84 / 102
83
しおりを挟む
その様子にアリアナは呆気に取られた。部屋の前でユージンが、額に手を当てて天を仰いでいる。
アリアナが訳もわからず困ったようにケイビスを見ると、覚悟を決めたようにケイビスはアリアナに向き直った。
「私の告白をお聞きいただけますか。」
そして一度深呼吸してから話し出した。
「兄の奥方であられた時からお慕いしておりました。
もちろん兄と仲睦まじく過ごされておいでであれば、この気持ちは一生告げるつもりはございませんでしたが…申し訳ございません」
突然の告白にアリアナはたじろいだ。
「なぜ…」
続く言葉が謝罪の理由を問うものか、自分に好意を抱いた理由を尋ねるものなのか、それとも突然の告白の理由を知るためなのか、アリアナ自身も分からなかった。
ケイビスは聞かれた内容の真意を問うことなく、寂しげに続けた。
「本当はあなたを一目見た時から心奪われていたのです。その美しい真紅の髪も柔らかな美貌も。そして言葉を交わすたびに今度はあなたの内面に惹かれていった。民を思いやる優しさ、思慮深さに。ですが、あなたは兄の妻だった。だからこそこの好意があなたに伝わらないように必死で押し隠しました。
あなたは夫の弟から好意を持たれるようなことを是とされる方ではなかったでしょうから。」
真剣な表情で告げられ、アリアナは思わず赤面する。その様子を見たクレメントが突如喚き出した。
「はっ、やっぱりお前らそう言う関係だったのか。アリアナもケイビスも聖人のような顔をしておきながら…汚らわしい。」
その言葉を聞いたケイビスが静かにクレメントに向き直った。
「私が一方的に慕っていただけだ。アリアナ様は何もご存知ない。それにお前がアリアナ様を大事にしていれば、私は一生この思いを告げることはしなかった。」
そしてアリアナに向き直ると寂しげな笑顔とともにケイビスは告げた。
「私は、一生誰かと添い遂げる気はありません。この公爵領にしてもアリアナ様からお預かりしていると言う認識でございます。アリアナ様が再度ご結婚されました暁にはお返ししたく存じます。それをお伝えしたく…突然の無礼をお許しください。
ただ一つ悔やまれるのは…兄より先にあなたにお会いしたかった。それだけです。お耳汚しの私の思いをお聞きくださり感謝してします。」
そして、クレメントに冷たく告げた。
「二度とゾーイ家の方に関わるな。これ以上迷惑をかけることは許さない。アリアナ様の温情に感謝しながら遠くで悔い改めるんだ。分かったな、次はないぞ」
刺すような冷たい視線を向けられたクレメントはカクカクと頷いた。
「アリアナ様…大変ご無礼をいたしました…」
震えながら謝罪の言葉とともに、クレメントが頭を下げると、ケイビスも一礼した。そして、クレメントを伴って静かに屋敷を後にした。
アリアナが訳もわからず困ったようにケイビスを見ると、覚悟を決めたようにケイビスはアリアナに向き直った。
「私の告白をお聞きいただけますか。」
そして一度深呼吸してから話し出した。
「兄の奥方であられた時からお慕いしておりました。
もちろん兄と仲睦まじく過ごされておいでであれば、この気持ちは一生告げるつもりはございませんでしたが…申し訳ございません」
突然の告白にアリアナはたじろいだ。
「なぜ…」
続く言葉が謝罪の理由を問うものか、自分に好意を抱いた理由を尋ねるものなのか、それとも突然の告白の理由を知るためなのか、アリアナ自身も分からなかった。
ケイビスは聞かれた内容の真意を問うことなく、寂しげに続けた。
「本当はあなたを一目見た時から心奪われていたのです。その美しい真紅の髪も柔らかな美貌も。そして言葉を交わすたびに今度はあなたの内面に惹かれていった。民を思いやる優しさ、思慮深さに。ですが、あなたは兄の妻だった。だからこそこの好意があなたに伝わらないように必死で押し隠しました。
あなたは夫の弟から好意を持たれるようなことを是とされる方ではなかったでしょうから。」
真剣な表情で告げられ、アリアナは思わず赤面する。その様子を見たクレメントが突如喚き出した。
「はっ、やっぱりお前らそう言う関係だったのか。アリアナもケイビスも聖人のような顔をしておきながら…汚らわしい。」
その言葉を聞いたケイビスが静かにクレメントに向き直った。
「私が一方的に慕っていただけだ。アリアナ様は何もご存知ない。それにお前がアリアナ様を大事にしていれば、私は一生この思いを告げることはしなかった。」
