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「とても美しい色だと思いますよ」

淡々とした様子で言われ、アリアナは驚いた。

「あの、ありがとうございます」
「いえ。もちろん赤い髪で苦労されたことも多いかとは思いますが、私の個人的見解としては髪の色など些末な問題です」

赤毛を瑣末な問題と言われ、アリアナは思わず尋ねた。

「クルーゼ人が公爵家の中に入ることも瑣末な問題でしょうか」

ちらっとアリアナを一瞥した後、ケイビスはため息をついて答えた。

「本気でおっしゃってるのであればアリアナ嬢も存外普通の女性ですね。私はもっと聡明な方かと勝手に思っていました」
「え?」
「髪色でクルーゼだのフォレスティアだの。血の混じった今となっては、誰にも等しく起こり得る先祖返りでしょう。髪の色など気にいらなければ、染めれば済むことです」
「ふふ、確かに。髪色でハンゼ公爵家の方々に迷惑がかからないか心配だったのです。」
「言いたいやつには言わせておけばいかがです?美しさの基準など見る人間によって異なるのですから。」
「ありがとうございます」
「いえ。あまり私と話し込んでいては兄の不興を買いかねません。それでは失礼します。」

今度こそケイビスは一礼して去っていった。アリアナは同じ兄弟でありながらクレメントとのあまりの違いに驚き思わず呟いた。

「確かにまともだわ…」
「何がまともなんですか?」

急に声をかけられて、アリアナは内心飛び上がりそうなほど驚いた。
振り返ると、後ろにはいつしかアリアナの悪口でクレメントと盛り上がっていたジッドがいた。

「まあ!驚きましたわジッド様」
「急にお声がけして驚かせてしまいましたか、アリアナ嬢」
「いいえ。今からクレメン様のもとへ伺うのですが、ジッド様は本日はどうされたのですか」
「ああ、大した用ではないのですが、クレメントに先ほどまで呼ばれていたのですよ。ところがそろそろアリアナ嬢が来るから帰れ、と。全く人使いの荒い友人です」
「そうでしたか」
「それで、アリアナ嬢の独り言はどのような意味だったのでしょう?」

アリアナはジッドを見て、一瞬考え込んだ。どうやらケイビスと話しているところは見ていなかったようだとあたりをつけて、アリアナは微笑んで答えた。

「特に深い意味はございません。少し考えごとをしていたもので…思わず一人ごとを言っていたようです」

それを聞いてジッドは不敵に笑った。

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