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アリアナが勢いよく名乗りを上げたことに、ビンセントは驚いた様子だったが、すぐに得心がいったらしく鷹揚に頷いた。
「そうだね、アリアナはゾーイ商会で塩の売買に携わっていたし、君が取り扱うなら塩鑑札もすでにもっているしね」
「ええ。だから、私がやります。」
「分かった。塩の値付けとかは今まで通りにできるかい」
「大丈夫です。ただお父様に一つお願いがあるのですが」
「なんだい?」
「塩の買値と売値を今のものから変えたいのです」
「ふむ。なぜだい?」
「塩は生活必需品ですが、現在の価格では一番安い物でも手が届かない人もいるでしょう?そういった状況を改善したくて…庶民向けの物については売値を下げたいのです」
「それは私も思っていたが…だが、そうなると買値を叩くことになってしまう」
「ええ。ですから、逆に買値は今より上乗せしようと思っています」
「なに?しかし、それは流石に難しいだろう」
「利益の問題でしょうか」
「そうだな。」
「ええ、ゾーイ商会で扱う以上難しかったと思います」
にこりとアリアナが微笑むとビンセントは一瞬の後に破顔した。
「なるほど、アリアナは我が商会のことをよく分かっているね。それにユージンへの信頼も厚い。彼には口先だけにならないようにいっておこう」
「ありがとうございます、お父さま」
愉快そうに声をあげて笑ったビンセントを見てアリアナはほっと胸を撫で下ろした。
食後、自室に戻る途中にメイドのベスが不思議そうにアリアナに尋ねてきた。
「お嬢様、お聞きしてもよろしいでしょうか」
「なあに?」
「先ほどの塩の件、どういうことだったのでしょう」
「ああ。あなたも携わってくれてたから他人事ではないわよね。結婚祝いにゾーイ商会で扱ってた塩の売買権をもらうのよ」
「はい。ですが商会からハンゼ公爵家にうつったからと言って…もしや」
「ええ。商会の時ほど、利益率を気にする必要がないからよ。公爵家は確かに裕福とは言えないけれど、300エラン以上を月に稼ぎ続ける必要はないでしょう。と言っても慈善事業ではないから利益が200エラン以上は出るように調整するけどね。」
「なるほど」
「それにね、塩は商会を支える柱だった。塩の稼ぎによって、需要が少ない物でも供給できるように仕入れたりしてたのよ。」
「それでは…」
「でも、ユージンがそんな塩を譲ると言ってくれた。おそらく他にあてがあるのでしょう。塩に変わる柱となるものが。だから心配しなくて大丈夫よ。今までの分、みなさんにお返しすると言ったところかしら」
「お嬢様…クレメント様はお嬢様とご結婚できて幸せでございますね」
瞳を潤ませながら言うベスを見て、アリアナは苦笑いをするのだった。
「そうだね、アリアナはゾーイ商会で塩の売買に携わっていたし、君が取り扱うなら塩鑑札もすでにもっているしね」
「ええ。だから、私がやります。」
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「大丈夫です。ただお父様に一つお願いがあるのですが」
「なんだい?」
「塩の買値と売値を今のものから変えたいのです」
「ふむ。なぜだい?」
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「それは私も思っていたが…だが、そうなると買値を叩くことになってしまう」
「ええ。ですから、逆に買値は今より上乗せしようと思っています」
「なに?しかし、それは流石に難しいだろう」
「利益の問題でしょうか」
「そうだな。」
「ええ、ゾーイ商会で扱う以上難しかったと思います」
にこりとアリアナが微笑むとビンセントは一瞬の後に破顔した。
「なるほど、アリアナは我が商会のことをよく分かっているね。それにユージンへの信頼も厚い。彼には口先だけにならないようにいっておこう」
「ありがとうございます、お父さま」
愉快そうに声をあげて笑ったビンセントを見てアリアナはほっと胸を撫で下ろした。
食後、自室に戻る途中にメイドのベスが不思議そうにアリアナに尋ねてきた。
「お嬢様、お聞きしてもよろしいでしょうか」
「なあに?」
「先ほどの塩の件、どういうことだったのでしょう」
「ああ。あなたも携わってくれてたから他人事ではないわよね。結婚祝いにゾーイ商会で扱ってた塩の売買権をもらうのよ」
「はい。ですが商会からハンゼ公爵家にうつったからと言って…もしや」
「ええ。商会の時ほど、利益率を気にする必要がないからよ。公爵家は確かに裕福とは言えないけれど、300エラン以上を月に稼ぎ続ける必要はないでしょう。と言っても慈善事業ではないから利益が200エラン以上は出るように調整するけどね。」
「なるほど」
「それにね、塩は商会を支える柱だった。塩の稼ぎによって、需要が少ない物でも供給できるように仕入れたりしてたのよ。」
「それでは…」
「でも、ユージンがそんな塩を譲ると言ってくれた。おそらく他にあてがあるのでしょう。塩に変わる柱となるものが。だから心配しなくて大丈夫よ。今までの分、みなさんにお返しすると言ったところかしら」
「お嬢様…クレメント様はお嬢様とご結婚できて幸せでございますね」
瞳を潤ませながら言うベスを見て、アリアナは苦笑いをするのだった。
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