そしてアリアナに向き直ると寂しげな笑顔とともにケイビスは告げた。
「私は、一生誰かと添い遂げる気はありません。この公爵領にしてもアリアナ様からお預かりしていると言う認識でございます。アリアナ様が再度ご結婚されました暁にはお返ししたく存じます。それをお伝えしたく…突然の無礼をお許しください。
ただ一つ悔やまれるのは…兄より先にあなたにお会いしたかった。それだけです。お耳汚しの私の思いをお聞きくださり感謝してします。」
そして、クレメントに冷たく告げた。
「二度とゾーイ家の方に関わるな。これ以上迷惑をかけることは許さない。アリアナ様の温情に感謝しながら遠くで悔い改めるんだ。分かったな、次はないぞ」
刺すような冷たい視線を向けられたクレメントはカクカクと頷いた。
「アリアナ様…大変ご無礼をいたしました…」
震えながら謝罪の言葉とともに、クレメントが頭を下げると、ケイビスも一礼した。そして、クレメントを伴って静かに屋敷を後にした。
2
お気に入りに追加
187
あなたにおすすめの小説
後悔だけでしたらどうぞご自由に
風見ゆうみ
恋愛
女好きで有名な国王、アバホカ陛下を婚約者に持つ私、リーシャは陛下から隣国の若き公爵の婚約者の女性と関係をもってしまったと聞かされます。
それだけでなく陛下は私に向かって、その公爵の元に嫁にいけと言いはなったのです。
本来ならば、私がやらなくても良い仕事を寝る間も惜しんで頑張ってきたというのにこの仕打ち。
悔しくてしょうがありませんでしたが、陛下から婚約破棄してもらえるというメリットもあり、隣国の公爵に嫁ぐ事になった私でしたが、公爵家の使用人からは温かく迎えられ、公爵閣下も冷酷というのは噂だけ?
帰ってこいという陛下だけでも面倒ですのに、私や兄を捨てた家族までもが絡んできて…。
※R15は保険です。
※小説家になろうさんでも公開しています。
※名前にちょっと遊び心をくわえています。気になる方はお控え下さい。
※史実とは関係なく、設定もゆるい、ご都合主義です。
※中世ヨーロッパ風で貴族制度はありますが、法律、武器、食べ物などは現代風、もしくはオリジナルです。話を進めるにあたり、都合の良い世界観となっています。
※誤字脱字、見直して気を付けているつもりですが、やはりございます。申し訳ございません。
出来レースだった王太子妃選に落選した公爵令嬢 役立たずと言われ家を飛び出しました でもあれ? 意外に外の世界は快適です
流空サキ
恋愛
王太子妃に選ばれるのは公爵令嬢であるエステルのはずだった。結果のわかっている出来レースの王太子妃選。けれど結果はまさかの敗北。
父からは勘当され、エステルは家を飛び出した。頼ったのは屋敷を出入りする商人のクレト・ロエラだった。
無一文のエステルはクレトの勧めるままに彼の邸で暮らし始める。それまでほとんど外に出たことのなかったエステルが初めて目にする外の世界。クレトのもとで仕事をしながら過ごすうち、恩人だった彼のことが次第に気になりはじめて……。
純真な公爵令嬢と、ある秘密を持つ商人との恋愛譚。
悪役令息、拾いました~捨てられた公爵令嬢の薬屋経営~
山夜みい
恋愛
「僕が病気で苦しんでいる時に君は呑気に魔法薬の研究か。良いご身分だな、ラピス。ここに居るシルルは僕のために毎日聖水を浴びて神に祈りを捧げてくれたというのに、君にはがっかりだ。もう別れよう」
婚約者のために薬を作っていたラピスはようやく完治した婚約者に毒を盛っていた濡れ衣を着せられ、婚約破棄を告げられる。公爵家の力でどうにか断罪を回避したラピスは男に愛想を尽かし、家を出ることにした。
「もううんざり! 私、自由にさせてもらうわ」
ラピスはかねてからの夢だった薬屋を開くが、毒を盛った噂が広まったラピスの薬など誰も買おうとしない。
そんな時、彼女は店の前で倒れていた男を拾う。
それは『毒花の君』と呼ばれる、凶暴で女好きと噂のジャック・バランだった。
バラン家はラピスの生家であるツァーリ家とは犬猿の仲。
治療だけして出て行ってもらおうと思っていたのだが、ジャックはなぜか店の前に居着いてしまって……。
「お前、私の犬になりなさいよ」
「誰がなるかボケェ……おい、風呂入ったのか。服を脱ぎ散らかすな馬鹿!」
「お腹空いた。ご飯作って」
これは、私生活ダメダメだけど気が強い公爵令嬢と、
凶暴で不良の世話焼きなヤンデレ令息が二人で幸せになる話。
愛を求めることはやめましたので、ご安心いただけますと幸いです!
