いや、違う。まるで今初めて僕の存在に気付いたようだ。

「さっきのなんだったの」

心臓が早鐘を打つのを止められない。彼女は不思議そうに僕を見ながら小首を傾げた。

「さっきの、って何の話してるの?」

ぞっとして僕は彼女を問い詰めた。昼中の公園の砂場で妻に詰問する日が来るなんて夢にも思わなかった。

「僕を見て悲鳴をあげたじゃないか。まるで不審者を見るかのような目で見て。それで今度はそれを忘れたふり?どういうつもりなんだよ。」

思わず苛ついた僕を心配そうに見つめて彼女は言う。

「あの、ごめんね。本当にわからないのだけれど…私何かした?」

絶句した。そして時計を見て、もう一度背筋が凍る。今は彼女が僕にメールを送ってきていた時間。いや、ここ一週間、僕にメールを送って来なくなった時間だ。

「あのさ、さっき僕のこと知らない人を見る目で見たんだ。覚えてないのかもしれないけれど」

そうだ、あの病気は確か本人は病状を自覚できないんじゃなかったか。

「…」
「って、ごめん。心配しすぎだよな。なんかこの間あんな記事読んだせいで頭から離れなくてさ。ちょっと影響されてんのかも」

頼む。冗談だ、からかったんだ、と言ってくれ。彼女は真剣な様子で考え込む。

「でも、私さっき詩とずっと一緒にいたわ。」
「ああ」
「詩のことちゃんと覚えてた。あなたの勘違いじゃない?」

そんな本当に僕を忘れていたこと自体を覚えていないのか…うそだろ?でもなにか勘違いしただけかもしれないし。
僕は込み上げる不安を必死で飲み込んだ。

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