君の記憶が消えゆく前に

じじ

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金曜日まで、僕の生活に変化はなかった。いや、正確に言うと朝の奇妙な間は続いていたし、お昼休みの日課のラインはなくなっていたが、僕はとくに気にしないように努めていた。彼女の仕事が今の時期、繁忙期だと言うのもある。僕だって繁忙期の時はぼーっとしてしまうこともある。

土曜日の朝、珍しく僕の方が早く起きて、朝食を作った。スクランブルエッグとベーコンを焼いて、妻と娘達を待つ。
いつもより1時間はゆっくり寝ていた妻が起きてきた。

「おはよう!」

いつもどおりだ。変な間もない。ほっとして思わず涙ぐみそうになる自分に驚いた。
気にしていないつもりだったが、どうやらそうでもなかったらしい。

「おはよう、美弥。華と詩も。ご飯できてるよ」

のんびりみんなで朝食をとる。食べ終わってもしばらくみんなで席に着いたまま色々と話しこむ。今週あったことや、来週の予定など。
しばらくして、華と詩がテレビを見たいと騒ぎ出し、リモコンを取りに立つ。30分程はテレビが彼女達の気を引いてくれるだろう。
その間に、僕たちは溜まった洗濯物を回し、朝食に使った食器を洗い、掃除機をかける。

終わった頃に、彼女達は公園に行きたいと騒ぎ出した。やれやれ。
忙しく息つく暇もないが、愛おしい日々。これが幸せなんだろうなと思いながら過ごす日々。

公園で滑り台やブランコを楽しむ姿を眺める。平日なかなかかまってあげられないから今日はゆっくり公園で遊ぶと決めていた。
気がつくと時計が正午を指している。
そろそろ帰って昼ごはんにしようと、砂場で遊んでいる美弥と詩に声をかけることにする。

「美弥、詩帰るよ!昼飯にしよう」

ご飯と聞いて子犬のようにキラキラした目で近づいてくる詩とは対象的に、美弥は訝しそうに僕を見てくる。

「美弥、どうしたの?いつもなら嬉しそうに昼飯の内容聞いてくるのに」

ふざけてるのだろうかと思い、笑いながら近寄って聞くと、彼女の口から小さな悲鳴が漏れた。

「え、なに?」

驚いて僕は自分の背後を振り返る。もしや、後ろに大きな犬か、見るからに変な男がいるとか、そんなんだったらどうしようと思いながら。
まさか、僕自信に悲鳴を上げられているなどとつゆほども思わず。

「なんなの、あなた」

その言葉は、僕に明確に向けられていた。

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