風見ゆうみ
恋愛
わたしの婚約者はレンジロード・ブロフコス侯爵令息。彼に愛されたくて、自分なりに努力してきたつもりだった。でも、彼には昔から好きな人がいた。
結婚式当日、レンジロード様から「君も知っていると思うが、私には愛する女性がいる。君と結婚しても、彼女のことを忘れたくないから忘れない。そして、私と君の結婚式を彼女に見られたくない」と言われ、結婚式を中止にするためにと階段から突き落とされてしまう。
レンジロード様に突き落とされたと訴えても、信じてくれる人は少数だけ。レンジロード様はわたしが階段を踏み外したと言う上に、わたしには話を合わせろと言う。
こんな人のどこが良かったのかしら???
家族に相談し、離婚に向けて動き出すわたしだったが、わたしの変化に気がついたレンジロード様が、なぜかわたしにかまうようになり――
辺境の獣医令嬢〜婚約者を妹に奪われた伯爵令嬢ですが、辺境で獣医になって可愛い神獣たちと楽しくやってます〜
津ヶ谷
恋愛
ラース・ナイゲールはローラン王国の伯爵令嬢である。
次期公爵との婚約も決まっていた。
しかし、突然に婚約破棄を言い渡される。
次期公爵の新たな婚約者は妹のミーシャだった。
そう、妹に婚約者を奪われたのである。
そんなラースだったが、気持ちを新たに次期辺境伯様との婚約が決まった。
そして、王国の辺境の地でラースは持ち前の医学知識と治癒魔法を活かし、獣医となるのだった。
次々と魔獣や神獣を治していくラースは、魔物たちに気に入られて楽しく過ごすこととなる。
これは、辺境の獣医令嬢と呼ばれるラースが新たな幸せを掴む物語。
侯爵家のお飾り妻をやめたら、王太子様からの溺愛が始まりました。
二位関りをん
恋愛
子爵令嬢メアリーが侯爵家当主ウィルソンに嫁いで、はや1年。その間挨拶くらいしか会話は無く、夜の営みも無かった。
そんな中ウィルソンから子供が出来たと語る男爵令嬢アンナを愛人として迎えたいと言われたメアリーはショックを受ける。しかもアンナはウィルソンにメアリーを陥れる嘘を付き、ウィルソンはそれを信じていたのだった。
ある日、色々あって職業案内所へ訪れたメアリーは秒速で王宮の女官に合格。結婚生活は1年を過ぎ、離婚成立の条件も整っていたため、メアリーは思い切ってウィルソンに離婚届をつきつけた。
そして王宮の女官になったメアリーは、王太子レアードからある提案を受けて……?
※世界観などゆるゆるです。温かい目で見てください
断罪されてムカついたので、その場の勢いで騎士様にプロポーズかましたら、逃げれんようなった…
甘寧
恋愛
主人公リーゼは、婚約者であるロドルフ殿下に婚約破棄を告げられた。その傍らには、アリアナと言う子爵令嬢が勝ち誇った様にほくそ笑んでいた。
身に覚えのない罪を着せられ断罪され、頭に来たリーゼはロドルフの叔父にあたる騎士団長のウィルフレッドとその場の勢いだけで婚約してしまう。
だが、それはウィルフレッドもその場の勢いだと分かってのこと。すぐにでも婚約は撤回するつもりでいたのに、ウィルフレッドはそれを許してくれなくて…!?
利用した人物は、ドSで自分勝手で最低な団長様だったと後悔するリーゼだったが、傍から見れば過保護で執着心の強い団長様と言う印象。
周りは生暖かい目で二人を応援しているが、どうにも面白くないと思う者もいて…
完結 冗談で済ますつもりでしょうが、そうはいきません。
音爽(ネソウ)
恋愛
王子の幼馴染はいつもわがまま放題。それを放置する。
結婚式でもやらかして私の挙式はメチャクチャに
「ほんの冗談さ」と王子は軽くあしらうが、そこに一人の男性が現れて……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる