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ゾーイの屋敷に着くと心配そうな顔をした両親がアリアナを出迎えた。

母のローズは手ずから温かいミルクティーを淹れて、アリアナの前に置いた。
ふわりと香るシナモンに、アリアナは実家に帰ってきたのだ、と張り詰めていた緊張の糸が切れるのが分かった。
一口飲むと、優しい味わいが口の中に広がる。
何があったのか聞くに聞けない様子の両親に、アリアナは自ら口火を切った。

「クレメント様と昨日、離縁致しました。」
「え?」
「なんで…」

両親が驚愕の表情を浮かべるのを見て、アリアナは申し訳ない気持ちになる。
誰よりも娘の幸せを望んでくれた二人に、こんな表情を浮かべさせることになったクレメントが憎らしい。

「その…クレメント様はやはり赤毛がお嫌いだったそうで…私のお金が目当てだったみたいです。」
「そんな…君のその赤い髪の美しさを理解している人物だと思ったから結婚を許したというのに…すまない。」
「そんな。私が望んだことです」
「だが、私も彼には出会っている。この目で彼の人となりを見、彼の言葉に耳を傾けたうえで信じてしまったのだ。すまないアリアナ。君を傷つけてしまった…」
「お父様が謝られることでは…」
「それでどのように後悔させますか?」
「「え?」」

それまで黙って聞いていたローズの突然の発言に、アリアナとビンセントは驚いたようにローズの方を見る。
二人に見つめられてローズは、もう一度繰り返した。

「クレメントをどのように後悔させましょうか」
「ローズ?どうしたんだ…」
「あら、私たちの自慢の娘が顔だけの男に虚仮にされたのよ?自らの愚かさを身をもって知らせるべきでしょう?」

さも当然の如く言い切るローズにアリアナは震えた。
穏やかで優しく美しいローズは普段は女神の生まれ変わりと言われても信じそうな人物だ。
しかし、自分の大切な人間に悪意が向けられると誰よりも容赦ない修羅となることを親しい人間は知っている。

「あの、お母様?」
「ハンゼ公爵領を奪おうかしら?それとも借金づけにして、労働奉仕者にしてやろうかしら。
私、騙されたとか、親の肩代わりにされたとかで労働奉仕者になる人は無くすべきだともちろん思ってるんだけれど、こう言う人を平気で傷つけるような奴だけがなるなら別に反対じゃないのよね」

過激なローズの言葉にビンセントは呆気にとられている。
しかし、アリアナは自分の考え方が母と全く同じだったことに思わず苦笑いをしてしまった。
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